知らない事だらけ
「あの、馬券当たったんですよね」
遥は興奮気味のゆりに声をかける。
「当たったわよ、単勝2000円!オッズは4.5倍だから9000円になったわ」
ゆりがホットドックをかじりながら満面の笑みで答える。
「え、たったの数分でそんなに儲かるんですか!三鷹さんは馬券のプロの方なんですか」
「まぁプロというほどではないけれど。ちょっとした美少女馬券師ではあるかもね」
遥の驚きの表情と畏敬の眼差しにゆりは気分を良くし調子に乗って答える。
「美少女?三鷹さんはたしかにお美しいですけど定義上美少女というのは・・・・・・・」
遥の表情が素に戻ったのに気付きゆりは「意外と細かいとこ気にするわね」と思いつつコホンと軽く咳ばらいをした。
「ところで三鷹さんさっき、たてゆけたてゆけって連呼されていましたけど当てるための呪文かなんかですか」
遥が疑問を口にする。
「ああ、あれね。あの馬に乗っていた騎手は盾さんっていうの。盾剣騎手は日本のナンバーワンジョッキーなのよ」
「乗っていた方の名前なんですね。何事かと思いました。本当に知らない事だらけですいません」
「小金井さん」
ビシッと遥を指差しゆりは続けて言った。
「真面目なのはすごくいい事だと思うけどすぐ何でもかんでも謝っちゃだめよ。癖になるから、ね」
先ほどまで両手を振り回し絶叫していたことなど忘れたかのように優しく遥をたしなめる。
「あ、すいま・・・・・・いえ、ありがとうございます。気を付けます」
遥の朗らかな笑顔に「良い子だなぁ」とゆりは思うのだった。
遥がホットドッグを食べ終わるのを見て
「じゃあそろそろ換金に行きましょうか。しかし最近盾騎手追えないから心配していたんだけど完璧な騎乗だったわね」
ドリンクを飲み干し、ちょっと含み笑いを漏らしながらゆりが言う。
「え、換金ってもう換金できるんですか!」
またも遥が驚く。
「そうよ。だいたい5分もすればレース確定するから。すぐ換金できるのよ」
「へー、すっごくハイテクなんですね」
ゆりは「二歳しか変わらないになんか妙に発言が古臭いなぁ」と思うのだった。
席を片付け残ったポテトを食べ歩きながら自動券売機へ向かう二人。
「三鷹さんはまた次のレースも馬券買われるんですか?」
「うーん、今日は馬券は二の次ね。さっきの儲けで買い食いしながら競馬場散策と洒落こみましょう、ね」
ゆりは軽くウインクをして遥に微笑んだ。
「ちょっと待っていてね」
ゆりはそう言うと券売機へ換金をしにいく。
遥は換金するゆりを見て「機械で換金するんだ、ハイテクだなぁ」と再び思うのだった。
「最近は馬券買ってレース見てばっかりで、ゆっくり競馬場見学するのは久しぶりね」
「そうなんですか。そういえばさっきのレースとかって有馬記念とかなんですか?」
ゆりは「え、いったい何をいっているのかしらこの子」という表情をした。
だが自分も競馬を始めた時は何も知らなかったことを思い出し、思わず噴き出した。
「そうね。そりゃいきなり連れてこられたんじゃ何もわからないわよね」
目の涙をぬぐいながらゆりは言う。
「中央競馬って基本毎週、土日に開催されているのよ。で一日に12レース行うの」
「え、今日だけで12回もレースするんですか!」
また遥は驚く。
「今日はもう4レース終わったからあと8レースね。お昼休み除くとだいたい30分に1レースってところね」
「で、今日は三場開催だから全部で36レースあるのよ」
「え、え、え。え?12レースじゃなくてですか?」
この人何を言っているんだろうという表情を遥はする。
なんにでも驚いてかわいいなぁと思いつつ、ゆりは言う。
「大雑把に言うと午前10時から16時半までの間に一つの競馬場で12レース行うのよ。で今日はここ東京競馬場と京都競馬場と福島競馬場で開催しているから全部で36レースってことになるわね」
「へぇー競馬場っていっぱいあるんですね。私知りませんでした」
勉強になりますって顔で遥がメモを取り始めた。
「でもびっくりしました。ここで36レースもするのかと思っちゃいました」
「馬の準備もあるしね。そこまではないわよ」
「いやぁ、私びっくりしました。今日馬券が買えるのはここで行われる12レースだけって事ですね。36レースも馬券の予想するのかと思ってびっくりしちゃいました」
遥は競馬のルールを理解し始めたような感じになってきた。
「計算上10分に1レースって事ですもんね。いくらなんでもそんなに馬券買えるわけないですもんね」
「え、買えるし買うわよ私」
ゆりはさも当然のように答える。
「え・・・・・・。三鷹さんみたいなプロの方は大変・・・・・・ですね」
遥は仕事しているほうが楽なんじゃないかと思うのだった。