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阿賀野川特別

「夏休み、どこか行きますか?」

 8月9日の業務終了後にカフェで遥から声をかけられたゆりは戸惑った。

 今年の夏はもう暑くて暑くて何かする気が全く起きないからだ。

 なんとか夏休みに滑り込んであとは自宅でグダグダと過ごす事しか考えていなかったからだ。

「もう今から予定立ててもバタバタするだけじゃない?今年はゆっくり過ごすのが吉よ。なんか関東に台風来る予感がするし」

 基本出不精のゆりは本当にどこにも行きたくないのでサラっと流して例に任せる方針にした。

「怜はどこかいくのぉ?」

「え、私?いや今年は特に予定ないんだよねぇ。サーフィンとか行きたいんだけどねぇ」

「遥ちゃん、じゃあ怜とサーフインでも行ってきなさいな」

 ゆりは丸投げである。

「新潟行きましょう、新潟!」

 違うそうじゃないとばかりに遥が言う。

「善臣さんのピースワンデュックが8月18日の阿賀野川特別に出走するんですよ、ちょっと楽しみじゃないですか?」

 遥がウキウキと言う。

「えー、そんなので遠征するの?」 

 ゆりと怜は同時に異口同音に応える。

「いやいや、三連勝で菊花賞出走がかかった大一番ですよ、現地観戦しかないじゃないですか」

 ちょっとさすがにそれで新潟まで付き合うのはイヤだなぁと思ったゆりは言う。

「わかった。じゃ菊花賞出走が決まったらみんなで京都競馬場行きましょう」

 はい、これでこの話は終わり!という感じでゆりは言う。

「え、まぁそれなら・・・」

 仕方なく遥は妥協した。


 そして迎えた8月18日。

 明日から本格的に仕事再開という事で各々自宅で競馬観戦をしていた。

 「今日は柴田善臣騎手、絶好調ですよ!2週間のお休み効果ですかねぇ。伝統芸止まりだったキャルベイクルーズを3着に持ってきましたから阿賀野川特別も確勝ですよ。阿賀野川の流れる阿賀野市にはラムサール条約登録湿地の瓢湖っていう白鳥のメッカがあるんですよ」

 チャット画面から遥が力説する。

「え、それがどうかしたの、遥ちゃん」

 ゆりは遥が何を言っているのか全く分からなくて質問してします。

 怜も画面越しに同意してウンウンとうなずく。

「だってピースワンデュックの馬名にスワンが隠れているんですよ、もうこれは強力なサインですよ」

 もう、なんでわからないかなという感じで遥がむくれて答える。

「なるほどねー、なるほど」

 怜がとりあえず相槌を打つ。

「見ていてください、必ず勝って菊花賞出走決めますから」

 力強く遥は言うのであった。


 レースが始まった。

 ピースワンデュックはいつものように好スタートを・・・決めない。出負けした。

「ギャー」

 遥が思わずうなる。

 その後も外から来た馬に被されて、驚くようにバタバタと内に進路を取る。

 「これはまずいんじゃないかなぁ」とゆりは思った。菊花賞を見に行くことに異存はないがこのレースは厳しいと踏んだ。カワイイ後輩が顔面蒼白なだけに何とかして欲しいところだが。

 だが鞍上柴田善臣は冷静にグイっと更に内に進路を取る。

 折り合いは欠いていたが強引に前に進める。

 他の馬の後に付けて折り合いはなんとかついた。前目の位置につけ体勢を整える。

 2戦目、3戦目は逃げて勝利を上げただけに遥の心中も穏やかではない。

 未知数とはいえ、果たして先行抜け出しの競馬が出来るのか遥はドキドキだ。

 「ホットシークレット様、ホットシークレット様助けて!」両手を握り合わせて遥は祈る。

 本来逃げ馬の彼を柴田善臣騎手は目黒記念で中段待機させたのだが、ファンの悲鳴をよそに見事差し切り勝ちを収めた名馬だ。

 柴田善臣とピースワンデュックは5番手でレースを進め、直線最高のタイミングで抜け出しを図る。

 伸び脚は悪くない、柴田善臣が右ムチを振るのに応え末脚を懸命に伸ばす。

 だが内で先行するサトノシュトラーセを捕らえられない。そして1番人気バッデレイトとも並走するが抜けない、抜けない。

 だがゴール寸前ピースワンデュックはバッデレイトとともにサトノシュトラーセを退けるがバッドレイトを交わせない。

 「ああー、ああー」

 ゴール前差せなかったと判断した痛な叫びを上げる遥を画面越しにゆりは見守るしかない。

「次セントライト記念で出走権取ればいいんだから、ね」

 ゆりは速攻慰めモードだ。

「悔しいです、もう少しだったのに」

 遥は悔しそうに言う。

「最後交わしたろ?大丈夫だよ」

「いや、どう見ても一歩及んでなかったと思います」

「私の動体視力を信じろ、ゴール寸前差したよ、ハナ差で」

 怜が冷静に答える。

 そして・・・・・・写真判定の結果はピースワンデュックが1着であった。

「やった、やりました。これで念願の菊花賞です」

 遥は思わず小さくガッツポーズをする。なかなか有力馬に乗る機会のない柴田善臣騎手のファンなだけに、涙をこぼすほどではないが感慨深いようだ。

「よかったわねぇ、遥ちゃん」

「はい、じゃあ10月19日土曜日の午前の新幹線と宿押さえておきますから」

 キリっとちょっとだけ敏腕お仕事モードに切り替える。

「はい・・・・・・」

「おぅ・・・・・・」

「お宿、少し奮発して良いところにします?」

 今日は重賞が二場であるのだが、そんな事は気にもせず遥は心躍らせて10月20日の菊花賞参戦への準備を進めるのであった。

 

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