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after two years 有馬記念 口は災いの元

 12月23日金曜日の夜、遥と怜はやや強引に定時に仕事を終えて喫茶店にいた。


「今年の有馬記念はイクイノックスかタイトルホルダーで決まりかね」

 怜が本命視される二頭の馬名をつまらなそうにあげてブラックコーヒーをすする。

「怜先輩、元々堅い馬券しか買わないからそれでいいじゃないですか?」

 遥は生姜の香りのするラテを、おいしそうに一口飲む。

「いや、そうはいってもだな・・・」

 怜は毎年、お堅めの馬券で馬券回収率100%を超えているのだが今年はどうにも調子が良くない。

 なんせ今年の平地G1は2歳G1を除くと一番人気は20戦1勝・・・勝ったのは秋の天皇賞のイクイノックスだけだからだ。


「またイクイノックスに勝ってもらえばいいじゃないですか」

「うーん、中山合うかな?なんか合わない気がするんだよな」

「そんな事ないと思いますよ、右の小回りはしっかり走ると思います、どっちかというと距離の方が気になりますけどね」

 遥がジオグリフの2着に敗れた皐月賞の走りを思い出しながら言葉を返す。

「皐月賞、普通ならあれは直線押し切って完勝の流れですよ」

 遥が続けて言う。

「うーん、でもジオグリフなんかに差されたからなぁ、完敗じゃないか」

 首を捻りながら、怜は眉間にしわを寄せる。


「それはそうとゆり先輩、遅いですねぇ」

 遥がまだ合流できないゆりを気にかける。

「ん、あいつ真面目だからなぁ。もう来週にでもやればいいのにな」

 それなりに残務はあるのだが、怜は見極めをつけて本日は定時退社だ。

 要領の悪かった遥も、すっかり慣れたもので、課長の「もう仕事残ってないのか?」の声ににっこり笑顔の定時退社だ。

「来週の私たち、結構優秀ですからね、頑張ってもらいましょう」

 遥が微笑む。


「お待たせぇ」

 そんなことを言っていると、キャラメルのにおいが香ばしいラテを片手にゆりが席にやってきた。

「遅ぇよ」

 何の気遣いもなく怜が応える。

「酷い。そっちはちゃんと仕事終わらせてきたの?休み前に仕事終わらせるのは社会人の義務よ」

 ちょっとむすっとした表情でゆりが言葉を投げ返す。

「いいんだよ、どうせ来週おまけの三日間あるんだから。おまえはさ、今日仕事しっかり終わらせて来週やることあんのかよ」

「え・・・・・・」

 ゆりが少し考え込む。

「あんまし無いわね・・・・・・」

「もう、お前さ、有能なんだか無能なんだかはっきりしろよ。」

「ま、怜先輩。ゆり先輩はエイシンフラッシュ系なんでご容赦してください」

 遥は人気ではあまり勝たず、7番人気でダービー、5番人気で天皇賞秋を勝った名馬を引き合いに出す。


「ゆり先輩は有馬記念、本命決まったんですか」

 遥が強引に話を戻す。

「そうね・・・武騎手のアリストテレスでいいんじゃないかしら、波乱の2022年締めくくるのは武騎手しかいないわね」

 武信者のゆりが人気薄の名をあげる。

「いや、いくら何でもないだろ」

 即座に怜が突っこむ。

「まぁ確率はともかく可能性だけだったらありますけど・・・・・・」

 ゆり信者の遥も怪訝な顔をする。

「嘘、嘘。ちょっと忙しくてまともに馬柱見てないのよ、遥ちゃん、東スポ貸して」

 遥はカバンから東スポのを取り出し、ゆりに手渡す。

 ゆりは受け取るとガサゴソと競馬欄を抜き取ると有馬記念の馬柱に集中する。

 

「あれ?いつ買ったのさ」

「得意先行くついでに買って来ました」

「お前、ちゃんと営業自体はしてるよなぁ???得意先に行くときにカバンに東スポ入れているなんて最悪じゃないか。いつもそんな事してるんじゃないだろうな」

 怜が凄む。仕事に関して大変真面目なのだ。

「いやいや、今日だけです、今日だけ、ハイ」

 慌てふためいて遥が謝る。「余計な口滑らしちゃったなぁ」と思いつつ。


「今年は馬場どうなのかしらね。力勝負になったら去年勝ったエフフォーリアも怖いわね」

「お、ゆりはエフフォーリア御指名か?」

「うーん、どうかしらね。でも大阪杯と宝塚記念は遠征が原因で負けただけという考えは持っておいた方がいいかもね。中山G1二戦二勝というのは舐めてかかれない実績ね」

「さすがです、ゆり先輩の慧眼誠に素晴らしいと思います」

 遥が即座に相槌を打つ。


「なんで、これで馬券勝てないんだろうな」

 怜が薄ら笑いを浮かべる。

「うるさいわね。まぁ今年はイクイノックスを連軸に勝つわよ」

 ゆりは本命をイクイノックスにしたようだ。


「エフフォーリアじゃないんだ」

「ええ、イクイノックスはあのミスター安定感のキタサンブラックの後継馬。どんな条件でも連は外さない競馬をすると思うわ・・・・・・出来たら鞍上は武騎手の方が。今からでも乗り替わり出来ないかしらね」

 ゆりが出走二日前に無理なことを言う。

「遥ちゃんはイクイノックスどう思う?」

「うーん、私はちょっと距離適性に不安がある気がしています。小回りの中山ですし全く持たないってことはないと思うんですけど・・・・・・」

「そっか、まぁキタサンブラック自体サクラバクシンオーの血が入っててよく天皇賞春勝てたなぁと当時思ったしね。手広くボックスがいいかしらね」

 ゆりは少し温度感を下げるようだ。


「ところで、遥ちゃんの本命(ゆめ)は何にしたの?」

 ゆりが微笑みながら尋ねる。

「はい、私の夢は柴田善臣騎手とサンアップルトンです。今年こそは昨年の雪辱を晴らすべく我らが関東の総大将が・・・・・・」

「出てねぇよ」

 バシッ!と怜がカバンから東スポを取り出し丸めて頭をはたく。


「あれ、先輩。なんでいつ東スポを・・・・・・」

 遥が涙目で訴える。

「何か?」

 なんか文句あるのか?といった表情で怜は遥を見据える。

「いえ・・・」

 遥は「これだから体育会系は・・・・・・」と思いながらも、すごすごと引き下がるのだった。


「私はジャスティンパレスとイクイノックスのワイドで勝負します」

 気を取り直した遥は力強く宣言する。

「中山G1二着馬ですし、距離はこのくらいの方がいいと思うんですよね。今回は何といってもマーカンド騎手。追える外国人騎手で末脚の魅力倍増です」

 遥はウキウキと答える。

「遥ちゃんもイクイノックスは堅いと見ているのね、私はイクイノックス、エフフォーリア、タイトルホルダーのボックスで考えてみようかな」

 ゆりもおおよその馬券構想が定まったようだ。

「じゃあ、私はイクイノックスから単勝と人気どころに流してみるか」

 怜は今年の負けを一気に取り返すのは諦めて、有馬記念も自分のスタイルを貫き通して勝負することに決めたようだ。


「先輩達と違ってまだまだ若手社員の私としては、ボルドグフーシュも含めた3歳勢の活躍に期待したいですね」

 遥がそう言うと左右から二本の東スポがバシっ!バシッ!と頭めがけて飛んできた・・・・・・


「私たちもまだまだ若手なんだけど、ん???」

 と二人に凄まれて遥は「口は災いの元だなぁ」と痛感するのであった。

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