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初めての競馬場

 臨時改札を抜けて長い長い連絡通路を抜けるとそこは入場券売り場だった。

「小金井さん、ちょっと待っててね」

 そう言うとゆりは入場券を買いに行くのだった。


「はい、小金井さん」

 ゆりはチケットを遥に渡す。

「え、三鷹さん。わ、悪いです。お金お支払いしま・・・・・・」

 慌てる遥をゆりは手で制すと「今日はおごりよ」とニカっと笑うのだった。


 申し訳ないなぁ、と思いながら遥はゆりの後ろをついていく。

 ゲートを抜けた遥は眼を見開いた。

 そして呆然と立ち尽くす。

 右側に見える美しいターフ、そして左側にそびえたつ大きなビル。

 遥は、こんなにも競馬場が広大な場所と知らなかったのだ。

 今日は天気がいい。青い空とたなびく雲がその今まで見たこともない風景をさらに際立たせる。


 ゆりはそんな遥を見て、なぜか誇らしげだ。

「すごいでしょ?」

 コクコクっと遥はうなずく。


「左に見えるのはフジビュースタンド。立派でしょう。私たちが・・・・・・・というよりは、私たちの先人の血と涙の結晶よ」

 そしてゆりは、遥をビシッと指差し宣言する。

「今日はこの素晴らしい天気の中、競馬を楽しむわよ。さぁついてらっしゃい」


 そういうと、ゆりは突如駆け出し遥は慌てて後を追いかけるのだった。


 ゆりはスタンドの通路から三番目の座席にポンと座ると、通路側の席に遥を招き入れる。

「今日はここがしばらく私たちのベースキャンプよ」

 ゆりは取り出したスポーツ新聞の中央の数ページを引き抜くと、残りを真ん中の席に引く。

 そして荷物をその上に置く。

「小金井さんも荷物、そこに置くといいわ。あ、貴重品は手放しちゃだめよ」


「じゃあ私、馬券買いに行ってくるからそこで座って待ってて」

 ゆりがバタバタと通路を駆け上っていくのを見送ると遥は人心地着いた。

 そして目の前に広がるターフを改めてみる。

「広いなぁ。芝の内側には道路なのかな。道があるんだ。スクリーンも大きいなぁ」

 スクリーンは来る前のレースだろうか。馬たちの激闘を映し出していた。

 五月の気持ちいい風を受け、遥は久々に心地よい気持ちになっていた。


 スクリーンに、競走馬がゲートに入る画面が映りだした頃、バタバタとゆりが席に戻ってきた。

 両手に飲み物とホットドッグとポテトを器用に持って戻ってきた。


「なんとかレースに間に合ったわね。あ、ドリンクとホットドッグ一個ずつとって、ほら」

 取ろうとはしたが、遠慮して手を引っ込める遥。

「小金井さん。ね、お願い」

 そう言われて遥は慌てて受け取った。

 ゆりの優しい声は遥の常に怯えた心と体を突き動かすのだった。

 見た目的には全く優雅さの欠片もないのだが。


「あの、三鷹さん。これ」

 逡巡する遥にゆりは言う。

「おごり、おごり。今日は先輩の顔を立てて。これも大事な社会勉強よ」


「それにね、これはただのおごりじゃないのよ。私のかっこいいところ見せてあげるから」

 ふふふんって感じでゆりは告げるのだった。


 競馬場にファンファーレが鳴り響く。

 競走馬がゲートに収まっていくのがスクリーンに映し出される。

「さぁ、小金井さんレースが始まるわよ」

「え?」という顔を遥がする。

 まったく馬が見えないのだ。

「どっか別の場所でレースしているんですか?」

「何、言ってるの。左見てなさい」


 そういわれてぼぉっと左側を見ていたら・・・・・・・

「あ!」

 左に馬の集団が見えた。少し離れたところだから迫力こそないが想像するより速い。


 カーブを回ってくると正面に向かって馬がやってきた。

「ど、ど、どの馬応援すればいいんだろう」と遥が思っていると

「小金井さん、あの黒い馬、黒い馬応援しなさいっ!」

 テンションの上がったゆりが指示を出す。

「は、はい!あの黄色い帽子被った人が乗っている馬ですね、がんばれー」

 大声を出すのに慣れていない遥が貧相な応援をすると再びゆりが言う。

「ちーがーうー!もっと後ろの帽子が黒い馬よ」


「えーわかんないですよぉ」と思いながら遥は

「黒い馬頑張れー」

と再び貧相な応援をする。


 隣でゆりの絶叫がこだまする

「盾行け!盾行け!たまにはしっかり追えー!」


 黒い帽子を被った騎手が乗る馬が後ろから追い込んでくるのを遥は見た。

 離れているのにすごい迫力だ。

 

 レースが終わった。

 ゆりが応援する黒い帽子を被った騎手を乗せた馬は、目の前ですべての馬を抜き去っていった。

 隣には長いウェーブのかかった綺麗な髪振り乱しながら両手を突き上げ、にっこにこのゆり。


 ものすごいところに来た、と遥は思ったのだった。

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