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ダート競馬 その1

「次もグリグリのいる9頭立てか。ちょっと私3階行ってくるわ」

 先ほどの8レースを外してしまった怜は馬券を買う気が少し失せたようだ。

 別に対して負けたわけでもないのだが。

「怜先輩、3階に何か美味しいものあるんですか」

「ん、いや。ビールがちょっとだけ安いんだわ」

「ほどほどにしときなさいよ」

 ゆりがたしなめる。

「ああ。しかしゆりごときが当てられるレースを外すとは・・・・・・。ちょっと気分転換してくる」

 そういうと怜はふらふらと歩いて行ってしまったのだ。


「ゆりごときとは失敬な」

 ゆりが怜の言葉を受けてプンプンしている。

「ゆり先輩、今日結構勝ってますよね。さっきのレースはいくら買っていたんですか」

「ナ・イ・シ・ョ」

 遥の質問にちょっと色っぽく答える。

 別にガチガチの馬券でドカンと勝負して大きく勝ったから内緒というわけでもない。

 さっきの調布特別は堅そうだなぁとあまり気が乗っていなかったので実は馬連100円買っただけなのだ。

 130円しか儲かっていないのだがゆりはそれなりに上機嫌だ。

 ビッグレースであるオークスで勝負というほどほどの緊張感のせいだろうか。

 珍しく自制が効いているのだ。負けなければ勝ちというなかなか良い精神状態だ。


「次の9レースも9頭立てなんですね。なんか今日は人気馬が強そうな少数頭のレースが多いですね」

「そうね。でもね次の丹沢ステークスはダートの2100メートル戦。ダートの長距離で結構面白いメンバーが揃っているのよ」

 地味な準オープン戦ではあるが意外とゆりは乗り気なようだ。

「1番人気のバハムートセンキは最近中山競馬場の1800メートル戦で調子いいんだけど元々1400メートル前後に良績があるからね。強いとは思うんだけどさらに300メートル延びるここでは凡走する可能性があると思うのよね。なのでここは前走同条件で2着のヘビーノバから流してみようかなって思っているの。鞍上も今年75勝と好調の川賀騎手だしね。9頭立てだけど結構これは荒れるパターンのレースよ」

「なんかまた当たりそうな予想ですね」

 遥がメモを取りつつ相槌を打つ。

「まぁここも大きく勝負しないけどね。またちょこっとだけ買うわ」

「あ、なんか大人の馬券ですね。ワイドは買わないんですか?」

「今回は馬連だけね」

 そうですかとちょっと肩を落とす遥を見て、ゆりはこの娘今日はやたらワイド推すけど何かにとりつかれているのかしらと思うのであった。 


「そうだ。ゆり先輩。ひとつお聞きしたかったんですけどなんで芝とダートって2種類があるんですか?」

「私も経緯はよく知らないけれど端的に言うと芝コースの保全しながらレース数維持するためじゃないかしら」

「芝コースの保全ですか?なんかそう言われるとダートは予備みたいな感じじゃないですか」

 なんとなくダートって地味だなとは感じてはいたがそういわれるとちょっと傷ついた。

 地味な遥は何となくダート馬にシンパシーを感じていたようだった。


「まぁ実際そうなんじゃないかしらね。芝コースの方が見栄えのいい外側にあるしね」

「たしかにダートのコースは奥にあってターフビジョンの方が見やす・・・・・・。はっ!ターフって芝の事ですよね。こんなところでも格差が・・・・・・」

 なぜか悔しそうに言う遥。

 ダートにこだわるほどこの娘、レース見ていないと思うんだけどな。地味な娘はやっぱりダートに惹かれるのかなとゆりは思う。 

「特に競馬の盛んなアメリカのダートコースは土で出来ていて、日本のダートコースは気候の問題から砂を使っているから全然別ものらしいのよね。そんなこともあってJRAのダートG1は二つしかないしやはり主役ではないのかしらね」

「なんかちょっと悔しいですね。やっぱり芝のコースで活躍するのは華やかなゆり先輩や怜先輩みたいな人なんですね。ダート馬は私みたいな感じなんですかね」

 ペチン!ゆりは遥に優しいデコピンを食らわした。

「二つ間違えがあるわよ」

 ゆりは遥をビシッと指さすのだった。


「まず一つ、日本のダート馬は地味と言えば地味なんだけれど。さっきJRAっていったでしょ私」

「は、はい」

 遥が相槌を打つ。

「JRAは日本中央競馬会。日本の競馬界の中心にいる大きな競馬団体なんだけどもう一つあるのよ。NRA、地方競馬全国協会という俗にいう地方競馬があるの。そこには東京大賞典をはじめとした十個のダートG1、正確に言うとちょっと違うんだけど十個のG1があるのよ」

「え、そうなんですか。捨てたもんじゃないですねダートも」

 まぁ別に捨てる気は毛頭ないんですけどねと思いながらゆりが続ける。

 そう、ゆりは芝のレースも好きだが砂塵舞い上がる力勝負の体のあるダート戦も大好きなのだ。

「そうなのよ。近年はネットで馬券が買えることもあって一時期は存続を危ぶまれた地方競馬もなかなか活況なのよ」

「へー、ハイテクですねぇ」

「特にナイター競馬やっているのは地方競馬だけだからね。今度行きましょうね」

 ゆりがさりげなく遥をまた競馬に誘う。

「は、はい。あ、でも地方競馬って言うと結構遠いんじゃないですか」

「大丈夫よ。実は関東にも今四つの地方競馬があるのよ。そして・・・・・・」

 ゆりがもったいぶる。

「そして・・・・・・」

 遥がゴクリとつばを飲み込む。

 地方競馬というくらいだろう、きっとはるかはるか彼方の遠くにあるに違いないと思った。

 なんかものすごい所と聞く群馬だろうか、それともヤンキーという人が多くいる栃木だろうか、修学旅行以外ではあまり旅行することもない遥は内心不安に思うのであった。

「実は東京都にあるんです!」

 イェーイって感じでゆりが言う。

「えー、地方競馬なのに東京にあるんですか。なんかずるくないですかそれ。府中より地方って言うと田無あたりですか?」

「それがね、品川なのよ。東京23区唯一の競馬場なのよ。だから今度定時ダッシュして行きましょうね」


 ゆりが笑顔で言う。

 定時にまだ帰る余裕のない遥は「超仕事頑張らなきゃ」と思うのであった。

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