表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/35

盾剣さんに全部!!

「小金井さん・・・・・・競馬に絶対はないのよ」

 ゆりは遥に神々しく告げる。

 ヴァルキュリア軸での固い馬券を外し、心の中はピューピュー隙間風が吹いていたが努めて冷静に振舞った。

「はい、三鷹さん。ゆりさんやプロの記者の方でも予想できないことは起こるんですね。勉強になります」

 真面目にメモを取る遥に、ゆりはこの娘素直すぎるわと思うのだった。


 二人はメインのプリンシパルステークスを見るために屋内からスタンドへと向かう。

 ヴァルキュリアが2着にもなれず、馬券が1円にもならないただのゴミになってしまったのは予想外ではあった。

 だがゆりはプリンシパルステークスにも勝算はあった。

 そこですでに予算は軽くオーバーしている中、緊急事態宣言を心の中で発動し来週のランチ代に手を付けたのだった。


 捻りだしたるは5000円。

 それを3番人気ベアナックルの単勝5.4倍につぎ込んだのだ。

 ベアナックルは前走条件戦である黄菊賞1番人気で2着。

 そうそう自信の持てる戦績ではないのだが今回は鞍上が楯剣たてつるぎなのだ。

 そう世界に誇る日本のナンバーワンジョッキー盾剣が騎乗するのだ。


 通算4000勝を達成し、競馬の最高峰レースであるG1も100勝以上上げている。

 通算18度の全国リーディングに輝いた天才ジョッキーだ。

 まるでマンガの主人公のような図抜けた記録を誇る。

 既に50歳を超えているのだが、普段は青年時代から変わらない優しい笑みをいつも浮かべている。

 昨年も111勝とその手腕に未だ衰えはない。


 正直、ダービーへの最後の切符を賭けたレースではあるのだが所詮はただのオープン戦。

 1着馬のみがダービーへの優先出走権が与えられる。

 賞金の高い重賞で2着までダービーへの出走権が与えられる青葉賞に比べればレベルは低い。

 本来ならば京都で騎乗している世界の盾が、ベアナックルの馬主である日本有数の名馬のオーナーに直々に頼まれ東上してきたのだ。

 盾剣騎手の単勝に全部!!

 ここで狙わずどうするという女の意地であった。

  

 本来は京都新聞杯は安めとはいえ当たるだろうという前提ではあったので、もうプランとしてはボロボロではあるのだが。

 「これ外れたら、月末のダービーまでランチはおにぎり一つね」

 悲壮な覚悟を胸にゆりはスタンドの空いている席を探す


 土曜とはいえメインレース。

 さすがに空いている席はないかと思えたがちょうど内側ではあるが2席空いている場所を見つけた。


「すいません。そちらの席の方に通らせていただいてよろしいですか」

 ゆりが一番外側に座っている客に前を通らせてもらおうと声をかける。


「あれ、ゆり今日来てたの?」

 声をかけられた客がゆりを見て言う。

「え、レイ。あんたこそ今日用事があるって言ってたじゃない」

 ゆりもその客に言葉を返す。どうやら知り合いのようだった。


 怜と言われたボーイッシュな全身ジャージ姿の女性は二人を内側の席に移動させるために席を立つ。

「悪いわね。じゃあ小金井さん。私と怜の真ん中に座りなさいな」

 そういってゆりは先に奥の席に座ると遥を手招きする。


 人付き合いの苦手な遥は、ゆりが知り合いと会うことによって緊張していた。

「知らない人と一緒にいるのはちょっと疲れるかも・・・・・・」

 そう遥は逃げるに逃げれない状態に弱っていた。

 一対一ならばまだしも、知人同士の片方の知り合いという立場で上手く立ち回る自信はなかった。

 しかしながら、ゆりに恥をかかせるわけにもいかず勇気をめちゃくちゃだして

「すいません。失礼します」

 そういって席に座ろうとした時にゆりの知人の顔を見てますます緊張するのだった。


「あれ、小金井じゃん。遥と知り合いだったの?」

 ゆりに怜と呼ばれた女性を遥は知っていた。

 会社の先輩で遥の教育係である国立怜だったのだ。

 ショートカットがよく似合うボーイッシュな美人で仕事を一から教えてくれて上司や取引先へのフォローもしてくれる頼もしい先輩ではあるのだが、体育会系なのだ。指導は厳しめで遥は苦手にしていた。


 これなら知らない人の方がまだ良かったな、と思いながら遥はゆりと怜の間にちょこんと肩身を狭くして座るのであった。

 

「ちょっとスパルタ体育教師、私のかわいい後輩にガンつけるのやめてくれないかしら?」

 ゆりがからかうように言う。

「は?何もしてないだろ。そっちこそうちの新人にちょっかいだすのやめてくれないかな?」

 怜が応戦する。


 二人の関係がよくわからないまま、間に座っているのは大変居心地が悪かった。

 遥は早くファンファーレが鳴らないかなとひたすらに思うのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ