リレー小説企画6
リレー小説企画第6話です!
よろしくお願いします!
あの花見から数日が経った。
4月も気づけば後半。結局あれから僕や優美の関係に特に大きな変化はなく、いつも通りの変わりばえのない平和な日常が続いていた。
朧げな下弦の月が、カーテンの隙間から優しい光をのぞかせている。
(……今日はなかなか寝付けないな)
明日からまた学校が始まるというのに何故だか心が落ち着かず眠れない。ベッドの上で何回寝返りをうっただろうか。なかなか寝付けず、寝ようと思っていてもこういう時は頭の中で色々考え込んでしまって、気づけば1時間が経過していたなんて事もよくある。
(……花見の日はよく晴れた、ぽかぽか日和だったなぁ)
いつしか僕は3人で行った、花見の時の記憶を回想していたーー
✳︎ ✳︎ ✳︎
「なあなあ、ところで櫻井さん最近どうよー学校のほうは、もう慣れた?」
「まあ少しだけど、友達もできてきたし慣れてはきた…かな」
「そうかそうかあ!それならよかった」
相変わらず柊翔は軽口で、いつものテンションでとばしている。
「何かあったらオレが助けになるからね?呼ばれたら例え体育館裏だろうと速攻行くからさ」
「それは大袈裟だよ(笑)まあでも来てくれるっていうなら喜んで」
「はいは〜い、お呼び出し待ってまーす!」
「ところで優美ちゃんはさーあ……」
……僕のことをおいて2人で盛り上がってる。櫻井さんは転校してきて間もなく、出会ったばかりのはずなのに、柊翔はもう打ち解けている。この男には気まずさとか羞恥心とかそういうものがないのか。誰とでも仲良くなれる、そんな友を別にまったく羨ましいと思わないわけではないが。そんなことを思いつつ桜広場の桜並木の中へ足を進めていく。
「……えっ!?」
突如優美が呆気にとられたような、不思議な声を上げた。
……?
少しボーッとしていて2人の会話の内容が聞き取れなかった。2人は何を話していたんだ。
「だからだからー、優美ちゃんは清春のことどう思ってるかって聞いてるの!」
いきなりなんてことを言い出すんだと思ったがどうやら既に手遅れらしい。正直それは僕も気になっていたので、この際だけは柊翔のそのお節介な言動に「ファインプレーだ」と心の声を大にして言った。
一拍置いてゆっくりと彼女は語り始めた
「……別に何とも思ってないよ。清春は普通に同じクラスの友人。それ以上でもそれ以下でもない。……それより、柊翔くんの方は気になってる人でもいるのかしら?」
柊翔は「う…!」とか「な…」だとか言葉になっていないような変な声を上げている。彼女がまさか自分に話題を振ってくるとは考えてもいなかったのだろう。
「おれは……その……別に……」
「ふーん……正直に白状してもいいよ?私は誰にも言わないからさ」
「い、いねーよ!」
そういう柊翔の反応が明らかに動揺を表していて説得力がない。彼女も彼女でうまく切り返して、してやったりと思っているのか、最初の動揺がまるで嘘だったように形成逆転していた。
「……で、茶番はもう終わりでいい?」
満を持して僕が2人の一連のやり取りに口を挟むと、2人は恨めしそうに目を細くして僕を睨みつけた。
(閑話休題)
「はぁー。でもびっくりしちゃったよ。まさか花見に誘われるなんて」
「櫻井さんなら誘ったら来てくれるかなぁって思ってさ!……だろ?清春くぅん」
そういいつつ、チラチラと僕の顔を見てくる。さっきの告白のことといい、今日の柊翔はいつもの2割増しでうざい……。(5話参照)あといちいち代弁しなくていい。
「どっちからの誘い? もしかして本当に清春から?」
「僕じゃないよ、柊翔からだよ」
彼女は少し上目遣いで「ふーん」という相槌をうってくる。
まあ、実際に優美を誘ったのは僕の方なんだけど。
「そうムキになるなってー!」
「うるさい、なってないわ」
「ふふっ」と彼女も微笑んだ。
「今日はせっかく3人でお花見しに来たんだし、楽しもうね!」
「うん、そうだね」
「……?なんだよ清春つれねえなぁ?隣にこんなイケメンと美人がいるというのに。もっと元気出していこうぜ」
「そうだそうだー。そんなくらい顔してたら幸せが逃げてっちゃうぞ〜っ」
「はぁ、はいはい」
……もしかしてこの2人がくっつくと、ある意味最悪の組み合わせなのかもしれない。やれやれと思いつつも、なんだかんだ桜が綺麗で天気もからっと晴れていたせいか、2人に自分のペースを乱されても悪い気はしなかった。
その後も桜広場で花見をしながら、くだらない日常話や、柊翔が知ってる生徒の裏事情などを得意げに話したりして、あっという間に時間が過ぎていった。
時刻は4時をまわろうとしていた。
いつの間にか花見に来ていた人々もだんだんと少なくなり、辺りは一気に静寂なムードに包まれる。
「じゃ、私こっちだからまたね。今日は楽しかったよ、2人ともありがと」
「おう、こちらこそ!」
「またね」と挨拶を交わして、彼女の背中を見送る。淡い空模様に映し出された彼女の去り際が映えていて綺麗だった。
彼女を見送り「おれらも帰るか」と、柊翔と駅に向けて歩き出した。
帰路の途中、柊翔がおもむろに口を開く。
「清春、今日の花見は楽しかったか」
「んーまあ、ぼちぼち」
「そうか〜。ま、どうやら告白はしなかったようだけどな!」
「だからなんだよその告白って…するわけないだろ」
「ん〜、なんだかねえ。彼女が転校してきた時といい、君たちには何かあると思ったんだが」
余計な詮索はよせよと言いつつ、それ以上はお互い突っ込まなかった。
「じゃあな!また明日、学校で!」
「おう、また明日」
最寄りの駅に着き、その場で柊翔と別れた。太陽は既に西に傾き、オレンジ色の空が辺りを照らしていた。花見でたくさん歩き、結構疲れていたはずなのに僕の帰り道の足取りは妙に軽かった。
(……なんだかんだ今日は楽しかったな)
歩いて家に帰るまでの間、今日の花見での出来事、これまでのいろいろな感情が頭を駆け巡る。
(それにしても、いったいあの映像はなんだったんだろうか)
その映像はこれまで一瞬、短い時間、刹那的に映し出されてきた。僕が見たその映像はぼやけていて、はっきりとはしていない。実はただの残像だったりして。でもなんだろう。どこか暖かくて懐かしいーー
そんな感じがした。
これまでのあの映像の正体はいったい……。あの映像の既視感、過去にも一度見たような景色、
「……デジャヴ、か」
過去に飛行機事故のこともあったが、それと何か関係があるのだろうか。もう少しで謎が解けそうで解けないような、とてもモヤモヤした感覚。今の自分を支配しているのはそんな類のものだった。
(……賭けでもしてみるかな)
ふとそんな考えが脳裏に浮かんだ。まだ出会って間もないが、ゲームセンターで遊んだり花見に行ったりしていて優美について少し分かったことがある。おそらくだが彼女は負けず嫌いで、人?僕をからかうのが好きだ。もし賭けをして勝ったら、彼女が知ってる僕のことを少し話してくれるかな。あーでもこれまで教えてって言っても頑なに教えてくれなかったしなぁ。そう簡単には行かないかな。
でも、時より寂しげな表情も見せたり、彼女の表情や行いに確固として一貫性があるとは言えないので、もしかすると僕にはまだ知らない彼女の一面がたくさんあるのかもしれない。
そうこう考えているうちに、ようやく家に辿り着いた。取っ手に手をかけ、木製のドアを開ける。
「ただいまーー」
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僕の花見での記憶は、ここで終了。
こうやって思い返してみると、やっぱり花見は楽しかった。優美のことも少しずつ分かってきたというか、最初の出会った頃に比べれば親密になってきた気がするし。柊翔も柊翔で、粋な計らいをしてくれたのかもしれない。
ふと気になってベッド横で充電しているスマホで時間を確認する。
「げっ…!」
時刻は2時を過ぎていた。もう寝なきゃ。
明日からまたいつもの日常生活が始まる。彼女が来てからというもの、何かと僕の退屈な日常が楽しくなってきているのかもしれない。いつもなら学校の前日は絶望しているが、今日は少しだけその絶望感が和らいでいる気がする。
(あの花見の後、何かあるかと思ったけど、普通に学校生活を送るだけで優美が僕にしている秘密について特に大きな進展はなかった。だから次はこちらから行動を起こしてみようかな)
(もし賭けをしたら、彼女は乗ってくるだろうか)
結局すぐには眠れなかったが、あれこれと物思いにふけっているうちに、いつしか僕の意識は途絶えていた。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
回想シーンの表示方法は僭越ながら小谷杏子さんの、はちぼくこと『八月、ぼくらの後悔にさよならを』を参考にさせていただきました。