3. ゲファーの悪だくみ! 狙われたグリーン!
ところ変わって月の裏、その地下にあるゲファーの秘密基地。地球から戻ってきたアマージョが、他の幹部たちと相談しています。
「もう一度確認するぞ。ゴッドグル、どうしても日本が必要なのだな?」
「そのとおりじゃ。長距離ワープに必要なエネルギーは、あの国で最も高い山……富士山に集まっておる」
アマージョに頷き返したのは長い髭の老人、四幹部の一人ゴッドグルです。
ゴッドグルは宇宙でも有名な科学者で、どんなことでも調べられるという情報収集マシーンを作った発明家でもあります。そのため競争相手のアマージョたち他の幹部も、彼の調査能力に一目置いているのです。
「これほど大きなワープエネルギーを持つ星は、とても珍しいアルよ!」
なんとなく中国人風っぽく聞こえる言葉はフェイフォン、道化師のような恰好をした若い男です。もちろん彼も幹部の一人、変わった口調は東銀河中央部の方言なのですよ。
「ソレニ、惑星自体ノ環境モ、絶好デス。大気ハ、窒素ガ約78パーセント、酸素ガ約21パーセント……」
四幹部の最後、アプリーザはロボットでした。彼は淡々とした声で地球のデータを並べていきます。
「この衛星……月のエネルギーですら1万光年もの長距離ワープができる。地球で最も良い場所を押さえたら、我々のネットワークは銀河の全てに広がるじゃろう。しかし……」
「そうだな。ゴニンジャーを倒さぬかぎり、銀河最大の企業グループなど夢物語にすぎん」
ゴッドグルが言葉を濁すと、アマージョが忌々しげに後を続けます。
ゲファーは宇宙の起業家の集まり、つまりビジネス集団です。彼らが地球に来たのは、自分たちの商売の場を広げたいからです。
そのためゲファーは、なるべく武器を使わずに地球侵略を進めてきました。地球に眠っているワープエネルギーを得るだけではなく、地球人を自分たちのユーザーにしたいのです。
しかしゲファーが得意とするコンピュータやネットワークを使った作戦は、ゴニンジャーに効きません。二人が苦い顔をするのも当然でしょう。
「大丈夫ネ! ゴニンジャーたちの話から、良い作戦を思いついたアル!」
フェイフォンは先ほどのゴニンジャーたちの会話に触れました。
最年少のグリーンを残る四人が可愛がる、とても仲良さげなやり取り。それを見て、どんな手を思いついたのでしょう?
「儂以外にも気づいた者がおったとはな……」
「グリーンは子ども扱いが不満……か。なるほど、うまくすれば仲間割れに持っていけるだろう」
「勝ちはいただいたアル! 私の作った宇宙怪人スターゲファーなら、情報操作なんて簡単ネ!」
「順番デスカラネ……残念デス」
ゴッドグルとアマージョが無念そうな声を上げると、フェイフォンが勝ち誇ります。実はアプリーザが言ったように、次に出撃するのはフェイフォンなのでした。
四幹部は仲間ですが、競争相手でもあります。だから足の引っぱり合いにならないように、順番を決めているのです。
「さあ、スターゲファー! 日本中に噂をまき散らすアル!」
「ゲファ~! ゲファファ~!!」
フェイフォンが声を張り上げると、頭が星型の怪人スターゲファーが部屋の奥から現れました。そして他の三幹部が見つめる中、二人は黒い雲のようなものに包まれていきます。
◆ ◆
数日後、富士山に近いどこかにある伝統戦隊ゴニンジャーの秘密基地。古風な彼らに相応しい畳敷きの部屋に、グリーンの声が響きます。
「なんでボクが新聞に!? それも悪い噂ばっかり!」
グリーンが広げた朝刊には、覆面姿の彼の大きな写真がありました。しかも見出しには『半人前のグリーン、またブルーに冷やかされる』とあります。
最近は毎日ゴニンジャーの活躍が報道されていますが、こういう面白おかしく書いた記事は初めてです。そのためグリーンが憤慨するのも当然でしょう。
「このスポーツ紙もグリーンの特集ですな~。『イエロー、グリーンにチョコレートを取られたと嘆く』……そんなこともありましたな~」
「この女性誌にもあるわ。『ピンク、グリーンは未熟と語る』ですって……。そういえば雑誌記者に『弟みたいでカワイイ』って答えたわね」
「テレビでもやっているぞ」
「俺がグリーンの頭を突っついたときか。ふっ、うまく撮れているな」
イエローはスポーツ新聞、ピンクは女性週刊誌を広げました。そしてレッドはテレビをつけてニュース番組を見始め、ブルーも興味深げに眺めます。
ゴニンジャーは、こうやって主に新聞やテレビなどを使っています。そのため彼らは、ゲファーのコンピュータやネットワークを使った作戦に対抗できるのです。
「みんながボクを……」
グリーンの機嫌は悪くなる一方です。
新聞やテレビなどマスコミの記事の多くは、他の四人が語ったことを元にしています。それでグリーンは、仲間に裏切られたように感じたのです。
「悪かったですな~。でも、もう少し大人になったほうが良いですな~」
「そうね。少し大袈裟に書かれているけど、まだ修業中なのも事実だもの」
「うむ、火の無いところに煙は立たぬ。だが安心しろ、拙者たちが鍛えてやるからな」
「それと早く大きくなれるように、いっぱい食べるんだな。そうだ、牛乳を飲むと背が伸びるぞ」
いつものように四人は笑い、グリーンの頭を撫でたり肩に手を置いたりします。彼らにとってグリーンは弟のような存在、口では厳しいことを言いつつも、とても可愛がっているのですよ。
「みんな……」
グリーンも四人の本当の気持ちを知っているから、怒るに怒れません。
ですが次の日からも同じようなニュースが続いたので、グリーンの不満は溜まる一方です。しかも多くの人がマスコミに情報を送っているようで、いつまで経っても終わる様子がありません。
「えっ、これって!?」
グリーンが広げた週刊誌には、携帯で撮ったらしき写真が載っています。
どうも一般の人が撮影したらしく少々ぼやけていますが、写っているのがゴニンジャーなのは間違いありません。ピンクがグリーンを母親のように抱きしめている様子が、紙面の半分を占めています。
「なになに『グリーン、ピンクに甘える』……ピンクはお母さんになったのですかな~?」
「いいえ、こんなことしていないわ」
「ふむ……『パソコン通信の掲示板から』とある。随分と胡散臭い記事だな」
「どうせ合成だろう? グリーン、気にするな」
イエローの問いにピンクが首を振ると、レッドとブルーもグリーンの後ろから週刊誌を覗き込みます。
今やゴニンジャーは、日本人なら誰もが知るヒーローです。そのため最初はマスコミも遠慮気味でしたが、人々の注意を惹けると分かったから少々怪しい噂まで採用するようになりました。
しかも日本のコンピュータやネットワークが何十年も前の機械を使うようになった影響で、本当かどうか分からない情報も増えてきました。今回の週刊誌の記事も、かなり昔のパソコンで個人が動かしている場所から拾ってきたようです。
だからブルーが言うように、別々の写真を組み合わせて作ったインチキかもしれません。しかし連日の騒ぎでイライラしていたグリーンは、真正面から受け止めてしまいました。
「元はといえば、みんなが冷やかしたからじゃないか! そりゃあボクは半人前だけど、いつもいつもネタにして! それなのに『気にするな』とか軽く言って……もうゴニンジャーなんて知らない!」
グリーンは週刊誌を投げ捨てると立ち上がり、部屋から飛び出しました。駆けていく少年の目には、大粒の涙があります。
「グリーン、待って!」
「ご、ゴメンですな~!」
「甘えていたのは拙者たちだった……か」
「ああ。イジりも愛情表現の一種だとか、自分たちに都合よく考えていたな……」
いきなりの出来事に強い衝撃を受けたのでしょう。四人は追いかけることすら忘れたように立ちつくしています。