特別話 神の御心
ブックマーク100件達成の特別話です!いつもよりも長いです。
ユージと入れ替わるようにして、神にユージが生まれた世界へ飛ばされた少年がいた。
彼の名はアイルという。
アイルはウェスト地方の農家の生まれだったが、冒険者を志して家業を継がずに冒険者登録を行い、晴れて冒険者になるという夢を叶えたのだった。
ランクは低いままだったが、誰もが嫌がる依頼などでも進んで受けてくれるアイルはギルドからの評判はとても良かった。
ギルドとしてはアイルはとてもありがたい存在であったため、辞めてしまうことのないように特例でランクをDからCに上げようと考えていた。アイルとしても断る理由などある筈もなく、喜んだ。ただ、勿論その事を気に入らない者もいる。彼と同じ頃に冒険者登録を行ったネモという女もその内の一人だった。
冒険者は勿論の事だが男が多い。力仕事や汚れるような仕事が多く、避けられている職業なのだ。
その為にネモはそこまで美しい女性ではなかったが、冒険者達にとても人気があった。彼女のファンクラブまで作られてしまったほどの人気だった。その中には高ランクの冒険者もいたようで、彼女はそれを利用してどんどんとランクを上げていった。
そしてネモは同期であるアイルを見下していた。低ランクでアイルもイケメンではなかったため、モテる訳でもなく、雑用ばかりしている。そんなアイルが自分と同じCランクまで上がってくるというのだ。これほど彼女にとって不快なことはなかった。
アイルはランクが上がってもステータスは依然としてゆったりと増えていくだけで、特に高くはならず、前と変わらない仕事を続けていた。Cランクの冒険者の一部の者はランクの価値を下げていると嫌がるものもいたが、大半には前と変わる事無くアイルを良く思っていた。
そしてネモはランクの価値を下げていると訴える者の一人だった。そして他に価値を下げていると訴える者の大半はネモを慕う者だった。ただ、ギルドは依然としてアイルのランクを元に戻すつもりはなかった。ネモは冒険者達にとても人気があったが、ギルドの評判は悪かった。仕事は殆どせず、時々やっても質の悪いものであった。Aランクの冒険者が推薦していたときもギルドはランクを上げるつもりはなかったが、その時は仕事を完璧にこなしていたのだ。ランクを上げてからは昔と変わらなくなってしまった事を踏まえるとネモを慕う者にやってもらっていたのだろう。
そんなネモであったから、アイルのランクが上がったときに自分のランクを上げて追い付かれないようにするのではなく、アイルのランクを下げることを考えていた。
それからというもの、ネモはアイルの側に付くようになった。とは言っても、手助けなどをネモがする筈もなく、ただただアイルの仕事の邪魔をするのだった。ネモのファンクラブの者はアイルを妬んだ。しかしアイルはネモの事を同期の仲間としか見ていない。
「アイルゥ~!また一緒に頑張りましょっ!」
「ネモ、頼むから邪魔をしないでくれ。この前も依頼人に怒られたじゃないか。」
アイルはネモを厄介には思っていたが、今まで特に強くは言わないでおいた。ネモの人気が高いことは知っているためだ。
アイルは人が嫌がる依頼などでも進んで受けていたために報酬は多くなかったのだが、ネモが来るようになって邪魔をするようになり効率が悪くなった。ただ、アイルは質を落とすつもりは全くなかった。その為に段々と生活が苦しくなっていった。ネモが同じ依頼を受けるようになってアイルの生活は更に苦しくなっていった。限界までアイルは依頼の質を落とすことはなかった。ネモは他にも依頼を受けていることになっていた。それはファンクラブに任せていて、金だけ貰っていた。その為にネモは生活に困ることはなかった。
そんな事が続いたある日の事、アイルは清掃の依頼を受けていた。ネモはアイルが邪魔をする前と変わらずに働き続けていた為に、アイルが仕事を終え、報告に行っているときに、ネモは折角アイルが片付けた物を散らかしておいた。その依頼はネモが受けたものではなかったため、ネモは散らかした後はそそくさと帰ってしまった。
アイルが依頼人を連れて戻ってくるとそこは依頼前と変わらない姿だった。依頼人は怒ってギルドに文句を言った。
たかが一個のクレームだとギルドは考えていた。ただ、そんな噂は、瞬く間に広まっていった。そうなればギルドはアイルをどうにかすべきだと考えていた。
しかし、ギルドがそれをアイルに伝える前にアイルは冒険者を辞めると言い出した。質を下げることのないように依頼の数を減らし、その依頼で貰うことの出来る金が減ってしまえば、借金をして暮らしていくしかないのだ。その借金が膨れ上がってしまい、返すことが出来なくなってしまったのだ。そうなれば冒険者は続けることができない。
ネモは予想以上に上手く事が運んだことを知ると喜んだ。ただ、その喜びも長くは続かなかった。アイルとネモが一緒に行動しているのがおかしいと、アイルの友達が調査を始めたところ、ネモの嫌がらせが発覚。ギルドがそれを看過する筈もなく、ネモは冒険者ではなくなった。それにより、相次いでネモのファンが辞めるようになり、冒険業は停滞期を迎えた。
アイルに残されたものは使うことのできなくなった記念の冒険者カードと家族だけだった。アイルは農家を継ぐことすらできなくなっていた。アイルの借金返済のためにアイルの両親は土地を捨ててしまったのだ。それほどまでに借金が膨れ上がってしまったのだ。アイルの両親ももう働けるような年ではなく、アイルが三人分の生活費を賄う必要があるのだ。
アイルはどんな仕事だろうとやった。他の企業に就こうにもアイルが自己破産してしまったのは知られている。となると、それを上回る良さがあれば採用されるのだろうが、アイルにはない。特別なスキルも高いステータスも。この世の中はステータスで全て見えてしまうのだ。借金をしたことも、特技が何も無いことも。なのでアイルは雑用を終えると、休む暇もなくステータスを上げようとした。ただ、無慈悲にもステータスは一向に上がらない。そして、アイルが冒険者を辞めて半年がたった頃、両親が亡くなった。もう高齢だったというのもあるが、過度のストレスがあったのも原因だろう。遂に何も無くなってしまったアイルは両親の後を追うように自殺しようと考えていたところ、いきなりワープされたのだ。そして彼の目の前には神がいた。
神はアイルにざっくりとした説明とユージの時と同じようにたいして良くもなさそうな転生特典のアイテムを与え、地球へと転生させた。
アイルがどう過ごしているのかは分からない。
ステータスがある世界は一部の人にとってはとてもありがたいものかもしれない。でも、上がらないステータス。下がることも多い。
そして初対面で一番の判断材料はステータス。相手が見るのは決して自分ではない。
皆ステータスを持っているということは、隠すことができないということだ。ステータスは確かに便利だ。だけれども、って欲しいものだろうか。
きっとアイルは今、ステータスのない地球で新たな生活を始めることができているだろう。




