第7話 白い森
【前回までのあらすじ】
アルスは神樹族から話しかけられる。
そこで長老の2人の子供を探して欲しいと頼まれる。
長老の家に戻ると、炊きたての米のふんわりした香りで包まれていた。
昼食の準備がキッチンでされているようだ。
「お腹がすいたろう。ちょうど川でいい魚が取れたようだから、食べて行きなさい」
長老に促されて席に着くと、次々と料理が並べられた。
摘みたての山菜を茹でて塩で味付けしたものと、川で取れた魚の煮付け、そしてきのこ入りのごはん。
長老と2人で昼食をとったあと、村を案内してもらえることになった。
「そうだ、アルス。その杖はこの細長い皮袋に入れなさい。目立つと厄介じゃからのう」
「ありがとうございます」
アルスは地味な皮袋に杖を入れ、背中に斜めがけした。
これで旅先でも人の目をひくことはないだろう。
入り口から外に出ると、昨日の夕方アルスがここに来たときよりも明るい陽が差し込んでいた。
改めてよく見ると、長老の家が村で一番立派で、どの家よりも大きな樹でできていた。
玄関の両側には花壇が作られており、季節の花が咲き誇っている。
家の前には広場があり、村人の憩いの場になっているらしい。
ベンチに座って世間話をする人や、花に水をやる人がいた。
広場を中心に小道が放射線状に分かれており、それぞれ住居のエリアや食料を取る畑、魚が取れる川などに続いているようだった。
広場にいた人々は、長老の家からアルスが出てくるのをみると、好奇心あふれる目で近づいてきた。
人々は主に白いゆったりした服をきており、基本は茶色い髪だが、中には緑色の髪の人もいた。
アクセサリーは柔らかいつるや木の実で作ったブレスレットやピアスをしており、男女問わず朗らかな笑顔が印象的だった。
「あなたが旅人さんー? 」
「あら、もしかしてうちの息子と同じくらい? 」
「どこから来たのー? 」
ここで長老が言った。
「彼はわしの古い友人と一緒に住んでる子でね。
久しぶりに訪ねてきてくれたんだよ。遠くから友人の手紙を届けてくれたんだ。
これから“白い森”を案内するのじゃよ」
「まあ、大変だったわねー」
「自然にあふれたところで何もないけど、いいところよ」
「うちの旦那が向こうで新しい家を建ててるの。良かったら見ていってね」
広場から脇道に入ると、そこは住宅地だった。
道の両側に大きな木で作られた家屋が並び、木の広い空洞を活かして住居にしている。
入り口は簾のようなもので仕切られており、窓には花が飾られている。
大きい家で3階建てのものもあった。2階部分からロープを通した吊り橋がかけられており、向かいの家に行けるようにもなっていた。
「近くに別宅がある家族は、上に橋をかけてすぐに行けるようになっているんじゃ」と長老。
さらに先を進むと、大工たちが新しい家を作っている最中だった。
入り口の形を整えたり、2回へあがるはしごを作ったりしていた。
「この先は川が流れておる。昼に食べた美味しい魚が取れる川じゃ」
住宅地の先には、森の奥から流れる川があった。
対岸まで10mほどあり、真ん中が少し深くなっており、濃い色をしている。
両側で漁師が魚を釣ったり、網で捕獲したりしていた。
「ここは“世界樹”が恵んでくれる命の川じゃ。
わしたちはここの水で育ち、ここの魚で命をつなぐ。なくてはならん川なのじゃ」
人々はここでもアルスを見つけると近づいてきた。
「長老様こんにちは。この子が例の旅人さんですかい? 」
「まだ若いのに、遠くから来たんだって? 」
「さっき釣れた魚を見てくれよ! 今日は嫁さんに褒めてもらえそうだ」
草で編まれたかごの中に、小さな魚が20匹ほど入っていた。
「今晩ご近所さんと分けて食べるつもりなんだが、特別にサービスするよ」
と、カゴの中から5匹の魚を分けてくれた。
川の下流付近へ行くと、今度は畑があった。ここでは女性が多く働いていた。
稲を植えているところや、野菜を何種類も育てているところ、そして果物の木を植えているところがあった。
「ここには、川が上流から運んできた肥沃な土壌が流れ着く。
ここで作られたものはどれも栄養があってうまいんじゃ」
ここでもアルスは人気者だった。
お土産に両手におさまりきらないほどの野菜と果物を分けてもらった。
「ふぉっふぉっふぉっ。おまえさんといると生活に困らなさそうじゃのう」と笑わずにはいられない長老。
◇◇
夕方頃、2人は長老の家に戻った。
抱えきれないほどの食材を持って帰ってきたので、使いの人たちは大喜びだった。
「さて、“白い森”はどうじゃったかのう」長老が問うた。
「はい、皆さん優しい方達でした。ここの人たちは“世界樹”に守られながら生きているんですね」
「左様。“青い森”と違い、ここは人間の住むところ。
“世界樹”の恩恵を受けながら生活し、そして一生を終える。
この森から外の世界に出ようとする者もあまりおらん」
「“白い森”の人たちは、“青い森”や神樹族のことはご存知なんですか? 」
「もちろんじゃ。大人から子供へ、おとぎ話のように語り継いでおるわい。
『“世界樹”を守っているのは神樹族のおかげだから、感謝するんだよ』とか『悪さをするとこわ〜い“青い森”へ放り込むぞ』ってな」
「はあ……そうなんですね」
最後のは少し神樹族の方に対してに失礼なのでは、と思ったが黙っておくことにした。
そうすることで両者の均衡が保たれているのは事実だし、別に悪いことでもない……はずだ。
「まあ、実際に接触できるのはこの村でわし一人じゃもんで、“青い森”へ悪さをするようなやつもおらん。
入り口もこの家の裏口のみ。これも代々長老になった者に受け継がれてきたものなんじゃよ」
「そうなんですね。いろいろ教えていただきありがとうございます」
「さて、今晩もゆっくり泊まっていきなさい。
アルス、わしは皇帝への手紙を用意するから、2階の部屋で待っていなさい」
2階の部屋にあがったアルスは、ベッドに腰掛け、背中の杖を取り出し、改めてじっくり眺めることにした。
金色で光沢のある柄は螺旋状にまっすぐ伸び、杖先には円形のダイヤモンドがはめこまれている。
全体の長さは80cmほどだ。窓に照らすと、夕陽の淡い空の色を小さく反射した。
長老から聞いた昔の出来事が、頭の中をぐるぐる回っていた。
「僕がエルディシアの王家、光のダイヤモンドを継承する存在、そして“光の使者”……。
まだ全然実感がわかないし、僕に何ができるのかもわからない。
だけど、ここまで来たら後戻りはできないんだ。前に進むしかない。
この世界が危ないかもしれないんだ。
明日ここを出発して、ラオンダールの皇帝に会いに行こう。
5つの宝石も、その持ち主も、皇帝に協力してもらえたらすぐに見つかるはずだ」
アルスは立ち上がった。
「エルディシアを滅ぼしたのが、どの国なのかはわからない……。
母さんを殺して、僕の目に傷をつけた人も、何者なのかはわからない。
だけど、この杖が導いてくれるはずだ。
僕は、一人じゃない。じーちゃんや長老様、それに神樹族の方達も、僕を応援してくれている。
きっとうまくいくはずだ! 」
夕陽に輝くダイヤモンドが、こころなしか一層輝いたような気がした。
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