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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第5章 帝都ラインバルド
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第16話 出会い

【前回までのあらすじ】


帝都ラインバルドで不思議な占い師と接触したアルスは、店を出て再び街を散策するのだった。

 アルスは引き続き商店エリアを歩いていくと、騒がしい声が遠くから聞こえてきた。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ嬢ちゃん。まだ話は終わってないぜ」

「いい度胸してるじゃないか? あ? 」

「や、やめてください! ぶつかったことはあやまったじゃないですか。私、急いでるんですから」

「そりゃないぜ嬢ちゃん。そもそも、俺らが誰だかわかってないようだな? 」

「た〜っぷりお仕置きしてやらないとな」

『へへへへへへへへ』


 声がした方に近づくと、2人の兵が少女に絡んでいるようだった。

 この国の兵は全身白い鎧が特徴で、顔が比較的見えるようになっていた。

 そういや、兵が街を歩いてる、って言ってたっけ。


 通行人は比較的多かったが、巻き込まれるのを恐れてか見て見ぬ振りをして去っていく人が多かった。

 厄介(やっかい)ごとを避けるように、店を半分閉めようとする人もいた。

 街の警備を強化しているとは聞いていたけど、ああやって一般市民を監視しているのだろうか。

 距離を置いて様子を伺っていたが、どうも少女に非があるようには見えなかった。

 と、隙をついて少女がダッと逃げていった。


「お、こら待ちやがれ! 」

「逃すかよ! 」


 2人の兵も少女を追いかけていった。


「……あの子が危ない! 」


 アルスも人の波をかきわけながら後を追った。


◇◇


 少女は軽い身のこなしで人を避けながら走っていった。

 通行人はびっくりして避けるが、すぐに兵が強引に押しのけていった

 突き飛ばされた人は露店にぶつかって、たくさんのリンゴが地面に散らばった。


「おい、なんてことしやがるんだ! 大事な商品だぞ」と怒号が飛び交う中、アルスは兵を見失わないように走り抜けた。


 途中で少女は薄暗い雰囲気の路地に入り込んだ。

 兵もそれに続いて入っていった。アルスも後に続くが、思わず躊躇(ちゅうちょ)して立ち止まってしまった。

 周りの店に(さえぎ)られて、陽の光がほとんど届いていない。

 酒に(おぼ)れて道端に倒れ込んでいる男や、残飯を漁るネズミや野良犬の姿があった。

 無造作にゴミが捨てられており、腐敗臭が鼻をツンと刺激した。


「うそだろ……。こんなところ、よく入っていけるよ」


 でも、あの少女に危険が迫っていることは間違いない。

 アルスは意を決して路地に飛び込んだ。


◇◇


 少女は細い路地の角を何度も何度も曲がり、追いかけてくる兵を()こうとした。

 途中で嫌なにおいのする水たまりを踏んでしまい、靴や服が濡れてしまった。

 冷たい感触がじんわり足元をはいあがってきたが、気にせずに走った。

 今はそんなこと気にしていられない。


 次の角を曲がった時に、だらんとうなだれて動かない人にもぶつかってしまった。


「ごめんなさい! 」


 後ろを振り向く間も無く、少女はさらに角を曲がった。


「くっそ。どこまで行きやがる! 」


 後ろで悪態(あくたい)をつく兵の声が聞こえてきた。

 十分巻いたつもりでいたが、距離は依然として開いていないようだ。

 さすがに普段から訓練された兵だ。この程度では()を上げないのだろう。

 少女も流石に息があがってきていた。


◇◇


 次の角を曲がると、そこは行き止まりだった。

 目の前に高い壁がそびえており、空が小さく見えた。


「うそ、行き止まり!? 」


 少女は道を引き返そうとしたが、すぐに追っ手がきてしまった。


「おっと残念でした〜」

「もう逃げ場はねえぜ、こねずみちゃん」


 兵はゆっくりと距離を縮めて近づいてきた。

 にたにた笑う口元と欲にまみれた目がなんともおぞましかった。


「さあ、楽しませてくれよ、なあ? 俺らはいつも大変な仕事をしてるんだぜ?

ご褒美くらいくれたっていいじゃねえかよ? なあ、嬢ちゃん」


「い、いやっ! こ、こここ、来ないでください! 」


 足が思うように動かない。今ならまだ逃げられるかもしれないのに……。


「私、早く帰らなくちゃ……。みんなに怒られちゃう……」


「そんなの後だっていーんだよ! 」


 兵は近くにあったゴミ箱を蹴った。


「きゃあ! 」


 ますます壁際に追い詰められた。目の前に兵が迫る。


「ここなら誰もやってこねえ。どれだけ声をあげても、誰にも聞こえねえんだぜ……」

「ほんとうに最高の場所だ。今まではすぐ別の兵に見つかっちまったけど、ここならバレるはずがねえ。

次からも使わせてもらうぜ」


 兵は舌なめずりをしながら、ますます距離を縮めてきた。

 少女の絶望と恐怖で渦巻く目がさらに兵をヒートアップさせたようだ。

 兵は腰に刺していた剣を抜いた。


「っ! ……! 」


 声にならない声が出た。


「すぐ楽にしてやるよ。お楽しみはそのあとだ」

「へへへへへへへ」


 少女はふと空を仰ぎ、両手を胸の前で組んで、祈りを捧げる姿をした。


「あー? なんだ? 」

「最後に神頼みってか? 無駄なあがきはやめな。どうせすぐ死ぬんだし」


 少女は涙を流しながら天を仰いだ。


「……様、助けて……」


 その時、まばゆい光がカッと差し込んだ。


「うわっ」

「なんだ! 」


 暗い路地に慣れた兵の目を一時的につぶすには十分すぎる光だった。

 少女は手をがっしり掴まれた。


「早く! 今のうちに! 」


 誰かの声がした。少女は突然のことに驚いて動けなかったが、声のする方に身を預けた。


「待て! どこに行く!? 」

「くっ。前が見えないぞ……」


 兵たちが騒いでいるのが聞こえたが、その声もだんだん遠くになっていった。


◇◇


 やがて表の通りに出た。

 アルスは少女と2人で息を切らしてその場に立ち尽くした。

 道ゆく人々は突然路地から飛び出してきた2人に驚いた様子だが、すぐに興味を示さなくなった。


「な、なんとかうまく逃げられたみたいだね」

「ほんと……そのようね……」


 ここで2人はお互いを見つめあった。

 少女はアルスと同じくらいの歳に見えた。

 金色の長い髪に、大きく開いたブルーの瞳が印象的だった。

 ピンクの花柄のワンピースを着ており、足元は赤い靴を履いていた。


「ありがとう、助けてくれて……」


 少女がにこやかに微笑んだ。


「いいんだよ、気にしないで。

ちょうど君が追われてるのが見えたから、兵の後をつけてたんだ」


「そう、よかった……。もうだめかと思ったわ」


「厄介な兵もいたもんだね。怪我とかはしてない?」


「ええ、大丈夫よ。あなたがきてくれたから! 」


 少女はにっこり笑った。アルスは顔が赤くなるのを感じた。


「ぼ、僕は、アルス。旅の途中でここに来たところなんだ」


「私はリンよ。旅一座で各地を回ってて、ちょうどラインバルドで公演してたところなの。

散歩をしていたら、さっきの兵に絡まれちゃって……。あっいけない! 」


 少女が急に叫んだ。


「どうしたの? 」


「もうすぐ出発しちゃう! 団長に叱られちゃうわ! ごめんなさい、私はこれで! 」


「う、うん! 気をつけて」


「次は隣町のセイガに行く予定なの。もしよければ見にきてね。ちゃんとお礼もしたいから」


「わかった。必ず行くよ」


「約束よ! 」


 リンは何度も手を振りながら走っていった。

 アルスはリンの姿が見えなくなるまで見送った。


「不思議な子だったなあ。……それにしても」


 アルスは今出てきた路地に振り返った。


「この街の兵は妙に過剰というかなんというか……。これ以上被害者が出ないといいけども……。

皇帝陛下もこのことはご存知なんだろうか? ……あ、もしかして」


――お偉いさんは午後から外出するようじゃ。行くなら今だ、と占いに出ておる。


「お偉いさんって、皇帝陛下のことか? 午後から外出……。

今は11時。チャンスは今しかないってことか! 」


 アルスは足早(あしばや)に城を目指した。


◇◇


 一方、アルスと別れたリンは、旅一座が宿泊している場所まで着いた。


「セーフ、出発に間に合ったみたいね」


 ほっと胸をなでおろしたのもつかの間。


「リィィン! どこをほっつき歩いてたあああッッ! 」


 びくっとして視線をやると、団長が鬼の形相(ぎょうそう)で仁王立ちしていた。


「もうとっくに準備できてるんだぞ! ったく、次の街に間に合わねえだろうがよッ! 」


 団長は口髭がトレードマークで、怒ると怖いことに定評がある、一座の父親的な存在だった。


「ご、ごめんなさい団長……。いろいろあって……」


 リンはてへへ、と笑った。


「言い訳は無用だ! さっさと乗れーいッ! 」


「リーン、あなたの荷物もちゃんと積んでるわよー。早く行こ行こー」


 座員の女性が馬車に荷物を積みながら、リンに手招きした。


「次の街は花が綺麗なところだってー」

「リンは花好きだもんねー」小さな女の子も馬車に飛び乗っているところだった。


「お前らああああ! お前らもなんか言ってやれよ。リンに甘すぎだろぅがッ! 」


「団長が怖すぎるんですよーだ。ほら、リン行くわよ」


「……うん! 」


 リンは笑顔でみんなの方に走っていった。


◇◇


「あれ、リンどうしたの? 服汚れてるじゃん」


 馬車がラインバルドを出たあたりで、座員の1人が気づいた。


「ちょっといろいろありまして……」


 リンはえへへ、と笑った。


「まあすぐ取れるでしょ。……あれ、なんかいいことあった? 」


「なにが? 」


「なんか嬉しそうな顔してるんだもん」


「そんなことないよぉ」


 リンは舞台道具の隙間に身を寄せ、遠くの景色を眺めた。


「ちょっと、いいことがあっただけ……」


「何なに? 何があったの? 」


 座員の女子たちが身を乗り出して近寄ってきた。


「教えてくれたっていいじゃない? 」


「内緒だもーん」


(みんなには内緒。私が神様に祈った時に、素敵な人が助けてくれたなんてこと……。

次の街で、また会えるといいなあ)


 リン達を乗せた馬車は、帝都から東にある花の街、セイガへ向かっていった。

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