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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第102話 大団円

【前回までのあらすじ】


民衆の前に現れたのは、10年前に行方不明になったサラーハだった。

サラーハは瞬時に人々の心を掴み、復興を目指す。

そして、長年の因縁に決着をつけるため、兄・ジャラーハと対峙するのだった。

 サラーハは兄である現陛下のジャラーハと、真正面から対峙(たいじ)した。

 ジャラーハは今も気を失っており、()せこけた姿のままぐったりとしている。

 側に控える従者たちは、サラーハの登場に明らかに動揺(どうよう)を隠せないでいた。

 

「兄上……。ただいま戻りました。

しばらくお会いしない間に、ずいぶん(あわ)れなお姿になられましたね……」


 もちろんジャラーハから返事はない。サラーハは構わず続けた。


「神殿にある女神像をオアシスに投げ込んだと聞きました。

あそこは昔から民の()(どころ)でしたが、いまやそこも荒れ果て、ゴロツキ共の巣になっているようですね」


 サラーハは兄の元に近づいた。

 従者たちは無意識のうちに一歩後退(あとずさ)りした。


「その他にも、罪のない人を理不尽な理由で投獄(とうごく)したり、旅人を奴隷(どれい)にしたり、大勢の妻を(めと)ったり……。

兄上の行き過ぎた私利私欲(しりしよく)の数々で、私のみならず、大勢の人々が傷つき、命を落としていったのです。

兄上がしてきたことは、決して許されることではありません」


 サラーハは淡々と、しかし語気(ごき)を強めるように言った。

 始終冷静さを保ってはいたが、その瞳の奥には煮えたぎるものがあった。


「……幸い、地下牢には空きがでています。

兄上や従者、衛兵たちには、しばらくそこで頭を冷やしてもらいます。

これは私個人の意志ではなく、国民全員の意志によるものです」


 サラーハは従者たちを見回した。目が合わぬよう、とっさに顔を(そむ)ける者もいた。

 従者たちはジャラーハの言いなりで動いていた人たちだ。すなわち、相応の罰を受けるべき存在でもある。

 サラーハの言葉を聞いて、中には顔色を真っ青にする者もいた。

 

 ――その時だった。


「サラーハ様……っ! 」


 サラーハに近づく従者が現れた。ジルとリンを陰謀(いんぼう)に巻き込んだ、ナツメとココだ。

 2人は揃って地面にひざまずき、顔を伏せながら言った。


「私たちは陛下の言いなりとなり、この手を黒く染めてきた身。

相応の罰を受ける覚悟はできております。

ですが……。です、が……」


 ここで2人は(のど)を震わせ、涙をボロボロっと流した。


「心の底では、ずっと……。ずっと、あなた様のご無事を願っておりました。

幼い頃、行き場所をなくした私たちを救って下さったご恩は、いつまでも忘れずにおりました。

生きつなげるためとはいえ、陛下の命令に従う日々は、大変つらく、何度も逃げ出したいものでした。

ですが、逃げ出したところで、周りを砂漠に囲まれたこの環境の中で、一体どこに行き場があるでしょう?

仮に逃げ出せたとしても、罪の意識はきっとどこまでもついてくることでしょう。

つまり私たちはどこにも逃げられない。鳥籠(とりかご)の中の鳥と同じなのです。

答えの見つからない私たちには、あなた様のご無事だけが心の支えでした。

こうして再びお会いすることができて、大変嬉しゅうございます。

サラーハ様、どうか……。どうか私たちに罰をお与えくださいませ」


 2人は頭を下げて(こいねが)った。


「サラーハ様……」

「どうか、私たちに、厳しい罰を……」


 2人に続いて、王を取り巻く従者や兵たちも次々と罪の意識からひざまずき、頭を下げた。

 誰も話す者はいなかった。

 しばらくして、サラーハは従者たち1人1人を見た後、口を開いた。


「……顔をあげよ」


 従者たちは言われるままに、おそるおそる顔をあげた。


「おまえたちの言いたいことはよくわかった。

お前たちがしてきたことも、兄上同様許されることではあるまい。

相応(そうおう)の罰を受けてもらうつもりでいる」


 従者の誰もが、ぎゅっと口を結んだ。

 街の人たちも、そしてアルスたちも、その様子を固唾(かたず)を飲んで見守ることしかできなかった。

 どんな厳しい罰が告げられるのだろう、と誰もが注視(ちゅうし)する中、サラーハからは意外な言葉が続いた。


「……しかし、皆、私のことを思っていてくれたのだな。

この10年の間で、ずいぶん国も人の心も変わってしまったと思ったが、そうではなかった。

変わらないものもあったということだ。

どうか私と一緒に、この国をよくしていく手伝いをしてもらえないだろうか? 」


「「……えっ……? 」」


 従者たちは信じられない、といった面持ちでサラーハを見つめた。


「兄上は今の様子では(まつりごと)ができぬだろうから、代わりに私が王となり、この国をよくしていきたい。

おまえたちにはその手伝いをしてほしいのだ。これが私からお前たちに与える罰だ。

これは簡単な仕事ではない。やることはたくさんあるぞ。

まずはこの街を元に戻さねばならない。

道を直し、家々を建て直し、最後に王宮を直すのだ。

その後は政策を見直し、貧民には手厚い補助を出し、農業や貿易体制(ぼうえきたいせい)も整え、悪いところは徹底的に直していくつもりでいる。

それでも……私についてきてくれるか?」


「も……もちろんですとも……!! 」


 従者たちはサラーハの周りに集まった。街の人たちからも歓声があがった。


「サラーハ様! サラーハ様が新しい王に! 」

「サラーハ様万歳! 」


 サラーハはみるみる取り囲まれて、姿が見えなくなった。

 遠巻きから見ていたアルスたちは、思わず笑みがこぼれた。


「すごいや……。たった1人で街の人の心も、従者たちの心もひとつにしてしまった…… 」


「……あの人こそ、王に相応(ふさわ)しい人だったんだ! 」


 ここでふとジルが動き出した。

 何をしだすのかと思いきや、ナツメのもとにいき、何かを渡している。


「これ、あなたのでしょう? 」


 ナツメは渡されたものを見て、驚いた表情をした。


「あなたたちのベッドルームで見つけたわ。

サラーハさんのために、必死に仕えていたのよね。今まで大変だったわね」


「……かっ、勝手に、見ないでもらえませんか!? 人の、日記帳を……っ!! 」


 ナツメは泣き()らした目のまま、信じられないといった面持ちでジルをにらんだ。

 しかしそこに悪意は感じられなかった。


「あなたは冷酷(れいこく)な人かと思ったけど、本当は(あるじ)に忠実で、誰よりも人のことを考えられる人。

お仕えして1年が経ったときの記録を見てそう実感したの。

サラーハさんの疲れを癒すために、部屋のあちこちに花を生けたり、ストレスを和らげるお香を手配したり……」


「ジルさん……。そろそろいい加減にしてもらえないかしら?

私、この日記帳、誰にも見せたことないんですよ? ……誰にもね? 」


 ナツメは恥ずかしさを通り越して怒りで爆発しそうになっていたが、ジルはその様子に気づいていないようだった。

 アルスはハラハラしながらその様子を見届けていた。


(やばい……! ジル、そろそろ気づいてあげて! ナツメさん、まじでキレそうだから――!! )


 と、噴火(ふんか)寸前のナツメの横から、今度はココがジルに話しかけた。


「ジルさん……! あたし、夢ができました。

サラーハ様のお(そば)で、一生懸命この国をよくしていこうと思います」


 ジルは微笑(ほほえ)んだ。


「そう、良かった。夢が見つかって。あなたなら絶対にうまくできると信じてるわ」


「えへへっ★」




「……ジルって、すごいよな。多くの人を惹きつける才能があるみたい」


 遠くからそのやりとりを眺めていたカストルがつぶやいた。


「本当だね。……あ、そうだ、まだカストルに言ってなかったっけ」


「何をだい? 」


「ジル、“光の使者”に選ばれたんだ」


「……え、えええっ!? さらっとすごいこと言ってますけど……。ほんとに!? 」


 カストルは目を丸くして驚いた。


「そうなんだ。ほら、立派な弓を持ってるだろう? あれはエメラルドが弓に変形した姿なんだよ」


「エメラルド……って。たしか行方不明だった宝石だよね?

一体どこにあったの? ……ていうか、全体的に何があったの? 」


「詳しくはあとでジルから聞いてみて」

 

 と、そこへ街の方から走ってくる人が見えた。

 ギルアだった。エスペルも鷲の姿に戻ってすぐそばを飛んでいる。


「あ、ギルアだ! ギルアが来た! 」


 アルスたちはギルアと合流した。


「ギルア、もう大丈夫かい? 」


「はい! リンさんのおかげで、このとおり元気です」


 ギルアはにこやかに答えた。全身の傷も癒え、走れるくらい元気になっているようだった。

 腕に留まっているエスペルも、かなりの深傷(ふかで)を負っていたとは思えないほど回復していた。


「良かったあーー。相方(あいかた)がいないと寂しいもんなんだよ」


 カストルはリンを救出するために、一時的に2人で組んだコンビのことを(にお)わせた。


「ははは。“黒鷲(くろわし)ブラザーズ”は、2人で1つですからね」


「そうそう、わかってるじゃないか」


 カストルとギルアはにやりと笑いあった。

 その最中(さなか)、ジルはエスペルに顔を近づけて言った。


「エスペルさん、あなたにお礼を言いたかったの」


 エスペルは少々驚いた様子で、ジルの方を見つめていた。


「あなたのおかげで“闇の使者”を追い払うことができたわ。

本当に、何度も何度も助けてくれてありがとう 」


 エスペルはジルの方をじっと見つめたあと、プイと目線をそらした。


「あ、これは照れてますね」


 すかさずギルアが突っ込んだ。


「すごい、そんなことわかるんだ」


「はい、長年一緒ですからね。

エスペルはプライドの高い鷲で、素直じゃないときもあるんですけどね。

内心はすごく嬉しいんだと思いますよ」

 

「そうなんだ。良かったね、ジル」


「ええ! 」


 ジルは嬉しそうに笑った。

 と、ここでギルアは騒ぎに気付き、奥の方に視線を向けた。


「向こうですごい盛り上がってるようですが、一体何があったんですか? 」


「実はこれこれこういうことがありまして……」


「……ええっ!? 10年間幽閉されていた王の弟が、新しい王に!? 」


「そうなんだ。もともと国民から愛されてた人だから、この国もガラッと変わると思うよ」


「そうですか! それは素晴らしいことですね。

散々いろんなことがありましたから、ホッとしました……」


「そうだね。よし、僕らも復興の手伝いをしようか! 」


「……そうだわ! アルス。その前にちょっと相談なんだけど…… 」


「どうしたの? ジル? 」


「この弓の力で、オアシスを元に戻せるかもしれないの」



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