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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第101話 サラーハ・カラクーム

【前回までのあらすじ】


街の中を走っていたアルスたちは、王宮の地下牢に寄ることにする。

一方街の人が避難していた砂漠では、王と住人とで一触即発の状態に陥っていた。

止めようとするカストルだが、この国の問題だと諭す兵長。

そのとき、「みなさん、もう大丈夫ですよ」という声と共に、

ある人物が現れるのだった。

「みなさん、もう大丈夫ですよ。……私は、サラーハ・カラクームです 」


 先頭に立つ男性は極度(きょくど)に痩せこけており、声にも弱々しさが(にじ)み出ていたが、人々の心を(つか)んで離さないカリスマ性を持ち合わせていた。

 この場にいる誰もが、(おの)ずとこの男性の声に耳を傾けていた。


「サラーハ? ……サラーハっていったか? 」

「陛下の弟君の……? 」

「え? でも10年前、行方不明になった人でしょう? 」


 街の人たちが口々に言い合った。その様子を見て、サラーハは言葉を続けた。


「……みなさんが、私を疑うのも無理はないでしょう。

なんせ私は10年もの間、王宮の地下牢(ちかろう)に閉じ込められていましたから」


 これを聞いて、街の人たちはひどく驚いた。


「地下牢に……!? 」

「ずっと閉じ込められてたってのかい? 」


 続いてサラーハは自身の後ろにいる大勢の人に視線を向けた。

 それにつられて、街の人たちの視線もそちらに向いた。


「……私の後ろにいる大勢の民も、無実の罪で(とら)われていたのです」


「無実の罪だって……!? 」

「おい、あれ近所に住んでた旦那じゃないか? 」

「市場の女将もいるわっ! 」

「見ろ、俺の友人がいる! 長年の相棒だったんだ。なんてこった……。出てこれたんだ……っ!! 」


 そのほかにも次々に知人の名を挙げる声が続出した。

 サラーハは街の人たちの声が一旦落ち着くのを待ってから、さらに続けた。


「……そうです。みなさんの大切な人たちは、地下牢に捕まっていたのです。

しかし、ご覧のとおり、全員出ることができました。

……これもひとえに、勇気ある旅人のおかげです。こちらにいる3名の方々です。

改めて、この場を借りてお礼をさせてください」


 サラーハをはじめ、妻パームとその家族、ガベリー隊長、その他大勢の人たちが、アルスたち3人に向き直った。

 続いて地面にひざまずき、手を組み、頭を地につけるように伏しかがんだ。

 大地の女神イレニアに捧げる祈りの姿勢だった。


「す、すごい光景だ……」


 カストルは思わずつぶやいた。

 まるでアルスたち3人が大海原の中に立ちすくんでいるかのような光景だった。

 やがてサラーハは1人立ち上がると、周りの人たちを見渡しながらこう言った。


「……みなさん。恐ろしい脅威(きょうい)は去りました。

街に現れた巨人も、酸の雨も。……何もかも、なくなったのです!

……しかし、街は壊滅(かいめつ)状態です。道も、みなさんの家も、そして王宮さえも……。

あらゆるところに甚大(じんだい)な被害がでています。

我々の手で、元に戻さなくてはいけません。

みなさんの中に、大工(だいく)はいませんか? 力の強い人は? 手伝えるという人は?

もちろん私も全面的に協力します。

みなさんで力を合わせて、この国を復興(ふっこう)させましょう……! 」


 街の人たちは歓声(かんせい)をあげた。


「俺は大工の棟梁(とうりょう)をしてる! 何でも作れるぜ! 」

「重いものだったら若手衆(わかてしゅう)の出番だな」

「ご飯のことならまかせて。あたしたちで作ってあげられるから」


 私も、僕も、わしも、とあちこちから声があがった。

 これにはアルスたちも心を動かされた。


「サラーハさん、僕たちも手伝います。一緒にこの国をよくしましょう! 」


 サラーハは肩を震わせ、静かに涙を流した。


「ああ、本当に……。なんて言えばいいのか……。

ありがとうアルスさん。ありがとう、街のみなさん……」


 パームが寄り添って「よかったわね、あなた……」とつぶやいた。


「サラーハ様……! サラーハ様万歳……! 」

「偉大なるサラーハ様! 」

「イレニア様が生かしてくださったんだ……! 」


 サラーハは(またた)く間に街の人たちに取り囲まれた。

 そのタイミングに合わせて、カストルもアルスたちに近づいた。


「アルス……! 」


 カストルが砂に足を取られながら駆けてきた。


「カストル……! 」


 アルスも歩み寄り、やがて2人はお互いの手を取り合い、再会を喜んだ。


「よかった、無事で!  随分(ずいぶん)心配したんだぞ」


「心配かけてごめん! カストルの方こそ、街の人たちを守ってくれてありがとう」


 カストルはへへっと無邪気(むじゃき)に笑った。


「幸いこっちはなんともなかったよ。

街の外だったから、巨人の攻撃も受けずに済んだんだ。

……それにしてもアルス、すんごい人を解放したんだな。

さっきまで王と街の人が一触即発(いっしょくそくはつ)の状態だったのに、あの人がきてからコロッと変わってしまったよ」


「そうだったのか……。大ごとになる前でよかった。

……実はここに来る前に、王宮の地下牢に立ち寄ったんだ」


 アルスは地下牢で起こったことを説明した。


◇◇


 オアシスから戻る際に、王宮の地下牢に降りたアルスたち3人。

 そこはパームのおかげで牢から開放された大勢の人たちで(あふ)れていた。


「遅くなってごめんなさい! 皆さん大丈夫でしたか? 」


 ジルがそういうと、近くにいる人たちが反応してくれた。


「ああ、あなたがパームさんの言ってた旅の人かい? 」

「上の方でものすごい音や振動がしたけど、何があったんだい? 」

「俺らは大丈夫だったよ」


 幸いにも、巨人の攻撃の影響は見られず、皆無事のようだった。


「このままここにいるべきか議論が始まったんだけど、パームさんが『あの人たちを信じましょう』の一点張りだったからよお。全員ここで待機してたんだよ」


「そうでしたか。ちなみにパームさんはどちらに? 」


 そう聞くと皆穏やかな表情になり、「一番奥にいる」と教えてくれた。

 言われるままに奥へ向かうと、パームとその家族全員が、1人の男性を取り囲んで泣いていた。

 家族の1人がアルスたちに気づき、事情を説明してくれた。


「10年前に行方不明になっていたパームの夫・サラーハが、ここに(とら)われていたんだよ」


 地下牢で囚われている無罪の人を1人1人開放していったパームたち。

 一番最後に頑丈(がんじょう)な鉄の扉の独房(どくぼう)辿(たど)り着いた。

 なかなか鍵が合わず苦戦したものの、鍵の束の中で一番()びついたものを使うと開いたという。

 扉の向こうでは、1人の男性が懸命に女神に祈りを捧げ続けていた。


「それが、サラーハさんだったんですね」


「ああ、そのとおり」


 サラーハは10年の間生かさず殺さずの状態だったらしい。

 背の高いその男性は()せこけていたが、王族らしい威厳(いげん)をまとっていた。

 パームとサラーハもアルスたちに気づき、感謝の言葉を述べた。

 アルスたちが地上で起きたことを話すと、サラーハから「民に会いたい」との申し出があり、みんなで地上に上がることにした。


◇◇


「……へえ、そうだったのか。それで地下牢にいた全員が出てこれたんだね」


 アルスの一連の話を聞いて、カストルが言った。


「そうなんだ。

……今思うと、僕や兵長たちが地下牢に(とら)われていなかったら、助けてあげられなかった人たちかもしれない。

本当に、あの時ジルが助けに来てくれなかったら、今頃どうなってたかわからないよ」


「変なこと言うなよ。

まあ、こうして無事みんな助かったんだ。結果オーライってことにしようや」


 アルスとカストルは互いに目配せし、にやりと笑った。


「あらお2人さん、何かいいことでもあったの?」


 ジルとリンが間に入ってきた。


「ああ、みんな無事でよかったなって言ってたんだよ」


 カストルの言葉に、ジルは思わずほほえんだ。


「……そうね。本当にそう思うわ。

いろいろあったけれども、こうしてまたみんなで集まることができたのは、神様のおかげね。

きっと日頃の行いがいいからだわ」


 アルスはその言葉を聞いて、懐かしい人の顔が頭に浮かび上がった。

 

「……それ! じーちゃんもよく言ってた言葉だ。

何かいいことがある度に、『神様は常に見てるんだ』って言ってたなあ」


「まあ、本当? それは光栄だわ。メラクさんと一緒だなんて。

いつかご挨拶(あいさつ)(うかが)わなくっちゃ」


 ジルは嬉しそうに言った。


「……ほんとだな。そういえば、メラクさんも賢者様なんだよな。僕も会ってみたいなあ」


 カストルの何気ない言葉を聞いて、アルスは急にメラクが恋しくなった。

 

「そうだね。帝都に戻る時があったら、ついでに寄ってみようよ。

僕も会いたくなってきたから」


「私も会いたーい! 」


「じゃあ、みんなで行こう! 約束だよ! 」


 4人で和気藹々(わきあいあい)と話していると、ふとサラーハの声が聞こえてきた。


「兄上、兄上はおりますか? 」


 とたんに街の人たちはシンと静まりかえり、異様(いよう)な緊張感が流れだした。

 アルスたちもすぐに異変を察し、思わず無言になった。

 サラーハが「兄上」と呼ぶのは現陛下ジャラーハのことであり、サラーハを10年間幽閉(ゆうへい)した張本人である。

 この兄弟の間にそうとう深い確執(かくしつ)が根付いているであろうことは、誰の目にも明らかだった。

 いまや街の人たちは全員サラーハを信頼しており、ジャラーハとは完全に対立する立場にある。

 それはすなわち、サラーハの言動1つでこの国の命運を左右する力を持っているということだった。

 

「兄上と話がしたい。なぜ私を幽閉(ゆうへい)したのか。

そして、この国の民を苦しめ続ける理由は何なのか。この両の耳でしっかりと聞きたい。

ダルウィンの未来のためにも、これは解決せねばならない問題です。

みなさんをつまらない兄弟喧嘩(きょうだいげんか)に巻き込んでしまい、本当に申し訳ないと思っています。

ですが、このままでは祖父の意志が(つい)えてしまう。

この国の民の幸せを願った祖父の思いを、私は引き継いでいかねばならないのです」


 サラーハは1歩、また1歩と、砂に足をとられながらも力強く歩みを進めた。

 街の人たちは無言のまま、左右に分かれて道を開けた。

 正面には、巨大な王と壁のように取り囲む従者たちの姿が見えていた。



ーーーーー

 ついに対峙(たいじ)する兄弟2人――。

 果たしてその結末やいかに……!?

 

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