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円周率

作者: 空飛び猫

「4」


「8」


「8」


「1」


 数字をテンポよく言い合いながら前を歩いている2人を呆れながら見ていた私は、隣を歩いていた3年の桧垣大和先輩に話しかける。


「あれ、いつ終わるんですか?」


「勝負つきそうにないな~」


 苦笑いする大和先輩に「ですね」と同意する。


 円周率を言い合う、奇妙な2人。

 私も30桁くらいまでは覚えてるけど、5分以上続けてるってどういう頭をしてるんだろ。


「とういか、あれ、間違ってるかどうか分かんないんじゃないですか?」


  ふと疑問に思ったことを口にする。


「300桁くらいまでは合ってたから多分、間違えてはないと思うよ」


 …ここにも、頭の構造がよく分かんない人がいた。


  私達の高校は、全国的にも有名な私立高で偏差値も高い。

   そんな中でも前を歩いている2人は抜きん出て頭脳明晰で、色々と学校中で有名なカップルだ。


 彼女の森下 葵は、私と同い年の1年生。

 幼稚園の時からの幼馴染で、童顔の上、155cmと小柄なのに胸だけは私よりもあるという、何とも羨ましいボディの持ち主だ。

 可愛らしい外見からそうは見えないが、合気道初段の腕前で、口数はあまり多い方じゃないけれど、時々辛辣な事を言ったりするので、そのギャップがいい!という男子が後を絶たなかったりする。


 彼氏の吉川陽翔先輩は、3年生で生徒会長をしている。

 高身長でモデル張りの顔に成績優秀とくれば、モテない筈はない。

 1年の後期から継続して生徒会長を務めるという、創立以来の偉業をなしてる人なんだけど、本人を見てると、どうしてもそんな凄い人には思えないのよね。


 なんて失礼な事を考えていた私に、


「決着がついたみたい」


 という大和先輩の言葉で、2人に視線を戻した。


「“0”が3つの後は、“5”ですよ」


「いや、“6”だろ?」


「“6”は、“5”の後です」


 あと数十メートルで学校の校門という所で2人は立ち止まり、「5です」「6だって」と、どちらも譲らず言い合いをしている。

 その2人の横をいつもの風景の一部として、生徒たちが特に気にすることもなく通り過ぎていく。


「0が3個って、600桁の所か?だったら、森下さんの『5』が正解だぞ」


 スマホをいじっていた大和先輩が、正解を調べてくれたらしい…けど、今、何て言った?600桁?


「今日は、私の勝ちですね」


 満面の笑みで嬉しそうに見上げた葵を、高い位置から見下ろす吉川先輩が、真顔のまま腰を折って顔を近づけるとチュッと可愛らしいリップ音をさせてキスをした。

 ...こんな公衆の面前で何してるんですか、生徒会長様。


 顔を真っ赤にしてプルプルと震えている葵に


「勝ったご褒美だ」


 と、吉川先輩が一言。

 一体、誰にとってのご褒美なんですか?


「あのご褒美いいな~」


 遠い目をした私の隣で、ボソリと呟いた大和先輩をチロリと見上げる。

 グォッ!という、くぐもった呻き声に発信源の方を見ると、吉川先輩がみぞおち辺りを押さえて悶えていた。その横には、両手で顔を覆った葵の姿が。

 再び、チロリと大和先輩を見上げる。


「...先輩って、Mだったんですね」


「え、加絵ちゃん?アレじゃないよ!」


 慌てふためく大和先輩をスルーして、耳まで真っ赤に染めて吉川先輩とは違った悶えかたをしている葵に近づくと、ポンッと肩を叩いた。


「ほら、遅刻しちゃうよ、葵」


 促して一緒に正門をくぐっていると、後ろから「待って~」と呼び掛ける声が聞こえてきたが、葵と目を会わせると二人で笑いながら、後ろを振り替える事なく校舎に向かった。











最後までお読み頂きありがとうございます。

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