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落ちこぼれの案内人

 魔導学園。様々な魔術を学び、研究する学園である。ある者は白魔法を極め、あるものは黒魔法を極める。その後は未知なる知を追い続ける。その卵たちを育成する養成所。



「次、出席番号12番!!」

 晴天の空、中庭に嗄れてはいるがよく響く、そんな声が聞こえた午前10時。美しく咲く草花を踏みしめる少女の歩みは、ある場所でピタリと止まる。目の前には広がるは大人数の同胞と声の主である老婆もとい先生。彼女たちは皆、同じようなローブを着ていた。

「始め!!」

 老婆の声がまた響く。少女は緊張を映していた顔を一度両手でパンと引き締め詠唱を開始した。少女の周囲に紅の光が満ち、幾何学的な紋様を構成する。

「はぁッ!!」

 少女の一声、炸裂する光。その中から現れしは獅子。山羊。蛇。それらは歪に繋がり一つの生物として形を成していた。周囲からは歓声が上がる。

「やった、やったー!!」

 少女は飛び跳ねる勢いで喜んだ。しかし、

「グギャアアアア!!」

 絶叫。発する者は彼女が召喚した異形。耳をつんざくその声は異形の消滅と共に失われた。

「んー、惜しい、実に惜しい」

 多くの人間が耳を押さえる中、老婆は冷静にそう告げる。途端に少女の顔は蒼白に染まり、体はガチガチに固まってしまった。

「いや、合格だよ。うん、惜しいってのはもうちょっと長持ちだったらなって思っただけさね」

 カラカラと笑う先生は持っている成績表にAを付けた。

「ほら、アンタたち!!ずっと耳なんか押さえてるんじゃあないよ!!」

 パンパンと手を叩く先生は次の者の番号を呼ぶ。

「次、13番!!」

「は、はい……」

 12番と呼ばれた少女と入れ替えで、おずおずと自信無さげに出てきた少女の髪はショートカットで烏の濡れ羽色。大きめのローブと帽子は体とサイズがあっていないように見える。また、目が悪いのか眼鏡を掛けていた。

「始め!!」

 眼鏡の少女は意を決したようで詠唱を始める。持っている杖を振るうと先程とは違い紫色の光が彼女の前方に現れる。煙のようなそれは一点に収束した後に破裂した。

「ピィ」

 現れた者の姿はコウモリ。丸っこくて可愛らしい。周囲からは可愛いなどと声が聞こえてくる。

「うん……趣向がちょっと違うんだよね」

 先生も困ったように笑う。眼鏡の少女は恥ずかしくなり真っ赤に染まった顔を隠した。



 講義が終わり昼休み、眼鏡の少女は一人、食堂の端の席で項垂れていた。

「はぁ~」

「何度目よ、その溜息」

 小突かれて思わず、「あいた」っと声が出てしまう。その少女は眼鏡の少女と反対の席に座った。

「うぅ~、痛いよ。ケイト」

「アンタが何時までもうじうじしてるからでしょ」

 ケイトと呼ばれた少女は食事に手を付けた。

「ネクのやつ可愛いかったよ」

「それじゃあダメなんだよ~」

 ネク、そう呼ばれた眼鏡の少女は首をゆるゆる振った。

「ケイトのは上手くいっててよかったよ」

「アタシのはまだまだよ。すぐ消えちゃったもん」

 ケイトは栗色のポニーテールを揺らしながら、ネクの真似をするように首を振った。そのわりには召喚した時に滅茶苦茶に喜んでいたような気もするが。

「全然いいじゃん。私なんてこの学園入ってからずっと成績低いし……友達もあまりいないし……」

 いじいじと指先で椅子を撫でる。木目の感覚が柔らかく、心地よかった。

「また弱気になってる。それこそダメよ。先生も言ってたでしょ?」

 消え入るような声を出すネクに対してスプーンが突きつけられる。

「強いのを呼びたい、そういった強い意志が強いものを呼ぶ。そう言ってたでしょ?」

「難しいよ~」

 ネクはうんうんと唸りを上げた。2発目のデコピンが飛んでくるまで時間はそうもかからなかった。


 昼御飯を食べ終えた二人はトレイを片付けた。今日はこの後、ホームルームを行うこととなっている。

「あ、ロッカーに忘れ物した。取ってくるわ」

 ケイトがそう言うので首肯する。廊下の奥へと姿が消えたのを確認して溜息をつく。

「なんで上手くいかないかなぁ」

 とは言うが実際には原因はハッキリとしている。ケイトが言った通りだ。自信がないため実力もない。これに尽きる。しかし生まれ持ってしまった性分、なかなか治らないものである。考えつつ薄暗い廊下をとぼとぼ歩く。

「きゃっ」

 何かにぶつかった。顔を咄嗟に上げると美しいウェーブがかった金髪が目に入る。続いて白いローブ。

「あっ、ごっごめんなさい!!」

 ネクは咄嗟に謝った。金髪の少女は申し訳なさそうにしていた。少し間が空いて、

「私こそ申し訳ありませんでした。もっと周囲に気を配るべきでした」

「いっ、いえ、私が悪いんです!!なんとお詫び申し上げたらいいか……何かお力になれませんでしょうか……」

  ネクは本当に申し訳なく思いながらわたわたとしていた。言っていることも若干支離滅裂である。金髪の少女は少し考えた後にこう言った。

「道案内をしてくださりませんか?」

 

 金髪の少女はネクに白魔法クラスの学部棟へと案内してほしいと頼んだ。ネクは二つ返事でそれに応じた。

「申し訳ありません、最近転入してきたものですから」

 金髪の少女はネクの少し後についてくる。廊下を抜けると中庭へと出る。春の陽射しが白黒の二人を焼いた。

「いえいえ、迷いますよね。私も初めて来たとき学園の大きさにびっくりしました」

 歩みを進めながら他愛ない話をする。やがて学部棟が見えてくる。ここまで案内すれば大丈夫であろう。

「この道を真っ直ぐ行けば白魔法クラスの棟です」

「ありがとうございます。申し遅れました、私の名前はシャーリーと申します。以後お見知りおきを」

 シャーリーと名乗る少女は深々と礼をする。

「あ、私の名前はネクと申します。その、ぶつかってしまい申し訳ありませんでした」

 ネクもまた深々と礼をする。シャーリーは気にしていないという旨を伝えると再び礼を述べて学部棟へと向かった。

「あっ、また、なにかありましたら声かけてください!!」

 ネクはその後ろ姿を見送ったが何故だろうか。その背中は寂しそうに見えた。



 自分のクラスに戻るとケイトがいたので先程のことを話してみる。

「なんだろうね、なんか不思議な感じだったけど」

「どこぞの高飛車お嬢様なんじゃあないの?金髪だし」

「偏見が過ぎるよ……」

 隣の席の友人に少し苦言を呈した。


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