一話 「ぬるぬるしたやつ」
健全なエロを書きたい
とにかく頑張ります。応援して頂けたら幸いです
「ちょっと、重いんだけど!」
「うっわぁ……ぬるぬるして気持ち悪い……」
街で一番の大通り、その中央で、二人の女性冒険者が重なるように転倒していた。二人ともが軽装で、肌の露出が多い服装をしている。下の少女は栗色の長髪に白い肌、上の少女は銀髪に褐色の肌をしていて、なによりも、素晴らしいプロポーションだった。行き交う人が多い昼過ぎということもあって、二人は道行く人から注目されている。しかし、その視線は、ただ転倒しているだけでは集められない数だった。
二人は全身を透明でぬめりのある粘液に包まれ、立てなくなっているのだ。その粘液は異常なまでに光沢があり、陰りなく射す陽光を反射して、一層に輝いていた。当然、通りがかった人々は、その輝きに気付くと注目し、その意味不明な状況に困惑する。男女の反応には少し差があり、我に返るのは男が先だが、視線を逸らすのは女の方が先だった。
「どいてよ!」
「ちょっと待って」
上に被さる栗毛の少女が必死に体を持ち上げると、粘液は二人の体の間に糸を伸ばした。そんなみっともない状態に顔を顰めているのは褐色の少女だけであり、栗毛の少女はどうやら倒れないようにするだけで精一杯で、まっすぐに伸ばした腕を震わしていた。粘液がゆっくりと腿から垂れた時、それまで見ていた男の一部が目を逸らし、一部が足早に立ち去って行く。
「あっ!」
「痛ったあ!」
栗毛の少女がバランスを崩し、またも褐色の少女の上に叩きつけられる。少女の肌をなまめかしく這っていた粘液が、勢いで飛び散った。
「分かった、横にずれて、道のわきまで行こう! 壁に寄りかかれば立てるはず」
褐色の少女の提案で、二人は野次馬をどかしながら壁際に行き、どうにか壁に手をついて立ち上がる。そしてその後、周囲の想像通り、見事に足を滑らせて胸を打ち付けて悶絶した。揺れる胸を見て、更に数人の男が前屈みのまま消えていった。
誰かが手を貸そうと近づく度、何やら文句を囁かれるので、結局誰も近づけないでいると、そこに3人の男性兵士が走り寄ってきた。
「ほらどけ! 邪魔だよ!」
「あーあー、こりゃまた派手にやりやがって……掃除すんのがどんだけきついか」
兵士は粘液が広がった一帯を見てため息を吐いた。そして兵士の一人は、まだ立ち上がれていない少女たちに話しかける。
「君たち、冒険者だよね?」
「は、はい……手を貸して頂けませんか?」
栗毛の少女が答えると、その兵士は振り返って、後ろに控えた荷車を持ってくるように指示を出した。そして、また少女に向き直ると、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんね-。粘液を溶かせる特別な溶剤があるんだけど、上司からは「道路の掃除」にだけ使うよう言われてるんだ。だから、君たちには分けられないんだよね」
これを聞いて、褐色の少女は我慢ならない、と反論する。
「王都で犯罪にあったんだよ? 未然に防げなかったのは衛兵のあなた達じゃない!」
「それはそれ、これはこれだから」
「……それなら、このままそこら中を這い回って、あんたたちの妨害してやるから」
「国家反逆罪で捕まえる。まあ、何にせよ被害者は事情聴取のため同行してもらうんだけどね。粘液まみれで」
そこまで聞いて、少女は震えあがった。こんな姿を町中に晒したら、もう二度と冒険者としてのまともな仕事はもらえないだろう。二人は腕利きとして有名な冒険者だった。既に手遅れである可能性もあったが、それでもこれ以上は勘弁だった。
その様子を見て満足した兵士は、二人に提案する。
「黙っててくれるなら、溶液を掛けてあげようか……もちろん、タダじゃないが」
「え、それって……」
少女が自分の体を抱くようにして男から距離を取る。
「あ、いや変なことじゃあない。先払で六千ゴールド。どうだい?」
二人は高すぎる金額に少し迷ったが、このままではどうしようもないと承諾する。何より、彼女たちには十分な貯えがあった。
「分かったよ、ほら」
褐色の少女から金の詰まった袋を渡された兵士は、それを自分の懐にしまい込むと、後方の兵士に指示を出す。
「ほら、溶剤をご所望だ! 掛けてやれ、お前ら!」
兵士たちが桶に入れた溶剤を少女たちに掛けると、確かに、粘液のぬめりはなくなった。だが、それと同時に彼女たちの服が生地ごとに分解し始めた。
「ちょっと、どういうこと!?」
褐色の少女が崩れていく服を抱えて体を隠しながら叫ぶ。栗毛の少女は、隠すことでいっぱいいっぱいだった。
「いやー、ね。粘液を溶かせるんだけど、服の生地繋いでる糸も一緒に溶けちゃうんだよね! だから上司からは他人に使わないように厳重注意されてんの」
「騙したな! クソ野郎!」
「ああ? 粘液は解けたろうが! あ、事情聴取なんて面倒だから、もう行っていいよお嬢さん」
「後で覚えとけよ、絶対に許さないからな!」
少女たちは、解ける服を抱えながら走り去る。その時には、野次馬は居なくなっていて、残ったのはブラシを持った兵士たちと、未だ道に残る粘液だけだった。
「しかし、本当に誰がこんなもの撒いてんだ。憂さ晴らししなけりゃ、やってられん」
「今月に入ってから三件目ですからね」
「何度事情聴取しても、確実な手掛かりなし。『突然ぬるぬるした何かが降ってきた』って、近くに鳥の魔獣でも住み着いたかね? 早く犯人がみつかりゃいいけど。それと、お前もブラシを持ってんだから、さぼらず磨くんだよ」
「へえーい」
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ガラン王国王都には多種多様な人間がいるが、その中でも他と違う特別な事情を持っているのが「転生者」である。
通りを歩く一人の少女、名前をタチバナカナデという。年齢は十六歳で、職業は冒険者。そして、転生者である。彼女は街で一番の防具職人に作られた皮鎧を装備し、腰には機能性の高いベルトバッグをつけている。あまり女性らしさを感じられる装いではない。
今は仕事中ではあるので当然かもしれないが、彼女は仕事中でなくともこうだ。そういう見た目に気を配って、よく見られたいという気持ちはなかった。どんな時でも、見た目を整えるのは相手を不快にしない最低限である。それに、ドレスコードのある場所には縁がなかった。
仕事中は真剣な表情を崩さない彼女だが、今日は仕事中にもかかわらず、その表情はとても明るい。時折、思い出し笑いをするほどだ。
彼女がこれから会う人は、彼女の想い人であった。ただ、多忙であるために滅多に会えないのだ。今日は、三週間ぶりに町に戻ってきた彼に、居なかった間の出来事を報告する任務を請け負った。
辿りついたのは何の変哲もない民家である。王都では受託街が密集しているため、一軒一軒はあまり大きくない。それを考えれば、その家は二階がある分、大きい方だと言えるだろう。
カナデは一呼吸おいて息を整えてから、少し頑丈に作られた木の扉を叩いた。
「こんにちはー、タチバナです。キムラさんいますかー?」
呼ばれた相手は、二階の窓から顔を出した。黒髪に黒い瞳。身長も高身長で、体型は若干筋肉質だが太くは見えない。何よりも特徴的なのは顔で、どういう訳か誰が見ても「整った顔」と評される。彼は扉の前にカナデを見つけると、口を開いた。
「今行く。少し待って」
顔を引っ込めた後、奥から階段を降りる音が聞こえ、やがて扉の鍵が開く。扉を開けて出てきたのは、部屋着姿の青年だった。
「どうぞ、椅子に座って。出先で買った紅茶があるから淹れるよ」
青年の名前はキムラコウジ。年齢は十八で転生者。
職業は、革命家だ。




