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83.後半戦

 台座の上で戦況を眺める。

 優勢ではあるが、敵の数が多い。

 六ケ所から際限なく、敵が湧き出てくる。


 そして、厄介なのは、空を飛ぶ敵が少なからずいる事だろう。

 プリスが弓で、炎樹が魔法で対応しているが、他の近接組は手が出せない。


 そのプリスだが、ステータスを確認して驚いた。



 【プリシア・リブ・ビアーシェ】エンジェル #LV.55

 HP:136【+27】

 MP:914【+182】

 STR:29【+5】

 VIT:19【+3】

 AGI:159【+31】

 DEX:287【+57】

 INT:315【+63】

 MIN:153【+30】

 【】は契約霊強化による補正値


 【弓技】【弩技】【天聖技】【神聖術】【加護】【冥術】【聖歌】【呪歌】【浮遊】【料理】【お菓子作り】【霊化】【魔術耐性(中)】



 レベル50オーバー。

 おいおい、月子さん、どんなスパルタしたんですか?

 そして、『ハイ・ゴースト』から『エンジェル』にクラスチェンジしている。

 遂に、名実共に天使に成ってしまった訳か。


 スキルも、【祈り】が【加護】に、【霊体(物理攻撃無効)】が【霊化(物理攻撃無効)】、【魔術耐性(小)】が【魔術耐性(中)】に変化している。



 スキル:【加護】#常時発動型

 【神聖術】と【聖歌】の効果アップ。

 不死者、魔族特効。


 アクティブスキルで【神聖術】の効果アップだけだった【祈り】が信じられないぐらい強力になってる。


 スキル:【霊化(物理攻撃無効)】#常時発動型

 物理攻撃を霊と化し無効化する。



 普段は実体を持っている、と言うことか?

 オレを掴めたのも、このせいか?


 そして、増えている【天聖技】は、天使専用の武技。


 【舞い落ちる羽(フェーザーダンス)

 範囲内の味方のHP&MP回復(小)。

 アンデット、魔族にダメージ。


 今の所、この一種類のみだがこれから増えていくのだろう。


 契約霊強化によるステータス補正も相まって、とんでも無い性能に見えるんですが。

 正直、オレより強いんじゃね?


 【料理】と【お菓子作り】は、月子さんに預けたからこそか。

 実に微笑ましい。


 広間で、プリス達が大量のモンスターを相手に奮戦している間、オレはただ眺めていた訳ではない。


 オレが腰を下ろした石座。

 そして、祭壇を丹念に調べていたのだ。


 ほら、こういう場所って、隠された階段がお約束だし!

 ま、階段は無かったのだけど、代わりに神器『聖玉の首飾り』が祭壇に供えられていたので回収する事にする。

 魔王の封印の一つが解かれた今となっては、無用の長物かも知れないが。


 ただ、このまま持って居ると危険そうなので、【偽装】を掛けて置いたほうがいいな。


 スキルを再取得し、ちょうど、アイテムボックスに入っていたネックレスの姿を写し取り、神器をだだのアクセサリーに偽装する。


 未だ、湧き続けるモンスターを尻目に、炎樹がこちらに歩いてきた。


「MPが、尽きてしまいました。師匠」


 あっそ。


「師匠もやめろ」


「そんな!では何とお呼びすればよろしいので?」


「普通に名前で呼べばいいだろう」


「何て恐れ多い!」


 うぜぇ。


「あの……ついでと言っては語弊があるのですが、是非私達のギルドに加わっていただけませんか?

 何ならギルマスの座をお渡しします」


「お断りします」


「そんな……」


「いや、おかしいだろ。自分で立ち上げたんだろ?」


「それは、そうなのですが。

 実は、最近人が増えて意思の疎通が難しいと言いますか、何というか、揉め事が多いのです」


「知らんわー。それをオレに丸投げしようとしたのか」


「お助け下さい」


「無理無理。ギルマスの先輩方に組織運営のイロハを教わった方が良い。クロノスさんとかオクターさんとか」


 丁度、そのギルドのメンバーも居ることだし。


「その二つは、少々いざこざがありまして。正直、あまり仲良くないのです」


 何やったの?

 いや、まぁ一時期、新世代だーとか調子に乗ってるってのは耳にしていたが。


「オレ、そういうの面倒でソロやってるのもあるしなー。解散すれば?」


「このままなら、遠からずそうなりそうです……」


「ま、その件に関してオレは力になれることは無さそうだ。」


 そろそろ、邪魔にならない程度には戦えそうだ。

 遠巻きにプリスの援護をしよう。


 立ち上がって、未だ戦闘が続くホールの中心へ歩いて行く。


 しかし、終りが見えないな。これ。






「「プリス!!」」


 オレとリィリーが同時に声を上げる。

 敵の放った電撃が、宙を舞うプリスを直撃した。


 麻痺か、気絶か。

 そのまま落下するプリスの体を身を投げ出して、地面に叩きつけられる直前でかろうじて受け止める。


 そう言えば、プリスを抱いたのはこれが初めてだった。

 こんなに小さかったのか。


 しかし、そんな感傷に浸っている暇はない。


 駆け寄ってきたリィリーに、動かないままのプリスを預ける。


「月子さんの所へ」


 頷きながらプリスを抱き抱えるリィリー。

 その顔には、疲労の色が浮かんでいる。


 戦闘開始から三十分は経とうとしているか。

 既に、炎樹に続き、ネフティスも戦線を離脱している。


 スランドも雪椿も限界が近そうだ。


 ふぅ。


 大きく息を吐き出し、意識を集中させる。

 両手に溟剣(クリスタルブレード)を構え、敵の中へ飛び込む。


 インターバルを挟んだ分、オレが一番元気だ。

 もう、どうとでもなれ。






「もう少しの辛抱だ! 踏ん張れ」


 スランドの激が飛ぶ。


 何が?

 何があと少しなのだ?


 問い掛けを投げようとしたその時、バタンと大きな音と立てて広間の扉が開いた。

 そして、人が雪崩れ込んでくる。


「遅くなった! 無事か!?」


 聞き覚えのある叫び声は、鹿島さんか?


 広間に入ってきたプレイヤーたちは、その勢いのまま、敵に襲いかかって行く。


「雪、ジン、巻き込まれるぞ。下がれ」


 スランドの忠告に従い、祭壇の前まで後退する。


 祭壇の前には、月子さんによる、聖域が形成されている。

 オレたちC2Oの面々はその中で、WCOのプレイヤー達が戦う様子を眺めていた。


「呼んでいたのか」

「ああ。お前の機転のお陰だ」


 鹿島さんをPKした事か。恨まれては無さそうだ。


 WCOのプレイヤーは四パーティ二十四人。

 いずれも、それなりのレベルなのであろう。

 連携の取れた動きで、敵の数を減らしていく。

 やがて、床に広がっていた黒いシミも無くなり、湧き出る敵も居なくなった。




「終わったか」


 プレイヤーが多くてよくわからないが、敵の姿が完全に消えたようだ。


 WCOの面々が勝利の雄叫びを上げている。


 彼らは、和平派と見て間違い無しだろう。

 ただ、目の前に苦酸を舐めさせられた相手が居て、どう出るか分からない。

 そんな矢面に、オレを助けにわざわざここまで来た仲間を立たせるわけには行かない。


 彼らの元に進み出る。

 一歩離れて、スランドとリィリーが付いてくる。


「オレ、一人で行くよ」


 そう言ったが、二人共返事をしなかった。


 相手集団の中から、見知った顔、鹿島さんが進み出てきた。


 他に、言いたいことは沢山あったであろう。

 だた、鹿島さんが言ったのはたった一言。


「協力に、感謝する」


 そして、笑顔で右手を差し出してきた。

 その手を握り返し、固い握手をする。


「助太刀、痛み入ります」


 向かい合う、WCOとC2Oの面々。


 もう少し、彼らが早く駆けつけ、共に助け合い剣を振るったならば、互いに違った感情も芽生えていたであろうが。

 今まだ、両者の間には、やはり壁があるか。


 そんな中、WCOの中から、戦士風の一人の男が笑顔でオレに近寄ってきた。


 拳でオレの胸を軽く叩く。


「お前、言えよ! 水臭い」


 この声は。


「倉……お前、居たのか!」


 倉本!

 クラスメイト。危うく、名前を呼びそうになった。


「おう。ハイドラだ。宜しくな。

 ったく、こっちの話聞きたいって言うから何かと思えば」


 そう言って、倉本、いや、ハイドラは笑いながらオレにヘッドロックを掛ける。


「ワリィ。軽く聞けるような話じゃなかったんだよ。しかし、オレの事知ってたのか!?」

「当たり前だろ! 知り合いがトッププレイヤーなら嫌でもチェックするわ」


 あっけに取られる面々。


「知り合い、か?」


 スランドが、困惑した声を掛ける。


「あ、リアルの友人。こっちでは今はじめて会った」


 振り返ってそう紹介する。

 何時の間にか全員後ろに並んでいた。


「そうですか、ジンがいつもお世話になってます」


 そう言ってリィリーが頭を下げた。

 ハイドラが何か言いたそうな目でオレの方を見る。


 前も、こんな事あったな。


「さて、オレはそろそろ戻るよ。ちょっと疲れた」


「おう! 今度一緒に狩りに行こうぜ!」


「一緒に?」


「そうだよ! その為に皆で戦ったんだろ!」


 ハイドラが当たり前だろ、と言わんばかりに言い切った。


「ハハハッ! そっか! そうだな!!」


 そう答えて、オレたちはハイタッチを交わした。


 それから、オレは『邪の杯』を取り出し、鹿島さんの向けて掲げる。


「これ」


 鹿島さんは、どうぞ、と言うジェスチャーを返してきた。

 好きにしろと言う事だろう。


「ネフティス」


「何です?」


「叩き潰してくれ」


 そう言って、床に杯を放り投げた。


 ネフティスの大剣がゴンっと鈍い音を立てて、杯の上から振り下ろされる。

 剣に潰された杯は光の粒子と化して掻き消えた。

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