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80.囚われの身

 彼が戻るのを暫し待つ。


 戻ってきた様だ。


「どうでしたか?」


「貴方の話、裏が取れました。子爵が殺されたのは確かなようです」


「どうやって調べたんですか?」


「ゲーム外でフレンドと連絡を取り合っているのです」


「なるほど。そういう事ですか。

 ……そのネットワークの中に、スランドって言う、忍者は居ませんか?」


 さて、どう出る?


「……」


 返事が無いのは、肯定と一緒だと思うのだが、いかがですか?


 止めよう。

 牢屋の中で腹の探り合いをしていても仕方ない。


 メニューを操作し、変装を解く。


「!?」


 オレの正体に気付いただろう。


「そうか……君が『協力者』であったか……」


「はじめまして。C2Oプレイヤーのジンです。スランドが言っていた協力者は貴方ですか?」


「そうです。鹿島と言います。危険を顧みず行動していただいた事に感謝します。それにしても、こんな場所で落ち合うとは……」


 鹿島と名乗ったプレイヤーは苦笑しながら言った。


「さて、どうしますか? なんとか抜け出す方法を探しますか?」


「いや、私はもう暫くこのままで居るつもりです。確かめたいことがあるので。君に抜け出す手段が有るなら僕に構わず行って下さい。

 スランドから託された親書はムノス子爵宛でしょう? であれば、こちらの世界にはもう用は無いはず。あちらに戻って大丈夫でしょう」

「親書は、まぁ、言う通りなんですが。とは言えこのまますんなり帰るわけにも行かないので、話ぐらいは聞かせてもらえませんか?こちらで何が起きているのか。そして、貴方は何故ここに残るのか」


「わかりました。

 ここまで来てくれたのですから、それくらいは答えさせてもらおう。

 スランドからはどれくらい聞いていますか?」


「こっちで、抗戦派と和平派が対立している、ぐらいしか聞いていません」


「そうですか。

 では、順に話しましましょう。

 まず、前回の戦争の後、敗戦の責任はどこにあるのか、そして誰にあるのか、という話になりました。

 槍玉に上げられたのは、中心になってプレイヤーを取りまとめ、そして指揮を採った当時の有力ギルドのマスター達。

 彼らは執拗な嫌がらせや集団PKの的となり、今はもうゲームにアカウントすら残していません。

 それを面白半分に煽っていたのが、今、抗戦派として中心にいる連中です。

 旧トップ勢の排除が終わると、連中は『前の奴らはバカだ。次は勝てる』と、そう言い出しました。

 まぁ、殆どのプレイヤーは信じませんでしたが。

 連中はこうも言いました。

 『我々には強力な兵器がある』と。

 それが、魔人です。

 実際に、連中は魔人を使役してみせました。

 それで、潮目が変わったように思います。

 今は抗戦派が一定の支持を得ています。

 魔人で各地を混乱させ、戦力を分散させた後に全軍で侵攻する、どうもそんな計画のようです」


 『負けっぱなしは嫌なんで、次は叩きのめしてやりたいな!!』

 ここに来る道中で出会った雷十郎さんの言葉を思い出していた。


「鹿島さんは、反対なんですよね? 何故?」


「理由は三つ。

 一つ目、当時のトッププレイヤー達を引退に追い込んだ連中のやり方が気に入らない。

 二つ目、魔人を使う、それ自体がどうにも怪しく思える。

 三つ目、それでも勝てる見込みが少ない。

 そんなところです」


「一つ目は、まぁわかります」


「引退していった人の中には、親しくしていた人も何人かいました。

 『気にするな』とは言ってくれているんですが……」


 鹿島さんが、下を向いて首を横に振る。

 どんな状況だったのだろうか。知りたいとも思わないが。


「二つ目なんですが、魔人とは戦ったことありますよね?」


「はい。向こうで何度か」


「私たちは、あの戦争の後になるまで、あんなものがこちらの世界に存在するなんて知りませんでした。

 おそらく、意図的に何かを隠している者がいる。

 若しくは、プレイヤーからは知り得ない情報を持っている者か。

 その正体も、核心も掴めていません。

 今、必死に探りを入れている所です。

 私達の考えでは、その何者かは2つのゲームの存在をおそらく、こちらのゲームが始まると同時に知っていた。

 そして、戦争前にそちらにプレイヤーを送り込み、そして今、こちらでプレイヤーたちを影から扇動しようとしている。

 それが、NPCなのかゲームプレイヤーなのかすら見当も付いてませんが」


「その何者かが、魔人を使っていると?」


「ジンさんは、あの力、どう思いますか?

 召喚するのに、NPCしくは、プレイヤーの肉体を必要とする。

 それは高レベルである程良いとされている様です。

 そして、それは不可逆であり元に戻らない。

 つまり、プレイヤーであればアカウントのデータの消滅を意味するのです」


 あの騒動以来モーリャーと会っていないが、やはりそういう事か。


「なるほど。C2Oの潜り込んだ奴は自分のアカウントデータを犠牲にしたんですね」


「そういう事でしょう。

 逆にこちらでは自分のアカウントデータで試すわけには行かないので、NPCか他人のデータを使っているようです」


「……NPC……」


「本来、NPCに危害を加えた場合、理由如何によってペナルティ対象となるんですがね」


 ……オレが引っ掛かりを覚えたのは、そんな事では無いのだが、今それを鹿島さんに説明しても理解されないだろう。


「他人のデータとは? 高レベルのデータを自ら差し出すプレイヤーなんて多くないでしょう?」


「リアルで金銭の取引があるようです」


「な……何でそこまでして……」


「それだけの見返りがあるということなのでしょうが……。

 ゲーム内の一プレイヤーが使うには、少し過ぎた力だと思うんです」


「問題にならないのですか?」


「今のところ、表立っては。

 NPCは、死んでも波風が起きない人物、例えば死刑囚などを生け贄にしているようですし、アカウント売買は、その証拠は掴めてません。あくまで噂レベルの事です。それに、今まで生み出された魔人もそう多くはないので」


「まさか、鹿島さんのここに留まる理由って?」


「ええ。それをこの目で確かめられないか、と思っています。

 何しろ連中から見れば僕は邪魔で消してしまいたい存在でしょうし、都合のいい事に今は罪人です」


「いや、しかし、いくらなんでも死刑になどできないでしょう?」


 いくらプレイヤーと言えど、そんな裁判官みたいな事を出来るはずがない。

 だが、鹿島さんは静かに首を振る。


「連中は、この国の有力貴族に取り入ってます。でなければ、戦争なぞ起こせないでしょう」


 闇が深い、と言うべきか?


 それにしても。


「危険すぎませんか?」


「まあ、危険は承知の上です。幸い協力してくれる者もいる。

 まぁ、アカウント消滅、何て事になったらそのままC2Oで新規に始めますよ」


 そう言って小さく笑った。

 今のは本心だろうか?


「そして、最後。

 連中の計画が上手く行ったとしても、それでもC2Oには勝てないと、そう思ってます」


「そうですか? 魔人は、脅威ですよ」


「でも、君はその脅威を撃退している。

 そして、今、君と等しい力を持つプレイヤー達があちらには沢山出現している。

 前回の戦争の後、彼我の違いは何だったのか?

 そして、本当の敗因はどこにあるのか。

 それを私なりに分析しました。

 私の結論は、システムの根本的な思想の相違です」


「システムですか?」


「はい。

 C2Oのスキル制度は良く考えられて作られていると、そう感じました。

 プレイヤーの自由度に合わせ拡張されていく、そして、それを受け入れるだけの世界が存在している。

 あちらには、図書館があり、神話があるそうですね。

 こちらにはそんな物は存在しない。

 同じように見えて、世界の厚みが違う、そう感じています。

 つまり、プレイヤー無しでも成立する世界があり、そしてその中でプレイヤーが各々楽しんで欲しい。そんな作り手の思いを感じざるを得ません」


 今の言葉を氷川さんが聞いたらなんて言うだろう。

 『当然だろう!』と、勝ち誇った顔をする、そんな気がする。


「そして、それを体現したのが君だと、そう思っています」


「オレ、ですか?」


「ええ。調べた限りですが、要所要所で君がこちらの邪魔をしています。

 戦争への大量のアンデット軍団の投入。

 そして、戦争中の魔人襲撃阻止。

 最後に、極大魔法の消滅。

 これらはずべて君の実績ですよね。

 そもそも、戦況が膠着したのも、君以外のユニークスキル持ちの影響が大きい。

 それも、元を辿れば君が関わっている」


 よく調べてるな。

 ユニークスキル持ちってのはブンさん初めとした、塔攻略組の事だろう。


「いや、買い被り過ぎですよ」


「そんな事はありません。

 そして、今ここに居る。

 手の内を知られた以上、連中がどれだけあがこうが、勝ち目は無いように思えますね」


 手の内を明かしたのは貴方ですけどね。


「私の話はこんなところですかね。

 ゆっくりと君とC2Oの事を聞きたいのですが、それは又の機会にしましょう。

 なんとかここから抜け出す方法を考えなくては」


「何でですか?」


「先程言ったとおり、ここに居ては君まで魔人の生け贄にされる可能性が高いからですよ」


「なるほど。このまま居れば魔人で悪巧みをしている連中の顔を拝めると言うことですね」


「何を馬鹿な事を。アカウント消滅かもしれないんですよ!?」


 それは、困るな。

 そうなると、オレの目的、プリスの蘇生が叶わなくなりそうだ。

 ただ、魔人を召喚している連中、と言うよりもその儀式には少し興味がある。

 おそらくだが、プレイヤー、NPCに限らず、肉体は入れ物に過ぎない、と言うことだよな。

 プリスも同じだろうか?

 肉体、入れ物さえあれば、蘇るのか?

 まぁ、そんな犠牲の上に蘇った所でプリスが喜ぶかと言う疑問もあるが。


 その為には、その儀式とやらを拝見するのが一番だと思うのだが。

 そして、このまま捕まって居るのがどうやら一番の近道らしい。

 アカウント消滅のリスクと引き換えに、ではある様だが。

 しかし、そんなアカウント消滅なんて強引な手段が罷り通るものだろうか?

 ……氷川さんなら「それもこの世界の有り様」なんて半笑いで言いそうではある。


 そのリスクはここから抜け出す方法が無ければ解消しないも同然である。


 鹿島さんに声を掛けられ忘れていたが、手錠を外そうとしていたのだった。


 メニューを開いて装備解除。


 ん? あっさり成功した。


「あの、この手錠、装備解除出来るんですが……」


 外れた手錠を見せながら、鹿島さんにそう伝える。


「え、そんな馬鹿な。いや、僕の方はダメですよ。外せないです」


「ん? 何でですかね」


 再度、メニューを確認。


 うん。

 先ほど出来なかった事は全て問題なく出来るようだ。


纏風(アクトブースト)


 試しに、魔法を発動。


 うん。問題なく発動する。


[捕まって牢屋に入れたー。そこで鹿島なる人物と遭遇。協力者はこの人で良いんだよな。

 それと、ムノス子爵は殺害されたようだ]


 とスランドにメッセージを送る。


 ふむ。

 返信は待つとして、転移も出来そうだ。


 とすると、当面の危機は脱した感じか?


 とは言え、手錠外れてたら怪しまれるよな。


 それっぽい物が手に巻かれてればいいんだよな。


 メニューを操作して、【偽装】スキルを習得。

 そして、アイテムボックスから【縛鎖<両腕拘束>】を取り出す。

 懐かしいな。これ。


 あ、そう言えば!

 縛鎖をアレィに外してもらった時に、【解呪師】なる称号をもらってたな。


 手錠が外せるのはそのせいか?

 それ以外考えつかないしな。


 まぁ、良いや。


 縛鎖に【偽装】スキルを施し、手錠の姿へと変化させる。

 それを装備。


 元からあった手錠は、簡易ベットの下にでも放り込んでおくか。

 いや、何か使い道あるかも。

 貰っておこう。


「手錠は外せました。これで、行動に何も制限がなくなりました」


「凄い……」


「これで、自分の身は守れそうなので、もう少し、お付き合いしますよ。オレも魔人の秘密は知りたいですし」


「いや、でも危険ですよ。何が起きるかわからないのに」


「危なくなったら逃げますよ。それと鹿島さんに万が一の事がありそうなら、死に戻って逃げれるように全力で殺しても良いですよ?どうします?」


「それは……そうして貰えると嬉しいですが……

 変な話ですね。助けるために殺してくれとは」


 鹿島さんは苦笑しながら答えた。


「ありがとうございます。

 正直、スランドから聞かされた時は半信半疑でした。

 それに、プレイヤーが一人来た所で状況が変わるはずが無い、そう思ってました。

 でも、君なら、全てを引っ繰り返してしまいそうだ……」


「まだ、何も変わってませんよ。それと、礼はスランドに言って下さい。

 オレがここに居るのは、彼女が必死にオレを動かしたからです」


 土下座までして。


「ええ、そうですね。そうします!」

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