78.潜入三日目
三日目
ログインして、スランドからのメッセージを確認。
やはり、昨日のNPCはスランド達の放った間者のようだ。
網を張られているので、無意味に犠牲者を増やすなと忠告の返信をしておく。
宿屋から出ると外は、夕闇の中だった。
直に夜となるだろう。
今日中に次の町まで。
順調に行けば四日後にはキョウへ着ける予定だ。
「あ、あの……」
町から出よとしたところでプレイヤーに声をかけられた。
「すいません。この街から出れなくて。
助けてください」
黒縁メガネをかけた、ショートヘアの小柄な少女。
桜に続き、二人目のメガネキャラ登場!
「どういうこと?」
「オーシカーでパーティーを組んだ人が、転移でここまで連れて来てくれたんですけど、突然いなくなってしまって。
外に出たらモンスターは強くて何も出来ないし……」
イタズラの被害者か。
「オレと同じだ。悪いけど力になれそうにない。もっと強くて力のある人に頼んだ方が良いよ」
そう言って、立ち去ろうとした。
だが、相手は諦めずに食い下がってくる。
「他の人は、話も聞いてくれないんです!
西へ行くなら一緒に連れて行って下さい!
それとも狩りですか?
いくつかアイテムお譲りするので、私も連れて行って下さい!」
「うーん……」
旅は道連れ、世は情け、か。
「わかった。一緒に行ってもいいけど、助けたりは出来ないよ。オレ、軽業師だから」
「ありがとうございます!」
パーティーを組んだのは、ミニアという赤魔道士。レベルは3だった。
「戦闘は全て、避ける。そのつもりで」
「はい!」
街道を行けば比較的、敵との遭遇は少なくてすむ。
これは、昨日雷十郎さん達から教わったことだ。
端から見れば、場違いな程低レベル二人は戦闘をよけつつ次の町を目指し、西へ進んでいく。
【千里眼】で遠方の様子を伺い、敵の少ないルートを模索する。
そこを全力で走り抜ける。
その繰り返し。
なんとか、二人共無事に次の町が視界に入るところまで来た。
「あそこが、次の町みたいだ」
「すごい。信じられない……。やった!」
ミニアが突然抱きついてきた。
「お、おい……」
抗議の声を上げようとした途端、体の自由が効かなくなる。
これは、麻痺か!?
何故?
そのまま地面に倒れ込んだオレを見下すミニア。
「頑張って、ここまで来たのに残念。
何でって顔してるね。うん。良い顔が台無しだよ?
じゃねー」
ミニアは、オレの顔に向けて、ナイフを振り下ろした。
死に戻り。
先程出発した町に、オレは立っていた。
PK。
最初っから罠だったわけだ。
しかし、怒りをぶつける相手は既に無く……。
再度、出発する気にはなれず、オレはそのまま宿屋に入って行った。
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四日目
パーティーを組むのは止そう。
そう、心に決めた。
そして、昨日思いついた方法を実行してみる。
【千里眼】を発動したまま、片目を開ける。
右目と左目から異なる映像が、脳内に流れ込んでくる。
この状態なら、周囲を上空から俯瞰して安全を確保しつつ、行動できるのではないか。
問題は、この状態で、満足に歩行が出来るか。
なのだが。
試して、慣れていくしか無い。
フィールドの外に出て、周囲にPCが居ないの事を確認した後、オレは自身へVIT強化のバフを掛ける。
これで、道中モンスターに襲われても多少は耐えれるだろう。
二つの視界を投写しつつ、街道を歩き出した。
なんとか、昨日の倍以上の時間をかけて、次の町へたどり着くことが出来た。
ただ、片目千里眼状態は道程の半分も持たなかった。
途中で、疲労感が酷くなり、解除して休憩を挟んでいる。
これは、慣れるまで時間がかかりそうだ。
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五日目
片目千里眼状態を維持しつつ、次の町へ。
なんとか、片目千里眼状態も徐々に慣れつつある。
この状態で戦闘はまだ無理だが。
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六日目
本日も移動。
目的の「キョウ」の一歩手前まで到着。
そのまま勢いに乗って「キョウ」まで足を伸ばす。
なんとか「キョウ」へ辿り着いたところで力尽きる。
片目千里眼状態は便利だが、処理情報が多くなるためか、脳への負担が大きいように思う。
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七日目
メッセージが三件。
一つは第四回闘技大会の告知。
まぁ、見送りだろうね。
もう一つは楓から。
[ミーちゃんがクラスチェンジしました!
今度は、白狐になりました!]
真っ白な狐を抱いた楓の画像付き。
最後は、月子さんから。
[こっちは変わらず元気です。
早く帰ってきてね。プリス]
こちらも、画像付き。
プリスとリィリーが大盛のパンケーキと格闘している様子である。
和むわぁ……。
それぞれに返事を返した後、スランドへもメッセージを送る。
『キョウに到着。以後の指示を待つ』
スランドからの連絡がなければ、親書を渡すべきNPCの居場所も、WCO側の協力者の居場所もわからない。
つまり、一応目的地まで辿り着いたは良いが、やることがない。
向こうでは、どうしてたっけ?
たった一週間前の事なのにひどく懐かしく思える。
確か、誰かしらの狩りに付き合うか、初心者迷宮でミノさんと戯れるか、図書館で情報漁るか、て感じだった。
そういや、ミーちゃんがクラスチェンジって、楓達のレベルはどれくらいになってるんだ?
潜入してからまともに戦闘してないので、思いっ切り突き離されている気がする。
『協力者』に合ったら、目立たない狩場を教えてもらおう。
出来れば、向こうの初心者迷宮に相当するものがあれば良いのだけれど。
誰にも邪魔されずひたすらに体を動かしたい。暴れたい。
ただ、今出来ることは情報収集のみ。
今日は休日なのでひとまず、NPCの振りをして街中をぶらついてみるか。
NPCに変装して、キョウの町の観察する。
談笑しながら歩くプレイヤー達、そして時折目にするNPC。そのどちらもC2Oのそれと大差はなかった。
考えてみれば、C2OとWCO、入り口が違うだけで世界は同じなのだから当たり前のことだ。
宿を出る前に確認した地図を頼りに街を散策していく。
街は碁盤の目のように、道が直行している。
中心に、この世界の『王』が居るとされる一画があり、そこは高い塀で区切られていて立入禁止となっていた。
その周囲を取り囲むように、大きな屋敷が軒を連ねている。
名のある貴族などが住んでいるのであろうか。
この辺にプレイヤーが姿は殆ど無い。
居るのは、オレと同じように街中を探索している連中ばかりのようだ。
少し離れて、オレが泊まっていた宿屋の近く。
飲食店や、武器防具屋等が立ち並ぶ、プレイヤー達が盛んに行き交う一画。
そこで、プレイヤーで賑わう定食屋に入り、休憩をとる。
興奮気味に狩りの報告をしあう者達、これから出発であろう念入りに計画を話し合う者達。
それらが、全てC2Oで見慣れた景色である。
少し違うのは、NPCに変装しているオレに誰一人興味を示さないと言う一点を除いては。
運ばれてきた料理を口にしながら、周囲の話に聞き耳を立てる。
何か、情報は無いか。
そう思ったのだが、聞こえてくるプレイヤー達の楽しげな声に、寂しさと、そして姿を偽ってこの場に座っていることに罪悪感を感じ、食事も半ばにして席を立った。
スランドからの連絡はまだ無い。
やる事が、無さ過ぎる。
隣接するエリアのオーシカーはC2Oで言う、センヨーに相当するWCOのゲーム開始地点だ。
そこに、魔人、転生に関して何かしらの情報がある、と言うのはスランドから聞いたとおり。
転移出来るようにしておいて、損はないだろう。
少し足を伸ばしてオーシカーまで行ってみたいが、今日は休日なのでログインしているプレイヤーの数が多い。
よし、明日、そこまで行ってみよう。
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八日目
予定変更。
スランドからメッセージがあった。
[接触対象、ムノス子爵の所在地、及び容姿を送る。
周囲に気づかれないようなるべく一人でいる時に接触してくれ]
キョウのマップとNPCの画像付きだった。
場所は、昨日ぶらついた貴族街の一画。
画像には遠目に壮年の男性が写っていた。
それにしても、一人の時に接触とか、無茶を言う。
姿を表わすのを見張ってなきゃいけないのか?
[協力者はどうなった?]
返信をして、ひとまず地図で示された、ムノス子爵とやらの居場所へ向かう。
そこには大きな屋敷があった。高い塀に囲まれ、門扉は閉ざされていた。
周囲に人の姿は殆ど無い。
さて、ムノス子爵は、この館の主人だろうな。
一人で居るタイミングなんてあるのかね。
狙うとしたら外出の時か。
ここで張り込んで出かけるのを待つのか?
いや、身を隠せるような所は近くに無い。
周囲の様子を画像に残しつつ、一旦宿屋へ撤退。
[接触って、どうやってやるんだ?]
画像付きでスランドにメッセージを送っておく。
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九日目
スランドから返信。
[忍び込め。夜が良い。
協力者は連絡待ち。すまぬ]
流石! 忍者!
方法が斜め上!
[出来るかバカ]
反射的に返信を返す。
暫く、子爵の館を見張りつつ様子を探るか。
そう言えば、千里眼であれば離れた場所にいても大丈夫だな。




