75.月子の家
コハの郊外。
静かな住宅街の一画に月子さんの家があった。
半月程前。
オレは、当面の予定を見ながら、ログインが激減するであろうことに頭を痛めていた。
悩みの種はプリス。
オレのログイン時間が減ると、口にこそ出さないが、寂しそうな顔をしている……気がする。
そんな折、Creator's Homeで月子さんにそれとなくそんな話をしたら、だったら私が当面預かろうかと提案してきた。
少し、遠慮がちに。
不思議とプリスが一番なついているのが月子さんなので、プリスは大喜びしていた。
「では、お願いします。ご迷惑だったら、いつでも言って下さい」
「そんな事、無いわよ。全然。子どもは、大好きだから」
何故か、少し寂しそうな笑顔が印象に残った。
月子さんが、コハに家を買ったと連絡が来たのはその翌日だった。
リビングのドアを開ける。
丁度ティータイムだったのだろう。テーブルの上にはティーカップと月子さんのお手製ケーキが乗っていた。
「こんにちはー、げ!」
予め、メッセージで月子さんとプリスが家にいるのは確認済みだ。
しかし、予定外の人物が一人。
「何? 私がいたら何かマズいの?」
リィリーがケーキを食べながら、ジト目で睨む。
「い、いや。そういう訳じゃ……プリス、元気にしてたか?」
椅子に腰掛けながら、プリスに問いかける。
「うん! このケーキ、プリスが手伝ったんだよ!」
ふむ。ケーキを一緒に焼くなんて、考えもしなかった。
オレと居ても戦闘ばっかりだもんな。
「紅茶はレモンでよかったのよね?」
「ええ、ありがとうございます」
月子さんが、切り分けたケーキとティーカップをオレの前に置く。
「それで、そろそろお迎えかしら?」
「それなんですが、もう暫くこのまま預かって貰っても良いですか?」
「私は構わないけど……」
そう言ってプリスの方を見る。
「月子と一緒、楽しい! 次はシチュー教えてもらう!」
「そうかー。じゃ、今度はシチューを食べさせてもらおう。
プリスもこう言ってるので、よろしくお願いします」
「分かったわ」
これで、問題は、解決なんだけど……。
ジト目で睨むリィリー。
どうしたもんかね。
「今度は何するの?」
「ん、ちょっと、忍者の依頼で西へ」
「私も行く」
「ダメ」
「何で!?」
怒ったようにリィリーが、立ち上がる。
だが、すぐに座り直す。
「ごめんなさい」
リィリーが、俯きながら呟く。
月子さんが気を効かせたのか、プリスの手を引いて外へ行ってしまった。
「えっと、西。
つまり、別のゲームだった所に行くんだ。
何が起こるか分からない。
だから、一人で行くつもりだ」
「危険なの?」
「何も分からないんだ。
向こうはPKが可能らしい。
何かあった時に、守れるか分からない」
「自分の身ぐらい自分で守れるわよ。それに、何かって、死に戻るだけじゃない。痛みも無いし……」
すんなり、死に戻れるならそれでいい。
でも、正体がバレたら、死に戻らない程度に嫌がらせをされるかもしれない。
「ダメ。なんと言おうと一緒には行かない」
「何で……みんな私を置いていくの……」
呟くように言った。
「……置いていくわけじゃないよ。ちゃんと帰ってくる」
みんな、って誰だろう?
返事がない。
ゆっくりと顔を上げたリィリーは、右手の小指を立てて、顔の前に出す。
「約束」
その小指に、オレの小指を絡める。
「メッセ送ってね」
「うん」
「お土産買ってきてね」
「うん」
「……ちゃんと、帰ってきて」
「うん」
指を離した、リィリーはネックレスを取り出してオレに見せた。
「それは?」
「お守り。持ってて」
そう言ってオレの後ろにまわって首に手を回す。
ペンダントヘッドに小さな青い石が嵌っていた。
そっと、鑑定をする。
アイテム:【銀のネックレス】#ランク1 製作者:リィリー
ペンダントヘッドにラピスラズリを使用した銀の首飾り。
「これ、外したら、一人じゃ付けれないな」
「絶対に、外さないで」
茶化して言ったつもりだったのだが、答えたリィリーの顔は真剣そのものだった。
庭で月子さんと遊んでいたプリスに、声を掛ける。
「プリス。
じゃ、オレは暫く旅に出るから」
そう言って、オリハルコンナイフを二本取り出す。
「ピンチになったら、いきなり呼び戻すかもしれない。
これは預かっててくれ」
オリハルコンナイフをプリスに手渡す。
「らじゃ」
受け取りならが、真面目な顔で答えるプリス。
「へー、そういう事が出来るのね」
リィリーが感心したように言った。
「秘密兵器だね。
じゃ、行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
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西の関所から一番近い転移ポータル。
オレたちが前の戦争の時に設置したものだ。
「別れは済んだか?」
「何、その言い方」
「雰囲気あるだろ?
これが、親書。
そしてこれが通行手形だ。
まぁ、こちらも暫くバタつくので特に急ぐ必要は無い。
観光気分でゆっくりとキョウまで行って来い。
向こうの協力者とも、そこで落ち合うように手筈を整えておく」
「了解。
でさ、一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
「その協力者と、お前。どういう関係なの?
付き合ってんの?」
「黙秘する」




