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74.スランドの情報

[情報がある]


 そう、スランドからメッセージを貰い、二人で会うこととなっていた。


 詳細はその場で、というのがスランドらしいと言うか、何というか。

 実は、街中で会話するより、メッセージを送ったほうが秘匿性は高いはずなんだけどな。


 指定された場所は、街中のベンチ。

 背中合わせで2脚並んでいる。


 指示の通り、【迷彩】をオンにして、座って待つ。


「振り返るな」


 後方から声がする。

 これは、スパイ映画なんかでよくある、他人のフリして会話する奴か。


「なぁ、このまま話すのか?」

「そうだ。消してコチラを見るな。声も極力抑えろ」


 オレは、立ち上がり、スランドの方へ回り込む。


「何をしている!」


 地面を見たまま小さな声で叱責するスランド。


「まだるっこしい。会話なら別の場所でする」


 パーティー申請を送る。

 一瞬躊躇する素振りを見せた後、それを受理。

 すぐさま、センヨーへ転移。


 静かに冒険者ギルドへ駆け込み、初心者ダンジョンへと入っていく。


 以前は、ギルドの親父に一言断りを入れる必要があったが、最近利用者がめっきり増えたのである時から出入りが自由になった。


「さ、ここなら他に誰もいない」


「ふむ。考えたな」


「で、情報って何だ?」


「順を追って話そう。

 まず、戦都の十三代将軍が死んだ。

 これは、まだ表に出ていない。十四代を誰にするかが決まってないからだ」

「……?」

「しかし、それに呼応するように、西でまた挙兵の動きありと、報告があった」


「ん、待て。

 そもそも、スランド、お前今何してんだ?」

「私は今、将軍家直属の諜報部に雇われている」


「へー。つまり、将軍の忍って事か。御庭番衆だな」

「そうだ。もっとも将軍は空席になってるがな。続けるぞ。

 その噂が果たして真実なのか。

 確認しようにも、向こうの間者から続報がない」


「……殺されたんだろ」

「おそらく、そう言うことだろう」


「で、それが情報?」

「いや、お前に伝えたかったのは魔人についてだ。

 諜報部に潜り込んでみて分かったが、NPCも魔人についてあれこれと調べ回っていたみたいだ。

 それを盗み見た中に、気になる記述があった。

 『魔人は、おそらく死人である。転生の義によって、仮初の肉体に魂を封じ込めた存在ではなかろうか』と」


「ふむ。そんな記述は図書館にもあったような」

「まぁ、それは予想できたことだろう。

 ただな、諜報部では、魔人の転生に関しての儀式が行われている場所も調べていた」


「どこだ?」

「オーシカー。西に有る都市。その地下に広大な施設があるらしい。ま、大阪の大阪城跡地の地下に何かある、といった方がわかりやすいだろう」


「大阪城は無いのか?」

「無い」


「ふむ。転生の義、ね。しっかし、魔人に生まれ変わるんじゃあんまりありがたくないな。

 それに、西じゃ、そもそも行けないだろう」


「行けるとしたら、どうする?」

「行けるのか?」


「返答次第。

 ここからは依頼だ。

 先程、西からの情報が途絶えたと言ったな。

 代わりに、西へ行って欲しい」


「は?」


「今のところ、富士川の関所はそれ以外では通れない。

 どうだ?

 興味ないか?」


 面白そうな話ではあるが。


「西は、別ゲーの領域だろ?」


「だろうな」


「オレが行ったらバレるんじゃないか?」


「そこで【迷彩】だ。これに【偽装】と言う、スキルを合わせると【変装】と言うスキルが出来上がる」


 【偽装】はアイテムの見た目を変更するスキルだ。

 防具などの見た目を別のものに変更できる、と言うもの。


 ただし、制限があって、形状と重量が近しくなければ変更できないようだ。


 リィリーが意味のないスキルを取ったと嘆いていた。


「なんとなくわかるが、向こうのプレイヤーとして認識されるようになるのか?」

「そうだ」


「試したのか?」

「ああ。【迷彩】と大差ない。フレンドには無効なのもそのままだ」


「ふーん。

 で、なんでオレなんだ?」


「既に腕利きのNPCを何人か向こうへ派遣している。

 そして、全てが……」


 と言ってスランドは首を横に振る。


「おいおい。物騒だな」


「プレイヤーは向こうで死んでも、最後のポータルに死に戻るだけだ。ステ異常以外に実害はない。転移でこちらに戻ってこれる」


「それも?」

「ああ、試した。

 そして、腕が立つ、信頼できる、動機がある。

 と云う人間がお前しかいなかった」


「自分で行かないのか?」

「私が動くとコチラで連絡を受ける人間が居なくなる」


 なるほど。何かあればメッセージですぐ送れるのも、プレイヤーの利点か。


「ってもなー。土地勘も何もないし、潜入すら満足に行くかどうか」


「向こうに協力者はいる」


「は?」


「WCOのプレイヤーだが、リアルの知り合いでもある」


 信用出来るのか?

 聞こうとする前にスランドが断言した。


「信頼に足る人物だ」


「そうか」


 うーん、どうする?

 悪い話じゃない。

 転生の情報は皆無。蜘蛛の糸にでも縋りたいのは正直なところだ。

 興味も好奇心も疼く。

 ただ、やっていることが、モーリャー達と同じと言うこと。それが引っかかる。


「そこまでして、何が知りたいんだ?仮に向こうで挙兵があっても、またイベントになるだけじゃないか?」


 スランドは本気で助力を欲しているのはわかる。

 わからないのは、その動機だ。


「その、イベント、になるのを避けたい」


「は?」


「今、西に動かれるとマズいのだ。

 十四代将軍は直に決まる。

 その後、十四代将軍は西の王都にいる、この国の王の元へ謁見に行く手はずだ。

 その時に、忠誠の証として、西の関所は開放する。

 そういう話になっている。

 つまり、時期を待てば、二つのゲームの垣根は取り払われるのだ。

 だが、その前に西から攻めこまれたら全てが水の泡だ」


「打ち負かせば良いじゃないか?」


「前回のイベントの後、WCO内で何が起きたか知っているか?」


「は?」


「イベントの指揮を取っていたプレイヤー達は、他のプレイヤーから誹謗中傷の的にされた。

 結果、耐えかねて引退した者もいる。

 そして今、向こうのプレイヤーは二分されている。

 こちらへのリベンジを唱え戦争の準備を進める者、そして、それに異を唱える者。

 まぁ、どちらにも関わらないという者も、もちろんいるが、それは今は横においておこう。

 先程言った、協力者は、後者の側。戦争を良しとせず、と言う者だ」


 そんな事が。

 まあ、わからない話ではない。

 前回イベントで負けていたら、その総指揮を取っていたクロノスさんは責苦を負わされていただろう。

 オレを含めたその他の面々もどうなっていたことか。


「本来、二つのゲームのプレイヤー達が戦い合う必要など、無いのだ」


 言わんとしていることは、理解できなくもないが。


「でも、それがゲームだろ?」


「争い、憎しみ合って何になる?その後に何が残る?

 お互いの世界を行き来出来るようになる。

 その先の未知の世界へ胸を躍らせる。

 それで十分ではないか」


 何故、スランドはこうも必死なんだろう。


 言ってることは、間違ってない。が、ここまで必死になるほどの事とも思えない。


「残念だが、」

「何故だ!」


 断りを入れようとした所、食い気味に問われた。

 仕方ない。


「正直に言おう。理由が納得出来ない。言っている事は確かに間違ってない。ただ、それだけだ。

 お前がここまでする動機になるとは到底思えない。そういう事だ」


「……好きなのだ」


「は?」


「好きなんだ。その……向こうの、協力者の事が」


「はぁ??」


「……彼が、今、向こうで必死に戦っている。……だから、その、力になりたいんだ」


 スランドは石畳に正座し、両手をつく。そして、頭を下げる。


「この通りだ」


「オイ、ヤメろ!!」


「頼む。お願いします」


「わかった! だから頭を上げろ」


 初めてだ。

 土下座をする人間を見たのも、そして、それに対する罪悪感を感じたのも。


「依頼は受ける」


「ありがとう。感謝する」


「もういい。こっちも情報は手に入れたい。

 で、具体的に何をすればいい?」


「まずは、親書を向こうのNPCに渡してほしい。

 その後は、向こうで、何が起こっているかを調べて報告してくれればいい。

 内容次第で、こちらから改めて何か依頼することになると思う」


「それって、『協力者』に頼めばいいんじゃないのか?」


「親書は、アイテム扱い。『協力者』へ渡す手段がない。

 次に、情報。

 ゲーム外からの情報はシステム的に無価値とみなされるのか、NPCが耳を貸さない。

 ゲーム内で情報のやり取りをした痕跡が必要なのだと、そう思う」


「なるほどね。

 『協力者』とやらはどうやって落ち合う?」


「それは、私の方で手配する。リアルで連絡を入れておく」


「他に誰か連れて行っても良いのか?」


「それは、構わないがアテはあるのか?連れて行くなら事前に聞いておきたい」


 アテ、か。

 リィリーに言えば、当然行くと言うだろうな。

 戦力と言う意味では二式葉が良いかもしれない。


「死神娘は止めておけ」


「何故?」


「万が一があると嫌だからだ」


「万が一?」


「向こうはな、PK有りだ。しかも、やろうと思えば拷問も」


 最悪だ。

 バレたら拷問の上、死に戻り。

 痛みは無いが、何をされるか分からない。


「聞いてないぞ」


「今言った。

 なので、連れて行くなら男にしろ」


「なんで?」


「暫くはこっちに戻れない。

 その間、他の女子と一緒にいるなんて、考えたくないだろう」


「は?」


「死神娘の事だよ。少しは考えてやれ」


「意味が、分からんのだが」


「……お前ら、付き合ってるんじゃないのか?」


「付き合ってねーよ」

「え!?」


 なんで、みんな色恋の話ばっかり何だよ。

 いや、何となく回りがそう言う目で見てるのは薄々気付いてた。

 ただ、今の所一切そう言った事実は無い。


■■■


「ねぇ、リィリーってさ、何でオレと居るの?」


 大分、思い上がった台詞だがそう聞いた事がある。


「え、そんな事無いよ?」


 そう! 勝手に勘違いしてただけ!

 ま、リィリーにもオレか求める成分が足りて無いのでどうと言う事は無いのだが。

 完全に余談!


■■■


「そうなのか。まぁ、そういうわけで、連れて行くなら男。候補はいるか? いるなら私の方でもその実力を見たい」


 候補。

 いませんね。


 オレは首を横にふる。


「一人のほうが自由に動けるだろう」


「さっき、長くなるって言ったけど?」

「一応、向こうに一週間は滞在してもらいたい。場合によってはそれ以上」


「戻ってこれないのか」

「そう何度も関所を通らすわけには行かない。

 全ての任務を全うするまで、向こうに居て欲しい」


「うへぇ」


「関所までは私も付き合う。

 今日のうちに準備を済ませて、出発できるか?」

「分かった」


「それと、注意点だが、目立つ行動をするな。お前のあの氷の剣は向こうでは無いようだから使うな。

 魔法も普通の威力に調節しろ。

 そのつもりで準備をしてきてくれ」


 うわー。手足を縛られた気分だ。


 オリハルコン製のナイフは目立つかな。

 そうすると、何か武器を持って行った方が良いな。

 ついでに、服も、かな。


 うーん。いろいろ大変だな。

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