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8.二人組再び

 クソ。


 アイツ、笑っていやがった……


 オレを一撃で粉砕したミノタウロスの顔が脳裏にこびりついている。

 ただ、勝てない相手では無い。


 少なくとも手応えはあった。


 おそらくあとレベル二つ、

 いや三つ上げればヤツのHPを全壊させるだけの総ダメージは叩き出せるはずだ。


 念を入れるならばMP回復アイテムを確保してもいい。


 ミノタウロスに復讐を誓いつつ、レベル上げのため迷宮内で戦闘を繰り返す。


 レベルアップ。


 【ジン】 #LV.6

 HP:100

 MP:170(↑15)

 STR:14

 VIT:5

 AGI:21(↑4)

 DEX:21(↑3)

 INT:31(↑7)

 MIN:13(↑1)

 SP:10(↑10)


 ふう。今日はここまでにしよう。


 ログアウト前に道具屋によって、MP回復アイテムが手に入るかチェックだな。


 しかし、冒険者ギルドから出たところで、昨日の二人組と遭遇。


「あ!きの……」


 癖っ毛が何か言いかけたが無視してログアウト。やれやれ。




 翌日、ログインした瞬間に「確保ー!」という叫び声がしたと思ったら、何かがオレに飛びかかってきた。


 ドン! と、思いっきり体当たりされて尻もちをついたオレの上に乗っていたのは獣、狐だった。


「やっと捕まえましたー!」


 癖っ毛とメガネが近寄ってくる。


「しつこいなー……」


 狐の首根っこをつまんで、ネコのように持ち立ち上げる。

 おとなしいな。こいつ。

 そのまま抱きかかえると、両手の中にすっぽりと収まる。


「ちょー!! 返してください!」


 癖っ毛がオレから狐を引き剥がそうとする。


「この前も言ったけど、人違い。

 君たちに犯人だなんだと言われる覚えは、無い!」

「キュ」

 腕の中で狐が鳴く。そうかお前もそう思うか。

「悪人は、みんなそう言うんです!」


 話にならん。

 ログアウトしようか。メニュー開く。


「待ってください」


 メガネの方がオレに近づいてくる。


「ちょっとだけでいいですから、話を聞いてください!」


 話を聞いて無いのはどっちだよ。

 まぁ、ここでログアウトしたところでずっと待ってるだろうしなぁ。


「話になればいいが」


 メガネを見ながら冷たく言ってみる。


「あの、実は先日、道具屋さんで首飾りが盗まれる事件がありました。

 私たちはその犯人を追っています」

「ふーん。でオレが犯人だと?」

「あなたが、犯人ですか?」

「いや。何も知らない」


 メガネはオレの目がら微塵も目を逸らさない。


「わかりました。

 私達が勘違いしていたようです。

 ごめんなさい」


 そう言って深々と頭を下げた。


「え、サクラちゃん?」


 癖っ毛が驚いた顔をする。


 そうか。この素直なメガネはサクラというのか。

 ……本名じゃないよね?


「ほら。カエデちゃんも」

「え、だって」

「この人は犯人じゃないと思う。

 失礼なことしたんだから謝らないと」

「うー、ごめんなさい……」


 ピンクの癖っ毛がカエデ。

 赤茶のロン毛がサクラ。


 紛らわしいわ!


 逆にしろ。名前か髪の色を逆にしろ。


「わかった。もういいよ。

 じゃ、行っていいか?」


「ちょーー! 何でサラッとミーちゃんを拉致しようとしてるんですか!?」

 ピンクのカエデが抗議の叫びを上げる。


「ん?」


 わざとらしく、首をかしげる。


「ああ言ってるけど、戻るか?」


 腕の中の狐を撫でながら声を掛けると、頭をすり寄せてくる。


「嫌らしいぞ?」


「ああぁぁぁ。

 アタシよりなついている……」


 と言いながら崩れ落ちる。


 流石にちょっと憐れになってきたので、首をつまんで狐を持ち上げて、うずくり地面に向かって「ユルサナイ、コロス」などと物騒なことを呟いているカエデの後頭部に乗せてやる。


「あ、ちょ、動けない。

 動けないですよ。ミーちゃん、下りて」


 そのままの姿勢で固まる。


 狐はというと後頭部の上で前足を揃えた綺麗な姿勢で

「キュー」


 うん。完全に舐められてるな。


 サクラが小さく溜息をつくのが聞こえる。


「なんか、ごめん」


 このまま立ち去っても良いのだが、思いの外メンタルダメージを与えてしまったみたいでいささか後味が悪い。


「で、その道具屋の事件てのは、クエストか何か?」


「あ、そうです。

 冒険者ギルドで受けたんですけど、犯人が黒いローブを羽織った人物でこの街のどこかにいるというくらいしか情報がなくて。

 もう三日目なんです」

「ふーん。

 盗人が同じ街に三日間居座るもんかね」

 ここ、センヨーはそれほど広い街ではない。広場を中心に東西南北に大通りがある、直径500メートル程の円形で周囲を壁が取り囲んでいる。

「それは、私もちょっと疑問ではあるんですけど、ゲームだからそんなものかなと……」

 まぁ、それもそうか。


 と、ふと思い至り、目を閉じる。


 【千里眼】。

 そのまま視点を上空へ。

 おお、空を飛んでいる気分だ。

 これ、楽しいぞ。今度フィールドでやってみよう。


 そして視線を下にむけてセンヨーの街を俯瞰する。

 なんとか人が識別出来るくらいに高度を調整する。


「あの、どうしました?」

 突然目を閉じたオレに、サクラが声を掛ける。

 と、視界が歪んだ気がする。

 そういえばこの状態で喋れるのか?

「今、街中を探している」

「え、どういうことですか?」

 駄目だ。サクラの声が耳に入る度に視界が歪む。サクラの声も耳に届いてから意味を理解するまで時間がかかる。

 つまりは、脳内での処理が追いついていないであろう。

「すまん。集中したい」

 最低限の言葉で返すが、サクラはそれで理解したのであろう。返答はなかった。


 上空から黒いローブの男を探す。街中を中心から時計回りに円を描くように視点を移動させ、徐々に半径を広げていく。


 いた。

 黒いローブを羽織った人影。

 識別。


 [event character]

 [X:2098720, Y:3690802,Z:17689, S:0x000101]


 と出る。

 ビンゴだろう。

 街の南、入り組んだ路地の先。ゆっくりと歩いている。


 視点を動かしなから、ここからの最短ルートを頭に叩き込み目を開ける。


「見つけた。案内する」


 二人に声を掛け、大通りを南へ駆け出す。

 カエデは立ち直ったようで。狐を抱きかかえていた。


「どういうことですか?」

 走りながらサクラが聞いてくる。

「【千里眼】で、それらしき人物を見つけた。

 移動されると面倒だから急ぐぞ」


「え、え?」

 状況をいまいち理解できていないようだがカエデもついてきいる。

 狐は足元だ。リードもないのにちゃんとカエデのそばを走っている。

 そして、何度か路地を曲がり、黒いローブの背後に出る。

 その距離30メートル程。そこで一度立ち止まり、


「アイツだ」

「本当にいた……」

 サクラが呟く。

 まぁ、信じてなかったんだろうけども。

「ここからは静かに近づくんだ。

 早足で、決して走るな」


 と、主にカエデに向かって指示を出す。


 二人がこくんと頷く。

 そして二人が黒ローブに早足で近づいていく。


 オレは、この場で様子見だ。

 よく考えたら部外者だし。


 二人が黒ローブの真後ろまで近づき、そのまま追い越していく。

 思わず天を仰ぐ。

 二人で前に回ってどうすんだよ。

 一人は後ろを押さえないと回れ右で簡単に逃げられるだろうが。


 仕方なく、急いで黒ローブに近づく。


 先行するカエデとサクラは振り返って立ち止まり、


「やっと見つけました!」


 と、指を指す。


 それ、非常に失礼だからもうやめような。迷探偵?


「なんのことだ?」


 黒ローブが応える。


「あなたが、道具屋で盗みをはたらいたことは既に調べがついています!」


「何言ってんだ。

 オレは首飾りなんか知らねーよ。

 どこにそんな証拠があるんだよ」


 うわー。あんな簡単な誘導に引っかかっちゃってるよ。

 迷探偵カエデは更に続ける。


「道具屋で、盗まれたものが首飾りだと知っているのが何よりの証拠です」


「チッ」


 案の定、反転して逃げようとするが、そうはさせない。

 反転しようと一歩下がったところに、オレが体を寄せ付け、


「別にこっちは死体を探っても良いんだぜ?」


 と、短剣の先を背中に押し付けながら耳元で囁く。うん、悪役です。


 諦めて懐から首飾りを取り出し、自身とカエデとの間くらいに投げ捨てる。


「ミーちゃん!」

「キュ」


 カエデの足元から狐が飛び出して、首飾りを咥えて戻る。


「チッ、簡単な仕事って話じゃなかったのかよ。

 騙しやがって」


 黒いローブが悪態をついたその瞬間、オレの全身に電気のような衝撃が走る。体の自由が効かなくなりそのまま、その場に崩れ落ちる。


「「え!?」」

 サクラとカエデが驚いた顔でオレの後方を見ているのがわかる。


「もうちょっとうまくやってくれると思ったんですが」


 後ろから声が聞こえるが顔を動かせない。


「来るのが遅ぇんだよ。おかげでこのザマだ」

 これは黒ローブの声。

 と、オレの腹に蹴りを入れたみたいだ。

 街中なのでかダメージはない。


 【千里眼】で状況を把握しようと試みるが、どうも発動できない。


「此方にも色々準備があるのです。

 今回は引きますよ。街中で騒ぎを起こしたくない」


 と、体が動くようになり、サクラとカエデがオレに走って近づいてくる。


「大丈夫ですか?」

「あぁ。ダメージはない」


 地面に座ってサクラに応える。

 声のした方に顔を向けるが、そこには既に誰も居ない。

「あいつらは?」

「突然、消えてしまいました」

「そうか。首飾りは?」

「じゃーん」

 カエデが首飾りを持った右手を突き出す。

「……ちゃんと、しまっておけ。

 これで、クエストクリアか?」

「はい。あとは道具屋に持っていくだけです」

「で、最後のアレは何だったんだ?」

「さー?」


 あの三下、オレに蹴りをくれやがった。

 次は、後ろから警告無しで短剣を刺してやろうか。


「よし、じゃ念のため道具屋まで一緒にいこう」

 オレは立ち上がりながら言った。


 道具屋に行くまでの間に俺たちは互いに自己紹介をした。

 そう。そこに至るまでオレは自分の名前すら教えていなかったのだ。


 サクラとカエデはそれぞれ、桜と楓、漢字でプレイヤーネームを登録しているとのこと。

 二人共【召喚術】を取得していて。楓の狐は「ミスト」という名までの【野狐】という種類の召喚獣らしい。


 そんな話をしていると道具屋に到着。

 二人が主人に首飾りを見せている間にオレはMP回復薬のチェックをする。

 所持金は1,800G、MP回復薬【MPポーション】は売っていたが、一つ1,500G。

 高ぇ。ちょっと厳しいな。消耗品にほぼ全財産つぎ込むのは流石に無理だ。

 そんなことを考えている間に二人の話は終わり無事に報酬を受け取ったようだ。

 店を出たところで


「「本当にありがとうございました」」」


 と、二人に改めてお礼を言われる。


「あの、是非お礼をしたいんですが」

「いや、別に良いよ」

 桜が申し出に、素っ気なく答える。

「でも、ジンさんがいなかったらこのクエスト、クリアできていなかったと思いますから!」

「そうです! それに、私も最初……」

 あ、覚えてたのね。迷探偵。

「うん。だからお礼をさせて欲しいんです」

「そこまで言うなら……」

「本当ですか?

 じゃ……今日、夜九時から時間ありますか?」

 桜がグイグイ来る。

「うん。大丈夫」

「じゃ、九時にここで!絶対来てくださいね」

「待ってるから!」

「はいはい。じゃまたな」


 二人と約束を交わし、オレはいつもの迷宮でレベル上げに励むのであった。

 いい加減金策もなんとかしないとなー。

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