73.リィリーの黄昏
「色々変わってくのね。みんな」
夕日に顔を染め、海を眺めながらリィリーが寂しそうに呟いた。
昨日のアップデートで『夜』が実装された。
リアルの、四時間毎に昼夜が入れ替わる。
つまり、リアルの一日がこちらの三日間になるわけだが。
実際にゲーム内がこの時間軸で動いてるのかね? まだよくわからん。
海岸線に沈みゆく夕日。
そんなムードを満喫しようと言うのだろう。
オレたちのいる砂浜には、間隔を空けて座る二人組のプレイヤー達がたくさんいる。
どいつも、こいつも。
まぁ、端から見たらオレ達もその一つ、なのかもしれないが。
「みんな?」
「……うん。更紗も、彼氏が出来たから、こっちに来たり来なかったりになるって。
あ、彼氏ってリアルのほうね」
「へー」
「楓達も、ここ暫く忙しそうだったし」
ま、学生だしな。
試験とか、学内イベントとか色々あるだろうさ。
そういや、リィリーはどうなんだろうね。
「ジンも、ね」
うーん。
まぁ、ね。
色々リアルでバタバタしてた。
試験やら、学祭やら。
ついでに、こっちで秋丸に付き合わされて、クラスメイトのフレンドが増えたり。
その余波で秋丸のところのギルドメンバー、ヨーコと色々やり取りしたり。
ヨーコとは初めて会った時にフレンド申請受理したけど、その目的はどうも秋丸に合ったようで。
何時の間にかリアルの方でメッセージのやり取りするようになり、その度に秋丸いや、秋元に関してのなっがーい相談やら惚気なんかが送られてくる。
初めのほうこそ、何か力になれれば、と付き合ってはいたが、前述のクラスメイトが女子であったことから、その内容に愚痴が目立つようになり、ちょっと辟易している。
完全に余談だな。
そんなこんなで、落ち着いてプレイ時間の確保ができない間はプリスを月子さんに預け、もっぱら図書館通いをしていた。
「世界も、変わっていくしね」
あと少しで、完全に隠れる夕日を見ながらそう言ってみたが、返事は無かった。
あっという間に、空には星が瞬き始め、潮風が、少し冷たくなってきた。
「ねぇ、ジン。
ジンも、いつかは、ここから居なくなる、のよね?」
いずれは、そうなるだろうな。
でも。
「オレは、この世界でやることがあるから」
プリスの為に。
と言うか、今の所それぐらいしか目的無いんだよな。このゲーム。もともとが暇潰しだしなー。
「もし、それが、叶ったら、その次はどう、するの?」
その後?
そこまで考えてない。
時折、プリスに会いに来るくらいかな。
「そしたら、その時考えるよ」
「……そう、よね……」
それっきり、黙りこむリィリー。
辺りは闇が支配し、かすかに月明かりが照らすのみ。
「ねぇ……ジン……」
静寂を破ってリィリーが口を開く。
暗がりの中、彼女の瞳が潤んで見えたのは気のせいか?
「あの『ビーッビーッビーッ!』
何かを言いかけたリィリーを遮る大音量の警告音!
聞き覚えがある、運営の違反警報!
待て! オレはまだリィリーに触れてない!
しかし、リィリーの視線は、オレの後方に向けられていた。
振り返ると、ピンクの気ぐるみに見下される、重なりあった人影。
あ、離れた。
良かった。オレじゃない。
ほっと胸を撫で下ろす。
「……そろそろ、街に戻りましょうか」
「……そうだね」




