72.ニケの告白
「引退することにしたので、そのご挨拶」
「「ええー!?」」
戦争イベントから一ヶ月とちょっと。
カレンダーはちょうど残り二枚に切り替わった。
何故か、リィリーと二人で、と言う条件付きで、ニケさんに呼び出され、食事の席で切りだされた言葉がこれである。
遂に、ニケさんまでも……。
戦争前がβテスト。
そんな風に言うプレイヤーも少なからず存在する、それ程の変化があった。
まず、戦争後に開催された第三回闘技大会。
個人戦となったこの大会で優勝を飾ったのはブンさんだった。
しかし、本戦に残った三十二人の内、実に二十五人が、魔法職。技能融合と術式分解持ちだった。
今や、魔法職を目指すのであれば六つの魔法スキルを魔導書で習得し術式分解を獲得。
それ以外の職は十種のスキルを鍛錬習得して技能融合を獲得するまでがチュートリアル、とさえ言われている。
オレが公開した情報のせいでは有るのだが、自分のレプリカが量産されている様でいささか気味が悪い。
更に、そんなプレイヤーの増加に辟易し、または、既に上記の二つのスキルを習得するのが、困難、とそういった理由でゲームを離れるプレイヤーも存在していた。
戦争後の新規プレイヤーはWCOからの流入組も多い。
彼らはゲーム世界の情報を既に持っている上、効率的なプレイスタイルを確立し、旧トッププレイヤー達を脅かすほど、一気に台頭してきている。
彼らのギルドは既にクラウディオスを上回っている、そんな声もちらほら出てくるようになった。
そんな中、辛うじて闘技大会王者の座を勝ち取ったブンさんは流石である。
最も、二式葉、ニケさん、リィリーと言った第一回の上位勢は参加していなかったのではあるが。
二式葉は、本人曰く「最早、出場する理由が無い」との事。
オレ?
学生の本分。試験の真っ最中。
そんな訳で、参加を見送った。
運営のバーカ。
リィリーはエントリーはしたみたいだが、結局参加しなかった。
理由を聞いても、適当にはぐらかされて終りである。
そして、ニケさんに至っては、ここ暫くログインすら疎らであった様だ。
そう言うタイミングで、この告白である。
何という事だろう。
「て言ってもね、アカウントは残すつもり」
本人は、スッキリした笑顔だが、オレたち二人は衝撃から脱しきれてない。
「な、何でですか?」
リィリーが、絞りだすように問う。
「実は、妊娠したの」
は?
「母になります!」
「「えええぇー!!」」
再度絶叫。
イカン。色々と衝撃すぎる。
何から聞くべきか。
「お相手は? まさか、クロノスさん……?」
リィリーが前のめりで確認する。
もう、ここはリィリーに全部任せてしまおう。
「クロノスは、ゲームの中だけの知り合いよ。ダンナは別にいるわ」
そうだったのか!?
「結婚、してたんですか? これから?」
「このゲーム始めた時はもうしてたわ」
おぉう。オレ、人妻をモチベーションにしてゲームしてたのか。最初の数日間。
「全然知らなかったー。ご予定は何時なんですか?」
「来年の七月。
だけど、妊娠中のフルダイブはあんまり良くないとか言うじゃない?
本当の所は、わからないけど。
なので、これを機に引退かなーって」
「つわりが酷くなるとか言いますもんね」
「そうね。それに出産したら、それこそ時間取れないからねー」
「そうですよね。あ、おめでとうございます。
最初に言わなきゃダメでしたよね」
「ありがとー」
オレが会話に入る隙が全く無い。
淡々と食べ物を口に運ぶのみである。
色々あるなー。
「でもね、そう、例えば二十年位経って、ふと、懐かしくなって、その時にまだ、ここが在ったら素敵よね。
だから、アカウントだけは残しておこうかなって」
「二十年かー。その頃はプリスもお母さんになってたりして。私は、何してるだろう?」
ニケさんが、オレとリィリーを交互に見る。
「何してるのかしらね? 二人共、その頃には父親、母親よ。きっと」




