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71.戦場に降り立つ女神と姫と天使

　ひょー。

　乗り心地はイマイチではあるが、それを補って余りある開放感！

　戦場の味方の頭上を飛び越え、あっという間に最前線へ。

『中央、前線！

　女神と姫と天使が降り立つ！　もうひと踏ん張りだ！！』

　クロノスさんの檄が飛ぶ。

　……オレは？

　最前線。

　その敵軍目掛けて、上空から、プラムがブレスを浴びせかける。

　そして、地面に向け、風を起こし、敵プレイヤーを吹き飛ばしていく。

　そこへ、悠然と降り立つプラム。

　オレたちが背から降りたのを確認し、一声上げて飛び上がる。

　敵陣に向かい、再度ブレスを浴びせかけてから、旋回し本陣、桜の元へと帰って言った。

　「姫だー！」「女神だ！　ニケがきたぞー」「天使ちゃーん！」味方から嬌声が上がる。

　オレは！？

「プリス、歌を。味方全部に聞こえるように！」

「任せてー」

　戦場、味方の上を飛びながらプリスは聖歌を歌い、強化（バフ）を掛けて回る。

「私が、来た！　終りは近い。行くぞ！」

　ニケさんは、味方に声を掛けると敵軍に突撃を敢行した。

　続くのはクラウディオスのメンバー達だろうか。

　左之助の姿も見える。

「二式葉！」

　オレは、上空から見つけた戦士の元へ駆け寄る。

「来たのか」

　敵をなぎ払いながら答える。

　しかし、その剣にいつものキレがない。

「代わろう。後ろで一旦回復してこい」

「まだ平気だ！」

　そう言うと、二式葉は敵に背を向け、味方に向き直る。

「どうした！　白銀！　熊！　男を見せろ！！」

　今まで聞いたことがないような大声を、二式葉が発した。

　それに、呼応するように怒号があちこちから上がる。

「女の子代表としては、負けてられないのよね」

　そう言って、リィリーが敵軍に飛び込んでいった。

「溟盾（クリスタルシールド）」

　余計かもしれないが、一応サポート。

　炎を纏う大鎌（デスサイズ）が、敵軍を薙ぎ払っていく。

　対多の戦いこそリィリーの本領かもしれない。

　多数の敵を引きつけ、その全てをまとめて刈り取って行く。怖い怖い。鎌って扱い辛いとおもうんたけどなー。

「溟風（ダークブリザード）」

　広範囲に、闇を纏う吹雪を起こし、敵の視界を奪う。

「姫に続けー！」

　誰かが叫んだ。

　完全に勢いづいていた。

　二式葉が、鬼神と化して二刀を振り回す。

　オクター達が盾を構えて前線を押し出して行く。

　ブンさんが、敵をちぎり投げる。

　プリスが上空で歌う。

　オレも、続くか。

　そう思った、瞬間だった。

　地面に光が走る。

『中央、最前線、魔法陣出現！　警戒！！』

　クロノスさんの声が響く。

　敵の切り札か？

　その存在は、既にクロノスさん達が調査済み。

　複数人のよる、儀式魔法。

　威力も範囲も桁違い。

　らしい。

　魔法陣が、一際強い光を発し、炎が立ち上るのが見えたその瞬間。

「戦禍の天秤」

　オレのスキルは、味方が食らうであろうダメージの分も含めて、儀式魔法の攻撃の重みを全て受け入れた。

　これで、当分はこのスキルは、使えないだろうな。

『魔法陣、消失。繰り返す、魔法陣、消失』

　さて、改めて最前線へ行こう。

　少しでも、与ダメージを稼がないとな。

　リィリーはどこだ？

　オレのMPポーション係。君が居ないと大技使えないですけど。

　ドン、ドン、ドン。

　と太鼓の音が戦場に大きく響き渡った。

　同時に上空に大きく、『イベント終了』という、文字が表示されていた。

　ち、あと一歩だったのに。

　オレは敵本陣の目の前まで来ていた。

　あと、三分。

　いや、二分あれば大将首を手にできていただろうに。

　まぁ、ここまでの道中の三分の二ぐらいは死神の姫さんが切り開いてきたわけだけど。

　このままだと、ヤバい。

　そう思ったオレは、途中でリィリーに甘いささやきを掛けた。

「リィリー。無理しないで。君が傷つく姿は、見たくない。

　少し下がるんだ」

「ふぇ？」

　リィリーの快進撃はそこまでだった。

　いや、何がヤバいって、オレの見せ場、無くなるじゃん？

　さすがの二式葉も途中でガス欠を起こし、前線でライバルと言えるのはニケさんだけだった。

　どちらが、先に敵本陣にたどり着くか。

　この勝負、もらった！

　そう思った矢先の、戦闘終了だった。

＜ポーン＞

＜戦闘開始位置へ強制転送します＞

　インフォを確認した瞬間、オレは二時間前に立っていた北の森の端にいた。

「へー。こう言うシステムなの」

　リィリーもここに飛ばされていた。

「まぁ、戦闘終了と同時に敵同士が抱き合うとかそういう空気でもないしね」

「ジン、多分だけど、私を嵌めたわよね？」

「何のことかな？」

「……ま、いいわ。

　勝敗はどうかしらね」

『はーい、皆のアイドル、メノゥと』

『毎日私に夢中、ビーノでーす！』

『遠くて見えない人は、ウインドウで、イベント中継を開いてね！』

　リィリーがウインドウを表示させる。

　そこに写っていたのは、見慣れたメノゥと見知らぬアバターだった。

『改めまして、こんにちは。WCOのイベント担当AI、ビーノと』

『C2Oのイベント担当AIのメノゥでーす。

　薄々、気付いてる人も居たみたいですけど、今回のイベント！

　東軍は、C2Oのプレイヤー』

『そして、西軍はWCOのプレイヤーと言う陣容でした！』

『その辺の詳しい説明は、これから各運営が発表すると思うので、一旦置いておきまーす』

『それでは、今回のイベントの結果発表なんですが、その前に！

　このイベント、楽しかった人ー？』

「「はーい」」

『んんー？　声が小さいな。楽しかった人ー！？』

「「「「「ハーイ！！」」」」」

『また、やりたい人ー？』

「「「「「「「ハーイ！！」」」」」」」

「何なの？　これ」

　リィリーが、ジト目で呟く。

「悪ふざけだな。完全に」

『じゃー、結果発表！　行くよー』

　ウインドウの中に、『東軍：C2O戦死者数』『西軍：WCO戦死者数』と書かれたカウンターが表示される。

　そして、その二つが同時にカウントアップして行く。

『さぁ勝ったのはどっちだ？』

　先にカウンターが止まったのはC2Oの方だった。

　少し間を置いて、WC0のカウントが止まる。

　その差、100強。

　画面上でに『WIN！C2O』という文字が踊る。

『勝者、東軍！　C2O！！』

「「「「「「「「「ウオオオオオオォォォ」」」」」」」」」」

　こちらの陣地より、歓声が響き渡る。

　勝ったか。

　中央は大騒ぎになっているのが遠目にもよく分かる。

　それを横目にリィリーと軽くハイタッチを交す。

「プリスー。勝ったよー。ご褒美何が良い？」

「パンケーキ！！」

「全部乗せね！　行きましょう！！」

　パフェじゃなくなった！　そして、全部乗せって何？

『それでは、名残惜しいのですが、今回のイベントはこれにて終幕！』

『まったね～』

　ウインドウのAIが手を振りながら、消えていった。

『えー、クロノスです。

　皆さんの奮戦のお陰で、結果は聞いての通りです。

　最後に一言、言わせて下さい。

　勝ったぞー！お前ら最高だ！！』

　中央から今までで一番大きい歓声が聞こえた。

　あー、疲れた。

　安堵の溜息と共に、オレは地面に腰を下ろしていた。

「お疲れ様。君の頑張りは、私が全部知ってるから」

　リィリーの微笑みながら言った。