68.開戦
ログインしました。
イベント開始まであと30分。
海猫さんから、戦場のポータル横に設置された本部に顔を出すようメッセージがある。
その前に、スランド達に会いに行く。
場所は?
ルノーチの一番町外れの食事屋。
寂れていてプレイヤーの数も少ないところだ。
「おまたせ」
「いや、時間通りだ」
スランド、フェイ、カリシアの三人が既にカウンターに座っていた。
三人ならテーブル席に座ればいいのに。
「依頼の確認だ。今から三時間、城の様子を見張る。
異変があればメッセージで連絡」
「ああ。それで良い」
「何も起きなかったとしても、報酬はいただく」
「問題ない」
「他には?」
「出来れば賊の身柄を確保したい。
それを優先で動いてくれ」
「承知した」
「ジン、仲間と思うならこれから起こることを教えてほしいわ」
カリシアが真面目な顔で言った。
しばし考える。
メニューを開き、メッセージを作成。
三人にだけ見えるように展開する。
[戦争の隙に乗じて城内の宝が狙われている。敵は魔人を使役する]
「確信はない。推測の域を出てないけどね」
「聞けてよかった。用心するよ」
「こっちこそ、気が利かなくてごめん。後は宜しく」
「任せろ」
■■■■■
転移で、戦場へ飛ぶと既に人でごった返していた。
「鎖だ」「先生!」「皆、合掌だ」などと声が上がる。
だから、何で拝むんだよ。
本部はどこだ?
辺りを見渡し、直ぐにそれを発見した。
プリスが浮いている。
こっちに気付き、大きく手を振る。
人混みをかき分けそちらへ移動。
「お待たせ」
「遅い! クロノスさんとマスターが待ってるわ」
「了解。それと、リィリー。プリス返して」
従属の変更は、オレの方からでも可能なのだが。
「あのね、預けたり返したり、プリスは物じゃないのよ?」
プリスの従属を解除された旨、インフォがある。
「おかえり。プリス。
今日は宜しくな。
じゃ、クロノスさんとこ行ってくる」
「こっちよ。案内する」
リィリーが先導して歩き出す。
「おはようございます」
簡易なテーブルと椅子が用意されており、そこにクロノスさんと海猫さん、ニケさんがいた。
「おお、間に合ったか」
「スイマセン、遅かったですか」
「まず、これを渡しておく」
アイテム:【オリハルコンナイフ】#ランク4 製作者:海猫
オリハルコン鉱を使用したナイフ。
魔術に高い親和性を持つ。
物理攻撃値:33
重量:11
INT:8
それは、ナイフにしては少し大きな柄をしていた。
溟剣を出現させた時に、バランスが取れる大きさにしてもらったのだ。
「おお、ありがとうございます」
「それと、これ。MPポーション200セット」
「お、おう」
これを、使いきれと言うわけか。
しかし、こんなにもらって大丈夫かね?
「そっちは私が持つわ」と言ってリィリーがMPポーションを受け取る。
やっぱり、今日は一緒に居るつもりですね。
「準備が出来たら、早速ここまで行って開戦に備えて欲しい」
示されたのは、戦場の北の端。
森と、平地の境目。
何かあれば身を隠す場所もありそうだ。
「この辺で召喚を続けてくれ。北から奇襲を掛けたい」
「了解です」
踵を返して、リィリーの顔を確認する。
「暫く護衛、と言うことで良いんだよね?」
「もちろん!」
「よし、行こう」
戦争、と言っても、ゲーム内。
予め、ルールが設定されている。
戦闘時間は二時間。
バトルフィールドは正方形で句切られていて、それぞれ東西に本陣を設置。
バトルフィールドへは本陣を中心とした、南北200メートル程のスペースからしか入れない。
勝利条件は、敵の職滅、または本陣の壊滅。
時間内に決着がつかない場合は、戦死者の過多で勝敗を決する。
生存者でなく、戦死者。
単純に一人でも多く倒した方の勝ち、という訳だ。
戦死者としてカウントするのはプレイヤーに限る。つまり、召喚して使役している存在は含まれない。やったね。
なお、バトルフィールド内で戦死した場合、再入場は不可となる。
開始まで後、三分程か。
既に、昨日クロノスさんが説明したとおり、三つの陣が出来上がっている。
それは、相手方も同じだが。
両軍を挟んだ中央に不可侵の壁が展開されているとのこと。
時折、逸ったヤツが矢や魔法を放つが、全てその壁にぶつかり、相手に届く前に消滅する。
こちらの軍は、左翼より、右翼の陣容が薄く見える。
つまり、オレに近い軍だ。
オレの召喚を当てにして、そう言った布陣にしているのだろう。
「そろそろね」
横にはリィリーがいる。
「今更だけど、本当に良かったの? ここで」
「何? 邪魔?」
「いや、そういうつもりじゃない。ただ、あっちの方が面白そうだろ?」
開戦を、今か今かと待つ中央の連中を指差す。
「いいの。あっちは、あっちで暴れる人達が沢山いるけど、貴方の横には私以上の適任はいないでしょ?」
私以上の適任。
深い意味は無い。
リィリーが【アイテム使い】のスキルを持っているからだ。
彼女がアイテムを使うと効果が上昇する。
「他の誰にも任せられないかな」
開始、一分前。
『クロノスだ』
戦場の全軍にクロノスさんの声が届く。
『いよいよ開戦だ。
戦士よ、力の限り武器を振るえ!』
「「「「ウォー」」」」
鼓舞に反応したプレイヤー達が地鳴りのような声と共に、手にした武器を高々とかざしているのが見える。
『声の限り、魔法を放て』
「「「「オォー」」」」
『一人で多く、仲間を助けよ』
「「「「ワァー」」」」
『行くぞぁ!!』
「「「「「「ウオォォォォォー」」」」」」
カウント・ゼロ。
戦闘開始!
『前方に魔法障壁を展開!』
早速、クロノスさんから指示が飛ぶ。
昨日の動画、初っ端の突撃。
それ自体が、フェイク。
狙い通り、敵は全軍で突撃してくると踏んで、開幕早々に魔法攻撃を仕掛けてきた。
しかしそれは、展開された障壁に尽く阻まれている。
さて、こちらもやりますか。
「死霊召喚」
呼び声に応え、周囲に魔法陣が出現する。
その数十六。
まずは、ケンタウロスだ!
機動力で戦場を掻き回してこい。
「はい、次」
すかざすリィリーがMPを回復してくれる。
「死霊召喚」
「プリスは木に隠れながら周囲を警戒してね」
「死霊召喚」
「敵が来たら、攻撃の前に知らせること」
「死霊召喚」
「ラジャ」
「死霊召喚」
『右翼、北よりモンスターが来る。友軍だ』
「死霊召喚」
『敵じゃない。間違うなよ』
「死霊召喚」
戦場では、全軍が突撃を始めていた。
「死霊召喚」
中央軍の、先頭。
「死霊召喚」
盾を並べた前線の、更に前を走る姿が有る。
「死霊召喚」
あれは、二式葉だろうな。
「死霊召喚」
続いて、アンデット軍団。
その無念をこの戦場で晴らして、輪廻に戻れ。
「死霊召喚」
……。
「敵が来るよ」
プリスが警告してくる。
アンデットは出しきった。
次は、ハーピーだ。
丁度良い。
迫る敵を上空から襲撃だ。
「死霊召喚」
……。
ふぅ。
これで最後。
とっておき。
「出よ。我が強敵。
地獄の番人、ミノタウロス!
死霊召喚!」
呼び声に応え、魔法陣の中から声が響く。
「ヴモォォォオオオオオオォォォォォ」
「友達だったの?」
リィリー、冷静な突っ込みは止めてくれないか?
開戦から、五分程。
召喚はし尽くした。
死霊達、は大いに戦場を撹乱している。
「一度、本陣戻ろう」
本陣の後ろに設置されたポータルへ転移する。
流石に先程の様な人混みは既に無い。
ただ、それでもセンヨーから追加戦力が続々と運ばれてきているようだ。
それを取り仕切っているのは秋丸達のギルドメンバー達。
「戦況はどうですか?」
クロノスさんに尋ねる。
「ご苦労様。出足は挫いた。今のところ優勢と言っていいだろう」
ここは小高い丘になっていて、戦場を見下ろす事が出来る。
オレは、地面に腰を下ろし、千里眼を飛ばす。
最前線へ。
二式葉が、二刀を振るい敵を薙ぎ払っている。
それに続くのは、オクター達、重装備の軍団、そしてブンさん達の自称脳筋軍団だ。
右翼に視界を動かす。
突如出現した死霊軍団に、敵軍は混乱のまっただ中の様だ。
ミノさんが悠然と歩いて最前線へ向かっている。
走れよ。




