67.戦争前日
チュートリアルダンジョンでミノさんとトレーニング。
随分と久しぶりな気もする。
以前と違うのは、ミノさんの相手がリィリーであること。
新しくなったオリハルコン製デスサイズの試し切り。
そして、技能融合の調整。
リィリーは、火魔法と鎌技の融合だけに留まらず、そこに、雷魔法を追加し、更にオレも持っていない【突進】や、【跳躍】と言った身体技能系のスキルも融合し始めた。
曰く、その特性を付与した武技ツリーが開放されて行く感覚らしい。
この前、デウス・エクス・マキナを退治した時のSPボーナスは全て鎌技強化に注ぎ込むつもりらしい。
どんだけ鎌好きなの?
その都度、技のお披露目の相手をさせられるミノさん。
ちょっと、同情する。
「うん! こんなものかしらね!!」
実に、満足気。
正直、今戦ったら勝てる気がしないです。
オレの方も、SPに余裕があったので、ひとまず【高速詠唱】を再取得して、【死霊使役】と融合させた。
【死霊使役・詠唱破棄】。ちょっと長かった、詠唱文を言わなくて済むようになった。
明日に向けての収穫。
そして、リィリーに倣って、溟剣に【突進】を融合させておく。
ついでに、【集中】を取得。これは、魔法、武技、及び一部スキルの効果を微増させるものだ。
ちょっと悩んだ末、残りのSPは保留にしておく。
最後に、オレも溟剣の武技をミノさんに試し打ちして、ミノさんの身柄を確保しておくとしよう。
この前の闘技大会の件、忘れて無いからな?
■■■■■
「秋丸ー。そろそろ行くぞー」
冒険者ギルドの向かい、冒険の導き手のドアを開ける。
クラウディオスで作戦会議。
明日に向け、最後の意思疎通である。
「ようこそ、ジンさん。ギルマスはちょっと中で話し合いしているところですので、座ってお待ち下さい」
受付にいたのは、風太郎だったか。
椅子に座って暫し待つ。
すると、奥からローブ姿の男がやってくる。
「は、はじめまして! フェンリルナイト、と言います!」
「はじめまして。リィリーです」
何しに来た。田中。
「あ、あの、握手して下さい!」
はぁ?
「え? なん、で?」
リィリーも困惑顔だ。
「おい、フェンリルナイトさん。それ、反省会案件になるからな」
ほら、ピンクのウサギさん、出ておいで。
「それでも良い!」
ドン引きだ。リィリーが。
目でこちらに助けを求める。
「ヤメろ、見苦しい」
「お客様に迷惑かけ無いでよ。ほら、行くよ」
田中は、慌てて助けに来た風太郎に、連れて行かれた。
何だったんだよ。全く。
「すまん、リィリー」
「え、なんでジンが謝るの?」
う。
そう言えばそうか。
「なんとなく」
「ふーん」
「ワリィ。遅くなった。明日の事とか色々やることが多くて」
秋丸が奥から走って来た。
「こっちこそ、巻き込んだみたいで悪かったな」
「何言ってんだ。トップギルドに混じってイベントに参加して、重要なポジション任されるんだ。
悪いことなんて、一つもねーよ」
「二人共、仲良いのね。ジンが、同性と楽しそうにしてるの、初めて見たかも」
「そんな事無いだろ」
考え、しかし、そう言えば同性のフレンドってそんなに居ない事実に気づく。
「だって、リアルで連れだもん」
「え!?」
「アレ? 言ってない?」
「そういや、言ってなかったっけ」
「うん。初めて聞いた……そっか……友達、か……。
あ、えっと、ジンがいつもお世話になってます」
と言ってリィリーは秋丸に頭を下げた。
なんか、おかしくね?
秋丸は秋丸で、なにか言いたそうな目つきでオレを見る。
「さ、そろそろ行こう。遅刻する」
移動しましょう。そうしましょう。
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クラウディオス、会議室。
円形テーブルの前に立つ面々。
オクターさん、ブンさんを始めとした攻略ギルドのマスター達。一番端にちゃっかりと秋丸もいる。
そして、海猫さんとゾイゼン、生産者ギルドのマスター。
中心に立つのは、クラウディオスのマスターで、イベントの総大将、クロノスさんだ。
「ギルドクラウディオスのマスター。クロノスです。
C2Oの攻略ギルド、生産者ギルドを代表して、私が明日行われるイベントを取り仕切ることとなりました。
皆さん、ご存知かと思いますが、明日マーツの西にて、西方より進行してくる敵軍を迎え撃つ戦いが行われます」
クロノスさんの前の仮想ウインドウが表示され、地図が展開される。
操作しているのはニケさんだ。
「我々の布陣は次の通りです。
まず、部隊の構成を三つの陣に分けます。
中央、ここは、攻略ギルド及び、ソロ戦力部隊で構成します。
前線より、盾部隊、近接部隊、弓、魔法による遠距離支援部隊の三軍に分けます。
盾部隊隊長は、白銀騎士団、オクター。
近接部隊隊長は、熊熊団、ブンさん。
遠距離支援部隊隊長は、La Roue de Fortune、デローダ」
名指しされたマスターたちはそれぞれ頭を下げる。
「また、この三軍の間にそれぞれ、回復部隊を投入します。
この陣容が中央軍となります。
左翼、右翼は、現在、固定でパーティーを組んでいる面々で結成して頂く想定です。
職能毎に分割するより、密にコミュニケーションが取れるメンバーの方が戦いやすいだろうという判断です」
仮想ウインドウ上に、戦場の地図と、赤と青に色分けされ、敵味方を示すオブジェクトが表示される。
「我々は、開戦と同時に全軍で突撃を敢行。
中央軍が敵軍を押しとどめている間に、右翼、左翼がこれを包囲。
敵軍を殲滅」
仮想ウインドウの地図上へ、赤の軍が青の軍を取り囲む様がアニメーションで展開される。
「プレイヤー各位に置かれましては、明日のイベント、是非とも参加していただき、大いにその力を振るって頂きたい。
センヨーより、戦場近くへ転送する準備もあります。
レベルは関係ありません。一人でも多くの参加をお待ちしています。
明日の作戦指示は、本イベントの専用機能のボイスメッセージによって行います。
本作戦は、一人でも多くの戦力を必要としています。
C2Oプレイヤーの底力を見せつけましょう!」
「ハイ! カット!!」
ニケさんの声が響く。
明日に向けた、告知動画の撮影である。
「オッケー。問題なく撮れたと思う。
早速、各所に拡散してくるわ」
と言って、足早に会議室を出て行った。
「粗い作戦だな」
横で二式葉が呟いた。
「まぁ、敵の軍容がわからないんじゃ、あんなもんじゃないかな。誰が見るか分からないし」
「お前はどこに入るんだ?」
「独立遊軍」
「という訳で、作戦は今言った通りです。
現状だとこれくらいしか決めれません。
明日、状況次第で詳しく指示を出すことになると思いますが、よろしくお願いします」
クロノスさんが、立ち並ぶ面々に向き直り、声を掛ける。
「最後に、明日の戦場へ案内します。
全員で下見と行きましょう。
パーティー申請送りますので、許可を」
ウインドウに表示された、クロノスさんからの申請に許可を返す。
「では、転移します」
次の瞬間、屋外にいた。
遠くに川が見える。
ここが、明日の戦場か。
どよめきが起こる。
「何でこんなところに転移ポータルが?」
誰かの疑問も当然だろう。
「これは、設置型転移ポータルと言うアイテムです。
闘技大会の賞品だったものを、ジンくんが提供してくれました」
一同がオレを見る。
「ふむ。良い心がけだな」
二式葉が、超上から目線で言い放った。
「という訳ですので、明日に向けてここに転移できる人を増やしておいてもらえると助かります。
では、本日は解散とします。
明日もよろしくお願いします」
あ、ここで解散なんだ。




