66.戦争の準備
翌日。
リィリーとケンタウロス狩り。
前回同様の戦法で大量のケンタウロスを狩って戦力の確保は一段落。
それとは、別に戦争に向け、やるべきことがある。
何も戦力は、召喚だけじゃない。
ここは、クラウディオス、クロノスさんの部屋。
部屋の中には、クロノスさん、ニケさん。
そして、冒険者の導き手、秋丸とヨーコ。
当然のようにオレの隣にリィリー。
プリスとおやつタイム中。
「と、言うことを考えてるんですが。
皆さんの意見を聞かせてください」
オレは、ここ暫く考えていた事を提案する。
「いい考えだと思うけど、ジン君、貴方はそれで良いの?」
「良いんですよ。いや、これがベストな選択だと思います」
ニケさんの懸念はもっともだ。
オレの提案は荒唐無稽。傍から見ればオレだけ損をしている様に見える。
「秋丸はどうだ?」
「そりゃ、そんな事が出来りゃ喜ぶ奴は大勢いるさ。反対なんて出来っこない」
「じゃ、決定ですね。
後の事は、クロノスさんに任せていいですか?」
「ああ。確かに、引き受けた。
明日、最後の作戦会議をする予定だ。ジン君、秋丸君、二人も参加して欲しい」
「「了解」」
「ねぇ、ジン君」
ニケさんが、真剣な表情でオレの前に立つ。
「な、なんですか?」
「貴方、本気でウチに来る気、無い? 好きなポジション、用意するわよ」
「お断りです!」
オレの代わりに返事をしたのはリィリーだった。
「ウチのお得意様を勧誘しないで下さい!
話が終わったなら行くわよ!ジン、プリス」
リィリーは強引にオレの腕を引っ張っていく。
「尻に敷かれてるなぁ……」という、秋丸のつぶやきが聞こえた。
クラウディオスを出た所で、クロノスさんに呼び止められた。
「ジン君、どうだろう。これから二人で闘技場に行かないか? 前回のリベンジだ」
二人。
何かあるな。
「おっと、そんな怖い顔しないでくれよ。勧誘なんかしないさ。これは男と男の勝負だ。無残に負ける姿を見られたくないのだよ」
クロノスさんはオレの後ろ、リィリーに向けて言った。
敢えて見ないようにしたが、どんな顔をしていたのだろう。
「分かりました。返り討ちにしてみせますよ。リィリー。プリスと先に戻ってて」
「……うん」
少し不満そうだが仕方ない。
「ふむ。怒らせてしまったかな。ま、時にはそう言う時間も良いだろう」
リィリーの姿が見えなくなってから、クロノスさんがポツリと呟く。
■■■■■
勝負は二対一でオレの勝ち越しだった。
「ふむ。惜敗、と言ったところか」
や、オレの完勝です。
強がらないで下さい。
切り札、使ってませんから。
一本は花を持たせただけです。
「二式葉からは、五本やって一本も取れませんでしたよ」
誰もいない観客席に二人で腰を下ろしている。
「さて、本題は何ですか?」
「どう思う?今回の戦争と、モーリャー達」
「囮であり、本命。その二段構え。そう考えています」
「目的は?」
「ルノーチ城。聖剣。そして魔王」
「驚いたな。一緒だ」
「確たる証拠は何一つ無いですけどね」
「僕の方も大した情報は掴んでいない。
でも、君の案を聞いた時に、何故か確信した」
オレの案。
先程、クロノスさんの部屋で秋丸達を交えて説明した件だ。
アイテム:【設置型転移ポータル】#レア5
フィールドエリアに転移ターゲットを設置する。
通常の転移同様、認識後は全プレイヤーが利用可。
オレのアイテムカタログの中にあったものだ。
これを今回の戦争フィールドの本陣近くに設置する。
それが、オレの出した案。
これならば、参加したくても、戦場に来れないプレイヤーも安全に移動可能となる。
そして、万が一、戦場を離れても直ぐに帰還できる。
仮に、途中離脱して、ルノーチに戻るような事が起きても、だ。
「ここの城に襲撃がある、そう思ってます。
そして、プリスの為にもそれは全力で阻止します。
協力してくれる仲間も見つけました」
スランドをどこまで信じて良いのか。
フェイは信用できるのか。
分からない。答えなんて出るわけがない。
だから、信じることにした。
一昨日、プリスを見て泣きそうに笑ったフェイを。
そして、その仲間を。
「こちらも、それなりの備えをするつもりだ。
ただし、本命はあくまで向こう。
僕はそのつもりで望む」
「当たり前です。クロノスさんが総大将なんですから」
「損な役回りを引き受けたもんだよ。
勝っても利は多くない。負ければ全責任を押し付けられる」
「それを承知で受けたんでしょう? 大丈夫。勝ちますよ」
「当たり前だ!」
決意の篭ったグータッチを交した。




