65.協力者
「相変わらず派手なことヤラカシやがって」
「ん?」
登校中、通学路の途中で秋元が話しかけてきた。
「何のことだ?」
「ボス撃破だよ。よりにもよって姫さんと二人とは」
「あー、ログ流れるってやつか」
「そうだよ。前回の最強さんとの時も軽く掲示板で騒ぎが起きたが、今回はその比じゃ無かったぞ。見てないのか?」
「見てない。どうせロクな言われ方してないんだろ」
「まぁな」
「そういや、秋元、次のイベントって聞いたか?」
「戦争だろ? 聞いてるよ。ただ、ウチは初心者向けギルドだ。あんまり縁がないかな」
「そんな事無いだろう」
「そもそも、初心者にとっては戦場まで行くのも厳しい。一番近くに転移しても『マーツ』だろ? そこから結構距離あるぜ。道中の雑魚敵にも苦戦するよ。
参加したい連中は結構いるだろうけど、まずその時点で篩いに掛けられてるわけだ。
多分、全プレイヤーの四割近くは断念じゃないかな」
「ふーん。そう言う事か」
■■■
「やぁ、闘技大会ぶりだね」
Creator's Homeのカウンターでリィリーを待っていると、珍しい人物に声を掛けられた。
「フェイ!」
以前共に戦った弓使い。
闘技大会では敵として準決勝を戦った相手だ。
他に、二人ほど連れ立っていた。
「それと、カリシアさんでしたよね。そちらは……」
見たことがある。
「ソロで闘技大会出てましたよね。確か……」
「スランドだ。はじめまして」
「よかった。君に聞きたいことがあったんだ」
横にフェイが腰を下ろす。
「前、センヨーで一緒にクエストにでかけたのは、ジン、君だよね?」
「そうだけど、何で?」
「僕の覚えている印象と違ってたから、わからなかったんだ」
「あ、そうか。あの時は、そう言うスキルを使ってたんだ。フレンド以外から人物を特定されなくなるというスキル」
「なんだ、そのスキルは? 良かったら詳しく教えてくれないか? 対価も用意する」
スランドが、【迷彩】スキルの説明に食いついてきた。
「スランド、ちょっと待って。僕の話が先。それで、君が一緒にいたのはNPCのプリスって子だったよね?
彼女、どうしたんだい? まさかとは思うけど、あの時……」
「……その、まさか」
「僕達を庇った時だね?」
「そう、あの時、命を落としている。その後、訳あってゴーストとしてオレと共にいる。ま、今は他の人に預けてるけど」
「何て事だ……彼女に謝らないと……」
「待った。本人は、そのことを悔やんでない。少なくとも表には出さない。だから、普通に接してやってほしい」
「そうか……。わかった。ありがとう。僕の話はそれだけだ」
「じゃ、次は私だな。スキルの件」
フェイと、スランドが席を入れ替える。
「そもそも何でこんな怪しげなスキル、必要なの?」
「人に紛れるのは忍の性」
「は?」
「全てを欺いてこそ、真の忍」
「変な人でしょ?」
カリシアさんが、フォローを入れる。
全てを欺く。
まさか!
「因みに、性別は?」
「ふ、答える必要など無い」
「あら、よく気づいたわね。これでも女の子なのよ」
やっぱ、そのパターンか。
「ちなみに、フェイも」
「え?」
「僕は、アバターは男だからね」
ややこしい!
中の人が女性か。
そのパターンで行くと、カリシアはネカマとなるのか?
こちらの考えに気付いたのか、不敵にウインクを返して答えるカリシア。
わっかんね。
とりあえず、あまり深入りしないほうが良さそうだ。
「そんな事より、スキルだ。対価は何が良い? 金か?」
うーん、怪しいな。
仮にスランドが、WCOのユーザーだったらどうする?
「じゃ、忍の者に一つ依頼をしようかな。それが達成できたら教える。
どう?」
「聞こう」
「週末にイベントが予定されているのは知ってる?」
「ああ。生憎と闇に生きる私が出て行く戦ではないがな」
何、この人。
「ちなみに、フェイは?」
「僕もパスだな。人混みの中では狙いを付けづらそうだから」
それは残念。
カリシアは?
顔を向けるとウインクを返す。わかんねって。
「だったら、丁度良い。イベントの時間中、ここの城で騒ぎが起きないか見張っていて欲しい」
「引き受けた!」
「早いな」
「陰謀だろ? そういう事だろ?」
「まぁ、その可能性がありそうだなという程度。自分でやりたいんだけど、あいにく戦争に駆り出されている」
「ふ。裏の仕事は任せよ」
「じゃ、報酬はその後、と言う事で」
と言って、スランドにフレンド申請を送る。
ついでにフェイと、カリシアにも。
カリシアは正直、気が進まないけど、あえてここで送らないのも変だろうし。
「それじゃ、僕もそれを手伝おうかな。プリスに対しての罪滅ぼしになるかい?」
「もちろん! きっと喜ぶよ」
「そうか」
「フェイ!!」
ちょうど、プリスの叫び声が響いた。
奥からプリスが飛んで来る。
「や、やぁ、プリス。久しぶり」
「フェイ! プリス、弓上手になったよ!!」
「ああ! 闘技大会で見たよ! すごかったね」
プリスがドヤ顔でサムズアップを決める。
そこへリィリーがやってくる。
「お待たせ」
「む。似非死神!」
「何よ似非忍者! いたの? 忍者なら大人しく屋根裏に隠れてなさいよ」
「仮にも客に対してなんという言い草!」
あー、長くなるの? これ。
ならなかった。フェイがすぐにスランドを引っ張って辞去したからだ。
「あの忍者と知り合いだったの?」
「いや、今日始めて話した。弓使い、フェイとは顔見知りだったけど」
「最近、顔を出すようになった人ね。物腰の柔らかい人よね」
「そう、だね」
「さて、今日は山ね! 早速行きましょう!」
■■■
ハーピーの集団。
と言っても、そこまで数は多くないか。
昨日と同じようにリィリーが挑発で呼び寄せる。
それをオレが、剣と魔法で葬っていく。
プリスとリィリーは弓で援護。
リィリーの大鎌は海猫さんに預けてある。
昨日、魔法都市の廃墟を散策した時に、幾つかの武器を拾っていた。
長年放置されていたため、柄や鞘には相応の風化が見られたが、その金属部分は輝きを失っていなかった。
材質はオリハルコン。
それを一度インゴットにして、オレとリィリーの武器に鍛え直してもらっているのだ。
オレにとっては、初めてのオーダーメイド武器。
と言っても、溟剣の持ち手となるだけのちょっとその性能が泣くような代物なのだが。
ハーピーは百体近く確保できた。
戦力の確保も、レベル上げも順調そのもの。




