64.魔王の封印
破壊の痕跡は奥に続いていた。
先行した何者かも、デウス・エクス・マキナを倒したのか、それとも何らかの手段で戦闘を回避したのか。
痕跡を辿った先にあったのは、壊された建造物だった。
まるで何かを祀っていたような祭壇があったようだ。
辛うじて、そう思える程度にしか原型を留めていないが。
そして、地面に小さな穴が開いている。
まるで何かを納めていたみたいに。
「既に、手遅れか」
おそらく、ここに何かが封印されていたのであろう。
「ここに、魔王が封じてあった?」
「多分ね」
「ここに、あったのは、魔王の魂」
プリスが、静かに語りだした。
「夜と死の神レイエの力によりて、魔王タイテムの魂をトリカに封ず。
戦の神バジョエの力によりて、魔王タイテムの体をヘラーイに封ず。
鍵は、聖剣と聖玉。
リヴ・ビアーシェはこれを守り継ぐ。
命尽きようとも」
「それは?」
「昔、教えてもらった。英雄騎士エアスの遺言」
「聖玉って言うのは、あの首飾りの事?」
「そう。聖剣と一緒にお城に置いてあったはずなの。
でも、変な人たちが持ってた。
頑張って取り返そうとした。
けど、死んじゃった……」
そう言う事だったのか。
そして、オレはその価値も意味も理解し無いまま、渡してしまったと言う事だ。
失敗したな。
実のところ、魔王の封印とか疑問符が付いていたし、更にそれをプレイヤーがどうこう出来るものだろうか、と甘く考えていた。
「ごめん」
「うん? ジンは悪く無い。だって、ジンには関係ない事だもん。
これは、私たちの使命なの」
『命尽きようとも』。
ご先祖様の言葉を忠実に守ったわけだ。
こんな小さい子が。
まるで、呪いじゃないか。
そして、オレはその呪いから救ってあげられなかったのか。
「プリスは頑張ったのね。
でもね、私も、ジンもプリスの味方よ。もう、関係なくないわ」
リィリーがプリスを抱き締めながら静かに言った。
■■■■■
ログアウト前にルノーチで食事を取ることにした。
店は、リィリーが選んだ。
二式葉と反省会事案が発生した中華屋。
個室にして欲しい、とお願いしたのはオレだけど。
適当に料理を注文。
相変わらず、プリスは甘い物しか食べない。
杏仁豆腐、マンゴープリン、胡麻団子……。
まぁ、リィリーも似たようなものか。
「で、何で個室にしたの?」
「うん。ちょっと考えを整理したくて。
プリス、魔王の体と魂が揃うとどうなるんだ?」
「知らない。試した人いないもん」
そりゃそうか。
そのための封印だもんな。
「魔王が復活するんじゃないの?」
「まぁそうだよなー。でも、なんでそんなことを企んでるのか」
「魔王は、蘇ると大変」
「何が?」
「世の中が混乱するって言ってた」
わかんね。
「まぁ、目的は一旦置いておこう。
気になるのは、タイミング。
封印の鍵のもう一つはルノーチ城にある。そうだよな?」
「うん。聖剣は王座の間に置いてあるの」
しまっとけよ!
危機管理能力ゼロか。
「リィリー、もしそれを狙うとしたら、何時にする?」
「え? 警備が薄くなる時かしら」
「それって、どういう時だろう」
「うーん、他所で大きな事件が起きている時とか、偉い人が外遊に出てる時とかかしら」
「だよね。ちょうど、この後大きな事件が起きる予定がある。戦争っていう」
「偶然じゃない?」
「かも知れない。でも、オレが確実にモノを奪おうとしたらこうするな。
まず、戦争を仕掛けてそちらに目を向けさせる。
その隙に、城内から剣を盗み出すよう工作する。
工作が失敗しても、西の軍勢が、そのままルノーチ城まで押し込んで城を落とせばそれで良し」
「戦争に負ける事は想定しないの?」
「今の彼我の戦力差ならまず負けないだろう、と考える」
「辻褄は合ってるけど、そしたら、私達がやるべきは戦争に勝つことじゃない?
城が狙われるって言うのは、仮説でしか無いのだし」
「でも、確実に城は狙われる。オレの第六感がそう言っている」
「それ、あんまり面白くないわよ?」
信頼に足る協力者が必要だ。
戦争に参加しない、実力者。
心当たり?
困ったことに、全く無い。




