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63.ワールドログ

 マップを散策し、そして見つけた廃墟。

 無残な姿だった。


 木々は焼き払われ、辛うじて残っていたであろう建造物は既にその姿を留めていない。

 そして、それが、ごく最近行われたであろうことは、風化の具合と比べても明らかだ。


 その中に、佇む人工物。

 彫刻像と見間違うその物体は、周囲を警戒するようにゆっくりと動いていた。

 鈍い光沢を放つ、金属製の人形。

 巨大な腕を持ち、腰はスカートのような造形になっている。足は存在しない。

 不要なのだろう。何故なら宙に浮いているのだから。

 顔に当たる部分には、大きな宝石が一つ埋め込まれていた。


「なんか、やばそうよ」

「やばそうだね。確実に」


 識別してみるか。


 モンスター:【デウス・エクス・マキナ type SN】#レベル ??


 げ。


「レベルが見えない」

「私も」


 ということは、HPバーも確認できないという事だ。

 これは、ヘルプに書いてあった。


「帰ろうか」


「もう、遅いみたいよ……」


 捕捉されたか。

 既にデウス・エクス・マキナはこちらに向かって滑空を開始していた。


「覚悟を決めるか……」


 両手に溟剣(クリスタルブレード)を出現させ、溟盾(クリスタルシールド)をリィリーの周りに展開する。

 オレは後回し。


 プリスは既に聖歌を歌い出している。


 リィリーが迎え撃つべく、走りだす。


「リィリー、壁、飛び乗って!」


「ラジャ」


 返事を確認し、リィリーと敵との間に岩盾ロックシールドを出現させる。

 リィリーはその上に器用に飛び乗り、せり上がる壁の勢いを借りて大きく跳躍する。

 オレは、壁で遮られた視界を確保するように、斜めに走る。


 リィリーが、巨大な敵の、その更に上から大鎌を振り下ろした瞬間、敵の姿が掻き消える。


 背後。


 考えるより早く、気配察知が発動した。


 とっさに、前方に身を投げ出す。

 そこを、デウス・エクス・マキナの巨大な腕が空を切る。


 おいおい。瞬間移動って。

 それは、オレが使ってたチートスキルじゃないか。


「実際にやられると、こんなに厄介な能力だったのか」


 オレの時は、発動後のクールタイムがあったけど。五分。

 こいつはどうだろう。


「リィリー。後方警戒してて。プリス、上空からこいつの位置を確認」

「「ラジャ」」


 一気に突っ込む。

 が、氷の刃は、敵に届かず空を切る。

 使い放題か?

 どこへ、飛んだ?


「プリス!」


 リィリーが声を上げる。

 上か!


 しかし、デウス・エクス・マキナが振るった腕はプリスの体をすり抜ける。

 霊体。物理攻撃無効。プリスの特性だ。


 プリスは、すぐさま、弓で反撃に出る。


 しかし、その前に再度瞬間移動で距離を取られる。


「勝てんのかね。アレ」


 呆れたように呟く。


「どこかに弱点があるはずよ!」


 うーん、物語とか、ゲームならそれが定石だけど。

 普通、そんな設計にしないよね。

 オレだったらしない。

 万が一、あっても容易く突かせるような事はしない。


 とは言え、ゲームだしな。露骨に怪しいのはあの顔の宝石かね?


「プリス、顔、狙えるか?」

「やってみる」


 が、プリスの矢は空を切る。


 今度はリィリーの後ろ。

 しかし、それを予測していたのか、既に体を捻らせ何もなかった自身の後方へ大鎌デスサイズを振るっていた。

 その攻撃が出現したデウス・エクス・マキナを捉える。


 甲高い金属音が響くが、ダメージが入った様子は無い。


 プリスが、より上空から諦めずに矢を放つ。


 次はオレの後ろか?

 違った。

 プリスだ。


 相変わらずデウス・エクス・マキナの腕は空を切る。


 ん?


 見上げたその姿に違和感があった。


 下からしかわからないが、その、スカート形の造形の中央にも大きな宝石。


 露骨に怪しくね?


「プリス、MPを回復してくれ」

「はーい。寄魔(マナディリバー)


 MP全快。

 となればやることは一つ。

 後はタイミング。

 左手の剣を消滅させ、準備をする。


 上空からゆっくりと降下して来るデウス・エクス・マキナ。


「ジン、飛ばすわよ」


 ん?

 なんで、やりたいことがわかるんだろう?

 リィリーは返事を待たずにデウス・エクス・マキナへ飛び掛かる。

 大鎌デスサイズを振るった、その刹那、オレの後ろに気配。


 とっさに左手を動かす。

 全MPをぶち込む火柱ファイヤストーム。魔法融合による雷撃のおまけ付き。


 それをデウス・エクス・マキナの下からぶち当てる。


 ズシャと言う、重い音が背後から響く。

 振り返るとデウス・エクス・マキナは地面に落下していた。

 しかし、まだ生きている。

 その右腕をオレにぶつけるように伸ばしてくる。

 剣で受け止めつつ、後方へ下がる。


 そして、飛び込んできたリィリーの大鎌が頭部の宝石へ、刃を食い込ませた。


 それが、止めとなったのであろう。

 デウス・エクス・マキナは動作を完全に停止させた。



〈ポーン〉

〈魔術都市の廃墟ボス・デウス・エクス・マキナ type SNを撃破しました〉

〈ボス討伐ボーナスとしてSP10獲得しました〉

〈初回討伐ボーナスとしてSP30獲得しました〉

無傷パーフェクト討伐ボーナスとしてSP30獲得しました〉

〈討伐MVPとしてジンがSP10獲得しました〉


 勝った!


 リィリーと顔を見合わせる。

 次の瞬間、いきなりリィリーが飛びかかって抱きついて来た。

 予想外の衝撃に、よろけて尻餅を付く。


「ストップ、ヤツが来る」


 ピンクのヤツが。


 ハッと我に返り、離れるリィリー。


 セーフ! だよな?

 辺りを窺うが、気ぐるみの姿はない。


「……ごめん。嬉しくて」


 下を向きながら弁解するリィリーの耳は真っ赤になっていた。


 こんな時どんな顔をすれば良いのだろうか。




「落ち着いた」


 暫く下を向いていたリィリーが顔を上げて言った。


「そう。まぁ勝てると思わなかったからね。

 あの時、リィリーは、オレのしようとした事をわかった見たいだったけど、何で?」


「え、だってMP回復するほど、消耗してなかったでしょ?それなのにプリスに頼んだから、放つ魔法はアレだろうなって。

 それに、貴方、笑ってたわよ?」


 え?


「笑ってた?」


「うん。勝ちを確信した瞬間に、口元に笑みが出るのよ。気づいてないなら癖ね」


「嘘? そんな顔してる?」


「うん。してる」


 全く気にしてなかった。


「そうなの?」


 プリスに聞いてみるが、プリスは首を傾げるだけだった。


「ま、ほんとに少しだから、よく見ないとわからないかも。

 で、それ見て、あ、何か思いついたんだなって」


「たった、それだけで?」


「そうね。でも、それだけあれば十分じゃない?」


 そう言ってリィリーはメニューを操作しだした。


 全然、十分じゃない気がするんですけど。



「あった!」


 メニューを見ながら、嬉しそうに呟くリィリー。


「何が?」


 オレの問い掛けに、仮想ウインドウを展開して応えるリィリー。


 そこには、『ワールドログ』と書かれた、リストが表示されていた。

 その一番下をリィリーは指差す。


 [デウス・エクス・マキナ type SN 初回撃破 ジン/リィリー]


 こんなのあるんだ。全く知らなかった。


「あれ? 見たこと無い?」

「うん。初めて見た」

「これは、イベント達成なんかのログ。設定で、追加があった時にインフォが出るようにも出来るのよ。

 で、その一つ、ボスの初回撃破。これはパーティメンバーの名前も出るの!」

「へー」


 そのひとつ上にもオレの名があった。


 [大天使 初回撃破 二式葉/ジン]


 塔の奴だな。

 つまり、このゲームの記録に名前が刻まれてるわけか。


「ふふ。良かった」


 リィリーは嬉しそうで何より。

 オレは不満が残るけど。

 何で、プリスの名前入れないのかね。ここのシステムは。


 デウス・エクス・マキナは動きを止めた後も、消滅せずにその場に留まっていた。


 これ、実はアイテムとして持って帰れるのか?


 識別をしてみる。


 モンスター:【デウス・エクス・マキナ type SN】#レベル ??

 自己修復中


 げ、ヤバい。

 放っておいたら復活するぞ。こいつ。


「リィリー、先に進もう」

「うん!」

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