62.休憩
「ふう。もう良いかな……」
淡々とアンデットを狩り続け、元からのストック含めて500近くになった。
一旦、センヨーに行き、冒険者ギルドでリィリーを待とう。
メッセージを送りつつ、センヨーへ転移。
返信で指示された食事屋に入り、リィリーを待つ。
店内はプレイヤーで賑わっていた。
オレを見て、両手を合わせて拝む奴が数名。
だから、何なの?それは。
「おまたせ」
「おまたせー」
リィリーとプリスがやってきた。
店内が一際騒がしくなる。
まぁ、有名プレイヤーだしな。
「お疲れ。で、成果は?」
メニューを渡しながら尋ねる。
「魔法は三種類取れたわ! あとは、武器を二つと魔法二つかな」
「魔法、コンプしないの?」
「うーん、そうすると、変な称号付くでしょ?
それほど魔法使わないのに、等しくスキルレベル上げてくのは大変かな」
「なるほど。そういうもんか」
かく言うオレも水と氷は取り直して無いが。
溟術があるので不要なのと、雨の女神へのささやかな配慮。
リィリーとプリスは、スイーツを次々とオーダーしていく。
そして、すぐ、皿がテーブルの上に乗りきれないほど運ばれてくる。
「「いただきまーす」」
「プリスのお陰で、思ったより早く取れそう。これならイベントに間に合うわ」
「ふぃふうぉうぇいふふふはふはっはほ」
プリスが、口の中いっぱいにパフェを詰め込みながら答える。
なんて言いってるかわからんが。
「ジンの方は?」
「ん、順調。かな」
「そう。この後も続けるの?」
「いや、ルノーチの図書館覗いて終わりにしようかと思ってるけど」
「じゃ、私もそうしようかな。明日は?」
「明日は……」
どうしようかな。先に山でハーピーを狩るか。
その成果次第ではセンヨー東の探索は後回しにしないといけないし。
「お、有名人」
明日の予定を思案していると急に声をかけられた。
秋丸。ギルドの仲間数人と一緒だった。
「よう。昨日はありがとう。助かったよ」
「はじめまして。ジンの友人の秋丸です」
「はじめまして。リィリーです」
「プリスちゃんもこんにちわ」
食べるのに夢中のプリスは手、だけで秋丸に返事をする。
行儀が悪い!
横のテーブルの腰を掛けながらニヤリとした顔でタリスが「お忍びデートですにゃ?」などと聞いてくる。
「そうね」
面倒なんで適当に返す。
「ちょ、ジン、え、デート、じゃないって。え、違うわよね?」
思いの外、リィリーが慌てている。
「じゃないらしい」
「にゃるほど、そうですか。そうですか。むふふ」
「で、ホント、何してたんだ。やけに今日は人が多いんだ。ここ」
「ん、リィリーが冒険者ギルドのチュートリアルダンジョンで修行してたんだよ」
「あそこもやたらと混雑してるよな。今日」
「そうなの?」
「ええ、すごい人出だったわ。そんな中、プリスと二人で行ったから、ちょっとした騒ぎになりかけたのよ」
目に浮かぶ。さっきも「姫だ」「天使だ」と言う声があちこちから上がっていた。
「謎スキル情報、公開されたからじゃないかな」
あ、間接的にオレのせいなのか?
「ふーん。そう言えば、東のマップの様子、どうだった?」
「今日もちらっと進んできたんだが、いかんせん敵が強くてな。
ケンタウロスの大集団がいたから引き返してきたよ」
「何!? ケンタウロスだと!」
「ああ、どうしたんだ。いきなり。スクショもあるぞ」
秋丸が仮想ウインドウを展開する。
そこに映るのは槍や弓を持った半人半馬の群れ。
「おお、これだ。
リィリー予定変更。今から行く!」
「ふぇ?」
ちょうどケーキを口に運んでいたリィリーから間抜けな返事が返ってきた。
「食べ終わってない。行かない!」と、プリスが抗議してきた。
「じゃ、オレ一人で行ってくるよ」
「ダメ。食べ終わるまで、待ちなさい。それに今から行っても時間無いわよ?」
あ、そっか。
このゲームに限らず、フルダイブ型VRシステム利用の制限。
連続利用最大五時間。
遡って八時間の内、六時間以上利用禁止。
遡って二十四時間の内、十五時間以上利用禁止。
五時間イン三時間アウトを続ければローテーションを崩さずプレイ可能なわけだが、流石にそれは肉体的、精神的に無理がある。
なので、問題となるのは五時間の制限と、八時間のうち六時間の方だ。
このままログインしていたら前者に、そして、インターバルを二時間挟まないと、再ログイン後に後者の制限に引っかかる。
「一旦休憩か」
「そうです。二時間後に待ち合わせでどう?」
「了解。待ち合わせ場所は?」
「うーん、ここの宿屋でいっしょにログアウトにしましょう」
女性に宿屋に誘われた!
いや、他意が無いのはわかってるけどね。
■■■■■
「いた! いっぱいいる!!」
千里眼を飛ばし、周囲の様子を探る。
草原を優雅に闊歩する、ケンタウロスの群れ。
その様子は事前に秋丸から聞いていただ、この目で見ると圧巻だ。
数は五十程か。
千里眼を解除し、リィリーとプリスに話しかける。
「じゃ、作戦通りに行こう!」
「「うん」」
作戦は?
リィリーが遠くから、挑発でケンタウロスの群れを呼び寄せる。
突進してきた所へ、巨大な岩盾を出現させてその勢いを殺す。
そこへ、プリスが夜闇と、オレの流星を広範囲に襲う。
その後は、各個撃破。
大分、適当な作戦だけどなんとかなるだろう。
「大量、大量」
周囲に敵の姿はもう無い。
百体以上は狩れたと思うのだが、困ったことにオレ自身が止めを刺さないと【死霊使役】の対象にならないみたいだ。
それなのに、リィリーの大鎌が次々と敵を葬って行く。
結局、ストックできたのは六十程。まぁ、それでも十分多いけど。
「これ、イベント前にもう一回やりたい。だから、リィリー、また手伝ってくれない?」
リィリーの挑発で効率良く狩れているのは事実だ。
「もちろん!」
「ありがとう。でも、獲物は残してね」
さて、この先へ進むと魔王が封印されているらしいが、どうする?
「この先は何があるのかしらね」
「伝承によると、知の神が眠っていて、滅びた魔法都市があり、魔王が封印されている、らしい。
もう無いと思うけど」
「行くんでしょ?」
「まぁね。ヤバかったらすぐ引き返そう」




