60.明日の予定
Creator's Homeで暫し休憩。
プリスは月子さんの上で眠ったままなので、そのままここまで運んでもらった。
と言うか、月子さんがプリスを離そうとしなかった、言うべきか。
今もソファー席に座り、ハーブティを飲んでいる。
肩にプリスの顎を乘せたまま、器用に。ひょっとして、経験者か?
いや、そんな詮索は止そう。
オレは、その向かいで秋丸からのメッセージを確認していた。
曰く、あの先に進んでみたが、道中のモンスターが思いの外強く、すぐ引き返してきたそうだ。
「ねえ。ジンは明日何か予定あるの?」
何故か、隣りに座っているのはリィリー。
「ん、いや特に」
センヨー東を見に行くか、それとも西の戦場予定地を見に行くか。
そんな所だろうな。
「だったらさ、朽ち果てた塔の攻略、手伝わない?」
「あそこ? 登るの?」
「うん。レアなスキル貰えるんでしょ? イベントに向けて鍛えないと!
でも、制限がキツイので経験者に手伝ってもらいたい!」
「うーん、まぁ良いけど。他のメンバーは?」
リィリーは答えず、自分を指差す。
ん。一人?
「厳しくない?」
「でも、二式葉とは行ったんでしょ?」
「あの人は、規格外だよ」
ちょうどその時、Creator's Homeへクロノスさんが入って来るのが見えた。
こちらに気付いたようで、軽く頭を下げ、そのままカウンターへ座った。
「良いの! 行くわよ!」
「……了解」
勢いに押し切られた。
「ちょっと、挨拶してくる」
カウンターに座るクロノスの元へ。
「先程は、お疲れ様でした」
「ジン君も。お陰で色々と分かったよ。助かった」
「という割には浮かない顔をしてるがな」
海猫さんが、カウンター越しに茶化す。
「衝撃的だったからな。色々と。
そうだ。あの召喚術は、何体まで呼び出せるんだ?」
「え?
決勝で使ったやつですか? 以前試した時は10体呼び出したことろでMPが尽きましたけど。
特に制限あるような事は無さそうなので、ストックある限りは呼び出せる気がします。
ストックっていうのは、オレが倒した数ですね」
「なんと!
仮にMP回復薬が100本あれば、1000体の召喚が可能になるのか?
それは、あのミノタウロスだけとかも可能なのか?」
「いえ、オレが倒したモンスターのみです。
ミノタウロスは今のところ一体しか遭遇してないので、一体切りですね。
他はアンデットですけど、其処までストック無いですよ。
……まさか」
最初は、単純な好奇心かと思った。
「そのまさかが使えないかと思ってさ。一気に戦力倍増だ!」
「いや、あっさり浄化されちゃいますよ。きっと」
「他は呼び出せないのか?」
「可能性としては、ケルベロス、ケンタウロス、ハーピーなんかが行けそうなんですけど、どれも実物見たことないので無理ですね」
「ハーピーなら西のマップにいたぞ!中央の山の上だ」
「……でも、MPが持ちませんよ」
「そこは、オレたち生産職の出番だろ。MPポーション?500程用立ててやる!
費用は気にするな! 支度金が支給されるからな!」
ヤバイ。
このままだと、次の戦争、オレ延々と召喚だけする羽目になるぞ。
「いや、あれ結構スキが大きいんですよ。敵に見つかったら、プリスだけじゃ対処出来ないだろうし」
「じゃ、私が護衛してあげるわ!」
後ろからリィリーが言い放つ。
恨めしそうな顔で振り返る。
笑顔でウインクを返してきた。
「じゃ、決まりだな」
海猫さん、何が決まりなんですか?
「まぁ、まだ作戦も立ってないからね。とは言え、そのつもりで準備してくれると助かる」
「……分かりました」
召喚の長い詠唱、なんとかせねば……。
そこに新たに客が加わる。
ギルドの扉を開け、入ってきたのは先程のオクターとブンさんだった。
「おお、やっぱりここか。クロノス。探したぞ」
「鎖も一緒か。丁度いい」
「おいおい。今日は随分と客が多いな。攻略トップギルド揃い踏みか」
カウンター越しに海猫さんが嬉しそうに言う。
二人はカウンターに座ると、即座に用件を切り出した。
「さっきの話なんだがな、白銀騎士団と熊熊団はクラウディオスの作戦に同調することにした。
ここにいないが、デローダも同意見だ」
「作戦なんて、まだ何も決まってないじゃないか」
「そこ含めて任せるって事だよ。他のギルドにも声を掛けて回るつもりだ」
「C2O攻略ギルド連合の結成だな。トップはお前だ。クロノス」
「おい、勝手にそこまで話を進めたのか?」
「ああ、誰も文句は言わないさ。俺達が言わせない」
クロノスさんが小さく息を吐く。
「わかった。その話、乗ろう」
「よし、それでこそだ。作戦は任せた。俺達は前線で大いに暴れるぞ。存分に使え!」
オクターとブン、クロノスさんは嬉しそうに握手を交わした。
「それと、ここに居たのは都合が良かった。
改めて自己紹介する。白銀騎士団、団長のオクターだ。最初の闘技大会で当たったの、覚えてるか?」
「ええ、ジンです。改めてよろしくお願いします」
「熊熊団、ブンさんだ。ブンさん、まで名前なんだが、ブンでいい」
「ジンです。戦い振りは、拝見してます」
オレも二人と握手を交す。
「実はな、折り入って相談があるんだが」
オクターが神妙な顔で切り出した。
「何でしょう?」
立ちながらだと、上から目線になってしまうので、オレもブンさんの横に腰を下ろす。
リィリーはカウンター側に入り、オレの前に立つ。
「北にある、朽ち果てた塔。攻略に力を貸して欲しい。
クリアすると、スキルが手に入るんだろう?
それなら、次の戦い前に是非とも攻略したい」
「ただ、今の我々だけだとアイテム使用禁止が厳しく、どうしてもジリ貧になる。
そこで、攻略実績がある、鎖のジン、お前の力を借りたい」
我々?
「お二人、とですか?」
「そうだ」
「何だそれは。僕も混ぜて欲しいな」
「お前は作戦を考えろ。戦場で先頭に立つ総大将は居ないぞ」
「お前ら、そう言う算段か!」
「戦闘は脳筋組に任せろ!」
と言って、ブンさんが豪快な笑い声を上げる。
「で、急な話なんだが、明日はどうだ」
「良いですよ。ちょうど、攻略予定があったんで、一緒に行きましょう」
と言ってリィリーの方を見る。
カウンター越しのリィリーは、何故か両目を閉じ、腕組みをしていた。
「あれ? 良いよね? リィリー」
「良いですよ。もちろん」
笑顔で返事をするが、目が笑ってない?
あれー?
「面白そうね。それ。私も参加しようかしら」
月子さんがプリスを連れてやってきた。
起きたのか。
「おっきい人の笑い声で起きちゃったのよ」
「それは、済まなかった」
「月子さんも行くんですか?」
「ええ、せっかくなので私も一緒に連れて行って。良いわよね?」
「良いよね? リィリー?」
「何で私に聞くのよ!」
「まあまあ。みんなで楽しく行きましょう」
オクター、ブンさん、リィリー、月子さん、オレとプリス。
一日限りの急造パーティの結成であった。
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先程まで、雑多なメンバーで賑わっていたカウンター席も、今はオレとリィリー、その膝の上に座るプリス、カウンターの向こうで皿を拭いているミックだけになった。
ギルマス達は来るイベントに向け、これから更に忙しくなるだろう。
オレは、ちょっと憂鬱だが。
「それで、欲しいものは決まったのか?」
「うん。これとこれ!」
アイテムカタログを開いて、プリスが示したアイテム。
アイテム:【ウイリアムの弓】#ランク5
英雄ウィリアム・テルが使っていたとされるクロスボウ。
放たれた矢は、違わず一点を撃ち抜く。
物理攻撃値:36
アイテム:【ロビンの弓】#ランク5
英雄ロビン・フットが使っていたとされる長弓。
放たれた矢は、攻め入る軍勢を跳ね返す。
物理攻撃値:39
武器二つと来たか。
二式葉の影響か?
「そんなので、良いのか?」
「うん。大丈夫! 使える!!」
そう言う意味で聞いたんじゃないのだが。
「うーん、あまり無茶しないでくれよ」
そう言って、アイテムブックを操作して、二つの弓をプリスに渡す。
「よかったねー。プリス。カッコいいわよ!」
「わーい!」
「で、ジンは何にしたの?」
「んー、一つはこれかな」
アイテム:【戦神のお守り・弐】#ランク5
パーティ内取得経験値増加。
対象レベル60まで
「意外と、堅実なのね」
「意外って、何だよ。実益は大事だろう?」
「もう一つあるのよね?」
「そっちは、目下検討中」
「ふーん」
「リィリーは?」
「秘密。当ててみる?」
「何だろう。もう突き抜けてて思いつきもしないけど」
「ふふふ。お楽しみ」




