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58.堂々巡り

「この意味の分からない雑談掲示板が何なのだ?」


 オクターの疑問も当然だろう。


「ご指摘の通り、只の雑談掲示板です。

 しかも、身内だけで書込していて、これだけ見ても意味がわからない。

 これは、WCOコミュニティの中にあったものです。

 私たちは、この中の『転校生』と言う名で書き込みしている、ログに着目しました。

 この、転校生の書き込みによると、七月三十一日つまり、C2Oのオープン前日に別れを告げています。

 そして、八月十日にとある部活に入り、九月十日に部活をクビになったと報告しています。

 これは、奇しくも、当ギルドに所属していた『モーリャー』と言うプレイヤーの行動と一致します。

 モーリャーも同日、八月十日に当ギルドの所属となり、九月十日に素行に問題があると判断し、私が除名としました。

 また、ここは見逃せない点ですが、部活の副部長が美人というところも大きなポイントです」


 ここで、一度言葉を区切り、ニケさんの方を見るクロノスさん。

 ……滑ってますよ。


「えー、このようにギルドを部活、といったように隠語にしている、推測してC2Oの世界に置き換えつつこの雑談を読み返すと、一つのストーリーが浮かんできます。

 WCOのユーザー数名が、転校、つまりC2Oへ移動してきた。

 彼らはC2Oの内情を探りつつ、『マドンナ』を探している。

 そして、つい昨日、『マドンナ』を見事その手中に収め、何らかの事態が進行した。

 いかがですか?」


 いかがですか?と言われても信じれるような話じゃない。

 「こじつけだろう」などと、声が上がるのも当然だ。


 ただ、マドンナ、ね。

 再度、雑談を読み返してみる。



「あー海猫だ。ちょっと話が混線してきているみたいだが、どうだろう。この辺で、一度休憩を入れないか?

 ウチのギルドからデリバリーを差し入れる」

「なんだと!? こんなところで点数稼ぎとは相変わらず汚い!」

 非難の声を上げたのは誰だろう?

「クラフター互助会ていう、生産職ギルドのギルマスよ」

 リィリーが、そっと耳打ちしてくれた。


「わかりました。しばし休憩としましょう」

「よし。今からここに配達させる!」

「皆さん、今話した情報は、この会議の結論が出るまでひとまず極秘として下さい」



 配達を待つ間、メニューを開く。

 秋丸へメッセージを送る。

 ちょっと時間がかかってる気がする。


[どうだ?]

 すぐさま返信が来る

[スマン。田中がはしゃいでレベルアップしてて遅くなった。

 石碑は破壊されていて、その先へ進む道が出来ている]

 と、画像付きで送ってくれた。


 画像は、秋丸の報告通りの有様だった。


[助かる。

 道の先に進んでも良いが、安全は保証できない。

 万が一、モンスター以外と遭遇した場合は身を隠して様子を伺ったほうが良いと思う]


[わかった。

 ちょっとだけ、足を伸ばしてみる]



「おまたせしましたー!」

 大きな声で会議室へ入ってきたのは楓、ミック、桜の三人だった。


「おぉ。パフェはこっちだ。

 他は、それぞれ机の前に配ってくれ」


「はーい」


「皆様、飲み物は、コーヒー、紅茶、フルーツジュースを、ご用意いた、しました」


「はい! プリスちゃんに特製パフェ」

 楓が、丼大はあろうかという器をプリスの前に置く。


「他の皆さんにはケーキ三種盛り合わせです!

 味は絶品です!!」


 楓と桜がケーキを配り、ミックが一人一人に飲み物を聞いて配っていく。



「楓。ちょっと」

「なんですか? ジンさん。甘いものが苦手とか言うワガママは許しませんよ?」

「お前と最初に合ったのって何時だっけ? 覚えてるか?」

「え? 何時でしたっけ?」


「八月六日です」

 桜が正解を教えてくれる。


「それって、一番最初?」

「そうですよ」

「盗人捕まえたのって、次の日だっけ?」

「違います。翌々日。八月八日です」

「ルノーチに来たのは十八日だったよな?」

「そうですね」

「そうか。ありがとう」


「それが、何かしたんですか?」

「うん、あの首飾り、何時無くしたかな、と思ってな」

「今更、あのアイテムに何かあるんです?」

「それは! 私達を巡りあわせた重要なアイテムですもんね!」

「ハイハイ」

「冷たい……」



 二式葉が立ち上がる。

「もう、食べながら話を進めないか。このままだと何時終わるのか見当もつかない」

「いや、しかし……」

 クロノスさんが、言い淀む。

「大方、いま来た三人が、そのなんとかというゲームのスパイだったらどうしようとか考えているのであろう。

 ただな、こんな騒がしいスパイがいると思うか?

 そもそも、最初に集められた人間達からして、怪しくないとどうして言い切れる?」


 不意に引き合いに出さた楓は一瞬考えた後、

「よくぞ見破った、と褒めてやろう!!」

 そう、大きく胸を張って叫んだ。

「おい、ややこしくなるからやめろ」

「あれ? ダメですか? ジンさんの真似ですよ」

 ……やったね。そんなこと。

「なにそれ? 見たい!」

 リィリーが食いつく。

 オレと、クロノスさんが盛大な溜息をついた。


「わかりました。では、話を進めましょう。

 若干脱線しましたが、そもそも戦争に向けてどうしましょう? と言うのが本来の議題ですしね」


「それなんですが」


 立ち上がる。


「さっきの雑談、オレの方でも心当たりがいくつかあります」


「また蒸し返すのか」


「まぁ、敵を知るのも戦略の一つです。

 中に出てきた、『マドンナ』。

 これと、オレの知るアイテムの行方と一致します。


 まず、八月八日。

 『マドンナは見つけたものの、お友達が役立たずすぎる』

 この日、ここにいる楓と桜がセンヨーで、盗品捜索の依頼を冒険者ギルドから受け、依頼品である首飾りを盗人から奪い返しています。訳あって、オレもその場にいました。


 続いて、八月十八日。

 『マドンナが動いた』『マドンナゲットー』とあります。

 同じく、楓と桜が首飾りをセンヨーからルノーチに移送する依頼を受けています。

 ボス討伐の助力として、オレも同行しました。

 そして、ルノーチで、モーリャーにその首飾りを強奪されます。


 さらに、八月三十日

 『マドンナに逃げられたてデートおじゃん』。

 この日、冒険者ギルドから依頼を受け、センヨー東の森のなかにある封印の調査に行きました。

 そこで、怪しい一団が首飾りを使用し、封印を解こうとしている場面に遭遇。

 これを撃退しました。

 その際、首飾りを回収しています。


 そして、九月二十一日。

 つまり昨日ですね。

 『取ったどー!』

 首飾りが、オレの手からモーリャーに渡っています。

 これは、其処にいるクロノスさん、ニケさんも立ち会っています。


 更に、途中に『紐ついてるらしい』と首飾りの場所が特定可能かのような書き込みがありますが、この首飾り、魔力検知など特殊な方法で所在を特定できるものと推測できます。


 また、『マドンナ本格失踪』と言った場所を見失っているであろう期間が、オレ自身特殊なスキルを使っていた期間と一致します」


 ここで一息ついて迷彩スキルをオンにする。


 一部からどよめきが起きる。

 再度、オフにして話を続ける。


「このように、自分の存在をフレンド以外に認識させないスキルですが、これの影響がアイテムにまで及んでいたのではないかと、考えます。

 この二つは昨日、モーリャーが言った言葉を元にした推論ですが」


 ここで一度、会議場を見渡す。


「その話だけ聞くと、お前が全て手引したように受け取れるな」

 二式葉が、厳しい口調で言うが、表情は呆れ顔だ。


 そう言えば、そうね。

 よくぞ見破ったと褒めてやろう!! とかやったら冗談にならんね。自重。自重。


「二式葉さん! よく見破りましたね!」

「ややこしくなるからヤメろぉ!」

 楓に向かって叫ぶ。


「続けます。


 では、その首飾りは一体何なのか?

 僕の調べた限りですが、首飾りは神器と呼ばれ、強力な魔力を秘めています。

 そして、このアイテムはこの世界の過去に於いて、重要な役割を果たしています。


 魔王。最近出没している魔人、その上に立つ存在だそうです。


 センヨー東の更に先に、その魔王の半分が封印されて、首飾りはこの封印を解く鍵となるそうです。

 ちなみに、もう半分はルノーチの北に封印されていて、別のアイテムが鍵となります。


 『お友達』とは魔王復活を目論む勢力であり、封印を解くため、首飾りを求めた。

 モーリャー達はそれに協力する目的でこのゲームに入り込んだ。

 そう考えると、クエスト妨害で魔人が出現しだしたタイミングも腑に落ちる気がするんです。


 それと、センヨー東の封印をフレンドに調査をお願いしました。

 『石碑は破壊されていて、その先へ進む道が出来ている』とさっき報告がありました」


 秋丸から送られてきた画像を仮想ウインドウいっぱいに表示する。


「わかった様な、わからんような……」

「戦争と別ゲーム、魔王、繋がったか?」

「無理筋だろ」


「そんな重要なアイテムを、なんでホイホイ手渡したんだ!」

 ジェイフクが立ち上がって非難する。

「人質を取られた。魔人を町中に解き放つ、と」

「そんな事で!?」


 あいつ、ぶん殴って良いかな?


「ストップ!」

 ニケさんの声が響く。


「ジェイフクさん。中傷したいだけなら出て行って頂きますよ」


 言われたジェイフクが大人しく座り直す。


「あいつ、殴って良いかしら」

 隣でリィリーが小さく呟く。

 奇遇ですね。


「あーブンだ。

 魔王や封印に関して、それだけの情報をどこでどうやって調べたんだ?」

「……調べ物は、図書館ですよ」

「そりゃ、そうだな!オレが一番行かない場所だ」

 ぶっきらぼうに答えたオレに豪快な笑い声を上げる。

 完全に気を削がれた。


「たまには良いですよ。強くなるためのヒントとかも転がってたりしますし」


「ほー。そうか。じゃ、今度足を運んでみよう」


「どれも、弱いな」

 誰かが呟いた。


 そう。

 結局、状況証拠の積み上げでしか無い。

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