54.ギルド・冒険の導き手
朝のホームルーム前。
わざわざ秋元がオレ席まで来た。
何だ? 忘れ物か?
「いよう、おめでとう!」
「何の話だ?」
何かあったか? 予め言っておくと誕生日などでは決して無い。
「昨日の大会! アレ、お前だろ?」
う。
遂に。
「よく見りゃアバター似てるし、名前も捻ってるようで捻りがない。
もう、お前で確定だろってのがオレと田中の意見」
「バレたか」
「水臭いじゃないか。後で話し聞かせろよ」
教師が入ってきたので話はそれで切り上げとなった。
「やっぱり、お前か!」
と、田中。箸を人に向けるな。
「堂々たるトッププレイヤーだったとはな」
購買のパンを食べながら秋元が言う。
「まぁ、色々あってな。今回は運が良かった」
「そもそも何で二人で参加したんだ? お前ギルドとか入ってないの?」
「気ままにソロでやってるよ。で、相方もソロだった。だから組んだ。まぁ、最初はメンバー見つけようとしたんだけどな」
「オレたちも参加したんだけどな。クラウディオスに予選で返り討ちだ」
と秋元。
「ニケさんか。田中と?」
「いや、オレのギルドメンバーと。しかも相手はクラウディオスβ。二番隊の方だ」
「オレなんて、そんな大会に参加するレベルじゃねーよ。全然」
悔しそうに言う、秋元と、そもそも参加できなかったことを嘆く田中。
「オレの、ギルド?」
確かに秋元はそう言った。
「そう。言ってなかったっけ? オレ、ギルド作ったんだよ。これでもギルマス何だぜ。田中も入ってる」
「マジか。ルノーチに?」
「いや、センヨーにホームを構えた」
「何で? みんなルノーチに作ってるだろ? ギルド」
「まぁ、攻略重視するならそっちが良いだろうけどな。
そこまでガチで最前線攻略するようなメンバーじゃないんだ。みんな。
どうせ転移で飛べるんだし、それならセンヨーに作って、気ままに、初心者向けのギルドにしようかって話でまとまった」
「ほー。それはありがたいかもな」
そう言えば、センヨー。
東の封印はどうなっただろう。
「今夜遊びに行ってもいいか? 秋元の城に」
「そんな大層なもんじゃねーよ。
栄えあるトッププレイヤー様なら大歓迎だ。他のメンバーも喜ぶだろう」
「そっちはそっちで楽しそうだな」
端末をいじって何やら調べていた倉本が口を挟んでくる。
「昨日までイベントだったからな」
「こっちは、これからイベントだ。今告知があった。
凄いぜ。戦争だ! 全プレイヤーが一丸となって、敵対勢力と戦うらしい!
開戦はまだ先だが、もう色々動いて準備してる連中がいる」
■■■■■
ギルド、冒険の導き手。
初心者向けと秋元が言った通りの名前だ。
アイツのセンスかね。
場所は、センヨーの冒険者ギルドの真向かい。
扉を開けて中に入る。
「こんにちわ。ギルマスに会いに来たんですけどー」
「ようこそー。え、天使ちゃん? え、何で? マジ天使ちゃん?」
受付にいたプレイヤーがプリスを見て驚きの声を上げる。
秋元め、言ってなかったな。
「あの、ギルマスに取り次いで欲しいんだけど……」
「あ、ハイ。すぐ呼んできます。そっちに座ってて下さい!」
促されたテーブルの椅子にプリスと並んで座り、秋元を待つ。
「来たな! 有名人!」
奥から、重鎧姿の男が四人のプレイヤーを引き連れ現れた。
「昨日は優勝おめでとう。冒険の導き手のマスター、秋丸だ。
それから、こっちがフェンリルナイト。お前も知ってるヤツだ」
田中か。
偉い、頑張った名前だな。
「フェンリルナイトです。宜しく」
フェンリルナイトは、濃紺のローブ姿だった。
「で、こっちが、オレのギルドメンバーのヨーコ、タリス、風太郎だ。闘技大会にも一緒に参加したゲーム開始からの仲間。みんな同年代」
「よろしく」
「よろしくにゃ」
「はじめましてー」
先程、受付にいたのは風太郎と言うらしい。
軽装なので後衛職かな。
「ジン、そしてプリスだ。よろしく」
「よろしくー!」
プリスが手を上げて挨拶するが、果たして聞こえるのか?
あ、田中以外にはちゃんと聴きとったみたいだ。
「まぁ、まだ出来たばっかりだし、メンバーもそんなにいないけど、暫くここでやってくつもりだから、気軽に顔出しれくれよ。
攻略最前線組の話はみんな聞きたいだろうし」
椅子に座りながら、秋丸は言う。
「まぁ、ここにギルドがあれば、開始直後の初心者は助かるだろうな」
「だろう? 特に最近、そこの冒険者ギルドの依頼に変なトラブルがついてたりで、困ってる奴も多いんだ」
魔人の件か、それとも別か。
あの親父、ちゃんと吟味して斡旋しろよ。
「ジン君、折角だから聞きたい事があるんだ!」
「何でしょうか? えっと、タリス」
魔女の帽子を被った女性プレイヤーが手を上げながら聞いてくる。
「本命は、誰かにゃ?」
「は?」
にゃ?
いや、そこじゃない。
「私が、調べた限り、ジン君は一回目の闘技大会後に、二式葉とピンクの刑を受けてる。
でも、その他にも、百合姫や桜さんと交友してる姿が目撃されてるんだな。
色々と噂や憶測を呼んでるんだけど、さて、ジン君的には誰が目当てなのかにゃ?
ひょっとして、天使ちゃん?」
攻略の話じゃないのかよ!
「お前、結構やり手なんだな……」
と、秋丸が呆れ顔で言う。
「どこでそんな情報が……」
「んふふ。掲示板では常識だにゃ!
因みに、今女性プレイヤーの人気投票の真っ最中!
ジン君も投票してね!」
「そんなことやってるんだ」
「昨日の開会式、閉会式のインパクトはそれだけ大きかったのだよ!
で、本命は?」
くどい。
「いや、別に誰もそう言う関係じゃないから。成り行きで、フレンド登録はしたけど」
「今度、紹介してくれ。な?」
と田中が真顔で詰め寄ってくる。
嫌だよ。
「私からも、質問あるんだけどいい?」
ヨーコ、軽装備の女性が静かに言った。
と、メッセージが届くインフォがあった。
「ごめん。ちょっと待って」
メニューを開いて確認。ニケさんだ。何だろう。
[緊急依頼発生、今からギルドまで来れますか?]
ん?
なんだこれ。
「なんか、呼び出しかかった」
「お、誰ですか? 誰ですか!?」
タリスが食いついてきたが、色のある話じゃないだろうな。
「クラウディオスのサブマス。知ってるだろ?」
「ほー、そこも毒牙に!」
違うから。
しかし、まいったな。
この後、センヨーの東の森、封印の様子を探りに行くつもりだったんだけど。
「なぁ、秋丸、ちょっと頼みごとをしたいんだが」
「ん?」
「東の森に、封印の石碑があるの知ってるか?」
「ああ。行き止まりのやつだろ?」
「そう。そこの様子を見に行って欲しいんだ。
出来れば、すぐ」
「そりゃ、構わないけど」
「助かる! その代わり、これを依頼代として渡すよ」
『戦神のお守り』を取り出す。
オレ達にはもう不要になってしまった。
おそらく秋丸たちも必要ないレベル帯にいるだろうが、初心者向けギルドと言うここの性質を考えると、無駄にならないはずだ。
「おい、これって……レアアイテムじゃねーのか?」
「でも、オレ達にはもう不要だからな。ギルドの所有物にして、使い回すとかどうだろう?」
「そりゃ、有り難い話だけど、良いのか? そこそこの金になるんじゃないか?」
「前回の闘技大会の賞品だから、元々タダみたいなもんだし」
「そうか。じゃ、ありがたく頂くよ。持つべきものは友だな。早速石碑の様子を見に行ってくる。後でメッセージで送ればいいな?」
「助かる。やばそうな奴がいたら引き返してくれて構わないから。無茶はしないでいいぞ」
「何だそれ? 何かあるのか?」
「わからん。だから、確認したいんだ」
「なるほどな。じゃ、みんな折角のトッププレイヤーのお願いだ。出発しよう」
と言って、立ち上がりお守りを受け取ると、そのまま田中に渡す秋丸。
オレの前には、仮想ウインドウが展開され、秋丸からのフレンド申請が来た。
承認、と。
もう一件ある。
田中か?
違った。
ヨーコだった。
思わず、顔を見返す。
上手なウインクが返ってきた。
質問の腰を折ったからかな。承認。
「じゃ!よろしく」




