53.第二回闘技大会 幕後
閉会式は、異様な盛り上がりの中、幕を下ろした。
そして再び、控室。
オレと二式葉で賞品の分配である。
賞品は【アイテムカタログ★5】が、六つ。
「カタログは二つずつでいいだろう?」
と、二式葉が言う。
「二つ? 二人で三つだろう?」
簡単な割り算。
「プリスも入れて三人だろう。とても頑張ったじゃないか」
あ、そういうことか。
「でも……」
「いや、良い。私の目的は元々刀一振りだったしな!」
「そうか。じゃ、二つはプリスに上げよう。ありがとう」
メニューを操作しアイテムカタログを二つ二式葉に、残りの四つをオレへ分配する。
「その代わり、賞金は二等分にさせてくれ」
「それで良い」
と答える二式葉は、既にメニューを開いてアイテムカタログを使用していた。
アイテムカタログが消える代わりに現れたのは朱の鞘に収められた、一振りの刀。
アイテム:【加州清光】 #ランク5
新刀中作にして業物。
新撰組隊士、沖田総司が使ったとされる一振り。
一品物。
物理攻撃値:41
重量:35
「これだぁ!
やっと、やっと揃ったぞ!!」
叫び声を上げながら紺の鞘に収められた刀を取り出し二つを並べる。
「そういや、大会中使って無かったのは何でだ?」
「二つ、揃ってから使いたかったんだ。スキルも無いしな」
「なるほど。スキルは使ってりゃその内勝手に覚えるぞ」
「そうなのか?」
オレもカタログを取り出し、プリスに渡す。
「この中から、欲しいもの二つ選んでいいぞ」
「わかったー」
と言ってカタログを眺めだした。
プリスは何を選ぶのかね? アクセサリーにぬいぐるみとかあったかな?
「この後なんだが」
「ん?」
「海猫の所で打ち上げをやるらしい。桜に声をかけられているので、顔を出そうと思っているが一緒にどうだ?」
「いいよ」
実はオレも、楓とリィリーから呼ばれている。
「ただ、その前にちょっとした野暮用があって……。
あ、そうだ! プリスを連れて先に行っててくれないか?
同じ町にいる分には、オレと離れても平気なはずだから」
「は? どういうことだ?」
「んー、プリスを連れて行くような、楽しい用事じゃないんだよね。なんで、ちょっと召喚解除しようかと思ったんだけど」
「プリスもジンに付いて行くよ!」
また、留守番は嫌だったのか抗議の声を上げる。
「うーん、でもなぁ……」
野暮用。
クロノスさんが言っていた、モーリャーの件である。
すんなり謝罪ならそれで良し、そうでなければ……。
思案していると。二式葉がプリスに話しかける。
「プリス、私を桜達が集まる場所まで案内してくれないか?」
「ん、知らないのか?」
聞き返すと、睨み返される。
……あ、そう言う事か。
「プリス、二式葉をリィリーたちのお家まで、案内してあげてくれ。場所、わかるよな?」
「うん。大丈夫。わかる」
「ありがとう。助かるよ。
途中にお店が出てると思うから色々買いながら行こうか!」
「わかった!」
二式葉の機転で、プリスを任せても大丈夫そうだ。
「じゃ、私たちは先に行っている。あまり、無茶するなよ」
「しないよ。みんなによろしく」
と言って、二式葉がプリスを連れて控室から出て行った。
オレは控室に残り、アイテムカタログを見ながら、クロノスさんからの連絡を待つ。
■■■■■
「いくら、人が多いと言っても、こんな場所を指定するなんて、やっぱりおかしいわよね……」
闘技場の周辺は、闘技大会のせいもあっていつも以上の人出だった。
とても、落ち着いて話を出来るよな状況では無かった。
代わりにモーリャーから指定された場所、それはルノーチの街外れにある墓地。
以前、リィリーに連れてこられた場所だ。
オレに同行するのはクロノスさんと、ニケさん。
モーリャーはオレに直接コンタクトを取る術がないので、以前のギルド仲間のクロノスさんへ仲立ちをお願いしたらしい。
「まぁ、何かあっても命を取られるよな事態にはならないでしょうし、気にしすぎですよ」
素直な謝罪、と言う線は薄い、と思う。
それは、クロノスさんもニケさんも気付いているだろう。
あまり、考えたくないのだが、モーリャーとこの二人がグル、と言うことも無い話ではない。
では、何故、ここに来たのか。
モーリャー含め、何かが裏で動いている。
それが、魔人騒動にもつながっている、はず。
それを聞き出せないか?
と言うのが一つ。
単純にモーリャーに会ってみたかったと言うのが一つ。
思えは、このゲームを通して色々なプレイヤーと出会ったが、そのきっかけは今、隣を歩くニケさんだ。
他にも、桜と楓、二式葉など、共に戦った仲間。海猫さんや、更紗たち顔見知り。
そして、この先の墓地で、オレを救ってくれたリィリー。
そんな中、経緯こそあれ牙を剥きあっったままになっているのはモーリャーだけだ。
だからこそ、気になるのかもしれない。
まぁ、他にも、一方的な恨みを向けられてる可能性は否めないが。
「アレだね。うん。一人じゃないのか」
先頭を歩くクロノスさん視線の先には二人の人影。
揃いのローブを着ているが、一人はモーリャー。
もう一人はフードを被っている。
マーカーはプレイヤーの様だ。
「どうする?」
クロノスさんが、足を止めオレに問う。
「行きましょう。一歩離れて付いてきて下さい」
クロノスさんの前に出て、モーリャーに近づいていく。
距離、およそ一メートル。
「ありがとう。来てくれて」
モーリャーが笑みを浮かべながら言う。
見覚えが有る笑いだ。
楓から、首飾りをひったくった時の顔。
「用件は?」
静かに、聞き返す。
「神器、持ってるんだろ? 渡せよ」
「「な」」
後ろでクロノスさんとニケさんが抗議の声を上げようとする。
が、オレは右手を上げてそれを制す。
「持ってるけど、お前に渡してなんの得がある?」
「まったく、お前今までどこに隠れてたの? ログインしてなかった訳じゃないだろ? 検知に引っかからないとか、なんか結界的なヤツ? とかに篭ってた?」
オレに質問には答えるつもりも無いということか。
「それが、用件なら帰るぞ」
「まぁ、待てよ。渡さないと、困ったことになるぜ」
「何が? 回りくどい言い方はやめろ」
「町中に魔人を解き放つ。
神器を手に入れるまで、ずっと、だ」
「打ち負かせば良い。魔人は脅威じゃない」
「オレたちにとってはな。でもな、NPCはどうだ?
戦えない奴もいる。必ず犠牲者が出る。そして、そう言うところを狙って召喚する」
「それ、人質のつもりか?」
「そうしたくないのなら、神器を渡せ」
相変わらず、質問に答えない。
NPCが死のうが知ったことでない。
……以前ならそう答えていたかもしれない。
選択肢は、無さそうだ。
首飾り、それ自体は重要なアイテムで有るのだろうが、正直オレの手には余る代物。
それを、目の前の奴に渡して何が起こる? 決して愉快な事には成らないだろう。断言できる。
だからといって、多数の命を、仮にそれが、プログラム上のものだとしても、差し出すわけには行かない。
「清々しいまでのクズっぷりだ。悪役はそうじゃなくちゃな」
嫌味を言いつつ、首飾りを放り投げる。
「あれ、お前、こんな脅し効いちゃうわけ? マジで? NPCがどうなろうが別に関係なくね?」
首飾りを受け取り、驚きの表情を見せるモーリャー。
手にしたそれを、まじまじと確認する。
「本物だな。
なんだよ。こんなつまらない嘘に引っかかるとか、正義の味方気取りの大アホだな」
モーリャーが頭の横で指をクルクルと回す。
ハッタリだったか。
まんまと、嵌められた訳だ。
「それ、どうするつもりだ?」
「楽しいことに使うんだよ。じゃあな」
と言って二人の姿が掻き消えた。
「結局、罠だった訳だ……。本当に、申し訳ない」
クロノスさんが深々と頭を下げた。
「しかし、こうも乱暴なやり方を野放しとか、運営は何を考えているんだ!」
オレの代わりに憤る。
「いや、気にしないで下さい。オレが自分で決めた事なんで」
何でオレがフォローしてんだ?
「それより、あのアイテムを使って何かを企んでる。
その方が問題ですかね」
「あれは、何なの? 神器って言ってた?」
とニケさん。
「大きな魔力を秘めたアイテム。と、同時に封印された魔王へ至る扉を開ける鍵、らしいんですが……」
墓地から離れ、街中へ歩きながら、図書館で仕入れた情報を掻い摘んで二人に説明する。
「ふむ。そうすると、何か、イベント絡みということかな。
こちらでも色々情報を追ってみる。何かわかったらすぐ伝えるよ。
それと、これは証明の術が無いのだけど、私もニケも彼に騙された。そこは信じて欲しい」
「ええ、信じますよ」
「ありがとう。たまにはウチのギルドにも顔を出してね。
その気が有るなら、幹部席とか用意しちゃうわよ」
「確かに、クロノスさんの椅子は座りごこち良さそうですね」
「いきなりトップ!?」
「……実力的には、それでも可笑しくないのよね」
「ブルータス、お前もか!?」
「まぁ、大変そうなんで辞めときます。当分好き勝手ぶらぶらするつもりです」
「そして、蹴った!?」
いちいち、ツッコミを入れるクロノスさん。
普段は、物静かで落ち着いた人なんだけどなぁ。
■■■■■
『本日貸切』と書かれたCreator's Homeの扉を開ける。
中は既にお祭り騒ぎだった。
「お、主役が来たぞー!」
誰か、叫び声が上がる。
「ジンー!」
プリスが、騒ぎに興じるプレイヤー達の上を飛び越え出迎えに来る。
やめなさい。はしたない。
「おまたせ」
「美味しいものいっぱいあるよ!」
見ると、カウンターとテーブルの上に所狭しと料理が並べられている。
和洋中何でもありだ。
「遅かったわね」
人を掻き分け、リィリーが顔を出した。
「さ、こっちに来て。プリスも」
と言って、オレの手を掴んで引っ張っていく。
連れて行かれたのは、ギルドの奥。
作業場と言われている所だろう。
普段は立ち入らないところだ。
ちょっとした体育館ぐらいの広さがある。
ギルドのメンバーであろう、見慣れぬ、生産職の面々がそれぞれに会話に興じていた。
その中央の一画までリィリーに連れて行かれる。
そこには、ガールズチームの面々と、二式葉。ソロ連合の回復役の女性が待っていた。
「遅かったな。はい。これ持って」
と二式葉から飲み物が入ったグラスを手渡される。
「よーし、主役が全員揃ったところでもう一回乾杯するぞー」
海猫さんが、声を張り上げる。
「はい、全員、注ー目!
では、我らがCreator's Homeの代表、ガールズチームと、お得意様、月子嬢の栄えある三位入賞。
そして、ジン君と工房のアイドル、プリスちゃん、実は女でした、オレは知ってたけどね、二式葉嬢の堂々優勝を記念して、カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ」」」」」
全員が一斉にグラスを掲げる。
その直後「「「「「パーン」」」」」と言う、クラッカーの乾いた音が会場のあちこちから鳴り響いた。




