51.第二回闘技大会 決勝
控室に戻ると、メッセージが届いていた。
リィリーから、[負けちゃった]と一言だけ。
うーん、返信に困る。慰めを送るべき?
[リィリーの分もプリスと二人がんばるよ]
と、返しておく。
二式葉もメッセージを確認していたようだ。
「さぁ、決勝だが」
「出し惜しみ無しだ。あの召喚、使えるか?」
「え、ルール上は問題ないけど」
「なら、使おう。多少は数の不利が解消できる」
「でも、すぐ浄化される可能性もあるぜ?」
「多少でも混乱してくれれば、十分だ。
槍使い、大剣使いの二人は引きつけたいが、相手はどうくるかな」
「んじゃ、オレの相手はニケさんとクロノスさんか」
「どちらも二対一ならなんとか凌げるか、と言ったところだろう」
「やけに慎重じゃないか」
「負けられない理由ができたのでな」
ふうん。
「召喚、ちょっと時間かかるんだよな。多分、開幕と同時に呪文放ってくる」
「呪文なら、プリスが防ぐよ?」
そうか……。
そうだったな……。
「じゃ、お願いできるか?
その後は、上空に退避して、弓で牽制しつつ、歌を」
「私はその後突撃だな。プリス、忙しいだろうが回復もお願いだ」
「大丈夫!」
「プリスが頑張るんだ。絶対優勝だな」
と言って二式葉はプリスの頭を撫でた後、メニューを開いて何かを取り出す。
そして、流れるままにしていたロングヘアーを後ろで結び出した。
「何してんだ?」
「ん、いや、気分転換。
さすがに編み込みまでするつもりは無いが、どうだ?」
「ん、見違えたけど」
「二式葉キレイ!」
「どういう心境の変化?」
「今更、もう隠す必要も無いからな」
■■■■■
「こっちは全力で行きますから、そのつもりで!」
試合開始前、握手しながらクロノスさんに言い放つ。
「こちらにも意地がある。流石に二人、いや三人か。に、負ける訳には行かないのでね」
不敵な笑みを浮かべる。
何か策あり、と言った所だろうが、こちらも切り札はある。
距離を置き、開始の合図を待つ。
『それでは!これが最後!!最高の戦いを期待します!!
レディ…………ゴォ!!』
開始と同時にプリスが前に飛び出て魔法障壁の詠唱に入る。
プリスは、魔法と弓しか使ってないのでINTとDEXの値が高い。
そして、神使の影響で、全パラメータが、1.2倍になっている。
契約霊となった段階で、多分だが生前のステータスはそのままに、レベルが1にリセットされている。
その影響もあり、実はほぼ全てのステータス値がオレを上回っている。
なので、大抵の魔法なら無力化するほど強力な障壁を生み出す。
オレも、プリスを信じ、召喚術の詠唱に入る。
「輪廻に戻らぬ、魂よ。
死の国の使徒よ。
夜と死の神、レイエの神使としてその力を乞う。
我が呼びかけに答え、その力を現せ。
我の敵を打ち砕く、力と成り給へ。
死霊召喚」
目論見通り、詠唱中に相手から火の範囲魔法が飛んできたが、プリスの障壁がそれを無力化した。
そして、その障壁の前方へ召喚陣が出現する。
青黒い円柱状に立ち上る光の中から、オレの呼び出したモンスターが姿を表わす。
剣を携え、鎧を身にまとったスケルトンが二体。
今まで倒したアンデットの中でも特にレベルが高かったもの。生前は一端の強者だったであろう。
斬撃に滅法強い。回復いらず。
ただし、浄化だけは勘弁な。
そして、もう一体。
姿を現した瞬間に、こちらを振り返り、心底嫌そうな顔をした、戦友。
初心者迷宮の番人。ミノさんである。
いやーミノタウロスって死者の国の住人だったんですね。
ダメ元で挑んでみたら、ちゃんと召喚できるようになりました。
「ヴゥモォォオォォ!」
うん。怒ってるね。でも、その怒りはあちらさんに向けてね。
「プリス、歌を」
呼びかけに応える返事は無いが、代わりに心地よい聖歌が聞こえてくる。
乱戦だった。
スケルトン二体とミノさんが、魔術師と回復役を相手にしている。
回復役が、スケルトンを浄化をしようとしているようだが、ミノさんがそれを許さない。
魔術師はミノさんへ魔法を叩き込む。
そんな戦いが繰り広げられている。
二式葉は?
鬼人化し、槍使いと大剣使いの両方を相手取っている。
戦況は、互角?
いや、隙をプリスの矢が狙っている。
オレの方は、ニケさん、クロノスさんと相対している。
両手に溟剣。
周囲に溟盾。
こちらの攻撃はクロノスさん防がれる。
剣先をニケさんに向けても、間に入り込む。
その隙に、ニケさんが死角に回り込み打ち込んでくるが、溟盾が自動でその攻撃を受け止める。
互いに決め手に欠ける。
「ジーンー」
間延びした声が聞こえる。
とっさに後ろに飛び退く。
その直後、上空から大量の矢が降ってくる。
雨の矢、プリスの武技だ。
盾を頭上に掲げそれを防ぐ、クロノスさん。
大きく、後方に飛び退くニケさん。
今だ。
「雨燕」
武技を発動して、クロノスさんの懐へ飛び込む。
「電撃の返し」
その攻撃にクロノスさんのカウンター攻撃が合わされる。
「戦禍の天秤」
カウンターはオレを直撃するが、スキル効果でダメージを無効化。
驚愕の表情を浮かべるクロノスさんを武技で沈める。
まず、一人。
周囲の状況を横目に確認。
スケルトン二体の姿がない。浄化されたか。
「睡魔」
プリスが、睡眠状態にする冥術を放った。
その餌食となった回復役が、膝から崩れ落ちる。
そのまま床に全身を打ち付ける寸前、太い腕が差し込まれ彼女を優しく受け止める。
ミノさん? 何してんの?
眠りから覚めない彼女を、そのままお姫様抱っこにする。
え? まさか攫うつもり?
……いや、オレの強敵はそんな奴じゃ無い。それはオレが一番良く知っている! ……と、思う……。
呆気に取られる魔術師を尻目に、悠然と闘技場の端まで歩いて行く。
……場外に落とすつもりか!? て言うかそうであってくれ! 変な事すると、飼い主の品格が疑われる!
事態に気付いたニケさんが、そちらに向かうか逡巡の色を見せる。
ならば。
狙いを魔術師に切り替える、そう言う視線を流すとニケさんはミノさんを諦めオレを牽制することを選択。
そんな駆け引きの間に、ミノさんは闘技場の端まで歩みを進めていた。
そして、眠り姫を抱いたまま場外へと飛び降りる。
……は?
眠り姫をゆっくりと地面に横たえる紳士。
いやいやいや、何、勝手に戦線離脱してんの?
直後に二人の姿が掻き消える。
控室と、迷宮に強制転移したのだろう。
あいつ……。
覚えてろよ……。
一瞬、呆気に取られたオレに向けて魔術師が雷撃を放つのが見えた。
ヤベ。
溟盾が、その雷撃を受け止め蒸発する。
更に、追撃。二の手が迫り来る。
避けきれないか?
刹那、プリスが舞い降り、魔力障壁を展開する。
何時か見た光景。
……また、助けられたか。
掻き消えた障壁の向こうから、ニケさんが伸ばした細剣がプリスを捉える。
が、その一撃はプリスの体を通過し、空を切る。
ニケさん、プリスに物理攻撃は効きません。
目論見を外したニケさんの隙へ、オレが武技を叩き込んでいく。
と同時に、二式葉が魔術師を仕留めるのが見えた。
『決着ゥゥ!
勝者ァ、アルカンシエルゥ!!』
メノゥの実況が響く。
勝った。
プリスのお陰でどうにか、かな。
「ありがとう。プリス」
「ジンは、危なっかしい」
お前に言われたくないがな。
「ありがとう。二人共」
二式葉が、ゆっくりと歩いてこちらへやって来た。
その右手に握手をして、そしてそのまま手首を掴んで上に掲げる。
『オォォォオォオォォオォォ』
割れんばかりの歓声を拍手が場内にこだました。




