46.神使
宿屋に戻り、プリスを召喚する。
スッと現れたプリスは、案の定、膨れ面だ。
「ごめん。プリス」
両手を合わせてプリスに頭を下げる。
「バーカ! 許さないもーん」
え。
「しゃべったーーーーーー!?」
称号の影響か!?
なんにせよ、プリスと会話をすることが出来るようになった!
「プリス」
「何?」
おそるおそる、プリスに手をのばし、頭を撫でようとする。
が、やはり触れることは出来ない様だ。残念。
「プリスの声が聞こえるようになったよ」
「ふーん。でも、許さない」
「ごめん。そうだ、パフェを食べに行こう」
「許す」
簡単だ。
「……ジン、レイエ様が、ありがとう、だって」
「え」
レイエ様って、夜と死の神様だよな。
あの神話の続きに、ちょっとだけ救いのあるエピローグが追加されたのかな。
「ジン、うれしそう?」
さて、パフェを食べたらちょっとだけ狩りに行こう。
場所は昨日、リィリーと行った島から北。
アンデットが出没する廃墟があるそうだ。
新スキルの試し撃ちだ。
さて、どんなもんですかね。
■■■■■
一通りスキルを試したわけだが。
うん、悪くない。
悪くないどころか……最高ですよ!
まず、溟剣。
以前の術式融合による氷剣の上位互換。
氷の刀身はそのままに、攻撃時にMP吸収効果がついた。
仄かに光を放っていた姿とは逆に、微かに黒い霧のようなオーラを立ち上らせているが。
そこはねー、光ってて欲しかった、
意味はなくとも光って欲しかった。
そして、溟盾。
これも、形状は以前の氷盾とそう変わらない。
ただし、耐久力が向上した。
以前のように一撃で砕けるようなことは無い。
こちらも黒い霧を漂わせている。
この黒い霧、魔法に対する障壁になっていると同時にセンサーの役割も果たしているらしい。
なんとこの黒い霧に攻撃が触れると、自動でそれを防ぐように動く。
楽でいいわ。これ。
まぁ、それほど速く動くわけでないので過信は禁物だが。
溟風は、範囲魔法攻撃。
使い勝手は悪くはない。
まぁ、以前からあまり範囲魔法攻撃使っていなかったので、比較サンプルが少ないのではあるが。
そして、死霊使役。
倒した、アンデットをストックして置いて後で召喚できるようだ。
倒した後で、ストックするか確認のメッセージが現れる。
召喚したアンデットは、HP0、つまり浄化で消滅。
再召喚は個体により可能だったり、不可能だったり。何かトリガーがあるのか?
使役と言っても、呼び出したら勝手に敵に向かっていき、指示や命令は出来ない。
現在、30体程ストックがあるが上限には達していないようだ。
まぁ、所詮モブモンスターなので、一体一体はそれほど強いわけではないのだが。
因みに、アンデットを倒す度にいちいち確認ウインドウが現れて鬱陶しいので、強制で全て承認するように設定する。
この設定、『自動処理』という機能を使い、予め設定した条件下に於いて、決められた行動を自動でするように設定が出来る。
例えば、HP10%以下でポーションを使用、など。
但し、設定するための枠を一つ開けるのにSP10が必要となる。
闘技大会の人数合わせも使えるかな。
まぁ、瞬殺とは行かないが簡単に負けるであろう強さなので、あくまで、切り札、兼、撹乱程度だが。
術式融合が完全に浮いてしまってるけど何を詰め込もうか。
それは、闘技大会までに考えましょう。
■■■■■
「はい。ご注文の品」
「やった! すぐ着る」
はいはい。
メニューを操作しながら更紗に礼を言う。
アイテム:【白の天使着】 #ランク3 製作者:更紗
背中に翼を模した飾りが付いた服。
物理防御値:7
魔法防御値:11
重量:0
AIG:5
INT:8
装備部位:体
神聖術威力向上(微)
プリスの衣装だ。
「どう! 似合う? 可愛いでしょ!!」
衣装チェンジしたプリスが嬉しそうに飛び回る。
「バルーンパンツって、かぼちゃパンツの事だったのか。
にしても、翼ってどうよ?」
「いや、私もちょっとどうかと思ったんだけど、プリスが付けて、飛んでたらかわいいなって思いついて、そしたら、もうこうなってた!」
白を基調にした、ドレス風の衣装。その背中に小さな翼が付けられていた。
「まぁ、本人も満更で無いようだし、いいか」
「嬉しそうで何より!
それとこれはジンの分」
「サンキュー」
アイテム:【黒鱗のコート・改】
ブラックリザードの皮を使ったコングコート。
ファーに白銀狐の毛皮と天使の羽を使用している。
ミスリル製のチェーン付き。
物理防御値:6
魔法防御値:9
重量:7
AIG:4
INT:8
装備部位:体
「ま、大して性能変わってないけどね」
「いやいや、性能は十分なんだが……」
何で、肩口から背中に掛けて鎖が付いてるんですかね?
「この、鎖は?」
「リィリーのリクエスト!」
……そっすか。
「……忙しいのにありがとうな」
「ま、その分対価はいただきますけどね」
「わかってるよ」
メニューを操作し支払いを済ます。
「毎度あり!」
オレの金は、ほとんど更紗に吸い取られている気がする。
もう、所持金が心許ない。
闘技大会は是が非でも優勝して、賞金を手に入れねば。
「それと、これはお得意様へのオマケです」
と言って髪飾りを手渡された。
「プリス、髪飾りもらったぞ。付けるか?」
「んー、いい」
あれ?
「気に入らないのか?」
「それ、とっても綺麗で可愛いけど、この髪飾りはジンがご褒美でくれたものだから、こっちで良い」
そうか。そう言ってもらえると嬉しいな。
「今のが気に入ってるみたいだから、これは返すよ」
「そう。余計なお世話だったかな」
■■■■■
「さて、どれほど強くなったかな」
目の前の剣士が悪役みたいな台詞を言う。
「どうだろう。男子三日会わざればって言うからな。それなりの自信はあるんだけど」
ここは闘技場。
プライベート戦闘モード。
目に前に立つのは二式葉。
観客席はプリス一人。
二式葉からもらったお菓子を食べながら観戦している。
闘技大会前日。
本気で戦いたい、とオレがお願いした。
前回の闘技大会の雪辱。
自信はある!
自信はあったんだけどなー。
五戦全敗。
最後、やけくそでアンデット召喚しても勝てなかった。
STR値の差かね。
二式葉の攻撃が、溟剣で受け止めきれない。
一撃一撃が重い上、狙いも正確。
かと思えば、ただがむしゃらに剣を振り回すような苛烈な攻めも混ぜてくる。
それらを辛うじて、捌いているうちに詰め寄られてお終い。
「なかなかのものだったと思うぞ。少なくとも私に切り札を使わせたのだから」
鬼神化使わせたから十分?
いや、絶望的な差を感じたわ。
「勝てると思ったんだけどなー。前より差が付いてる気がするわ」
「あの瞬間移動は脅威だったからな」
「それなー。今更惜しくなってきた」
「ぼやいても仕方ないだろう。それに十分強い。私以外には負けないだろう。
さて、切り上げてどこかで食事しながら、明日からの作戦会議と行こう」
予選の作戦。
試合開始と同時に、オレが全MPで風圧を仕掛ける。
万が一残った敵がいたら、二式葉が始末する。
プリスは控室で待機。
本戦一回戦の作戦。
二式葉が暴れる。
それ以降。
相手次第で考える。
以上。
なんだこれ。
予選はともかく、本戦は何をするか分からないオレとプリスの力を極力見せずに戦いたい、らしい。
ただし、勝ち上がりの相手次第でオレとプリスが参戦していく。
と言う事になった。
まぁ、一人の方が戦いやすいんだろうな。
万が一、決勝まで何もやること無かったらどうしよう。




