45.夜と死の神の神話
「司書さん。夜と死の神について知りたいんだけど、どこにあるかな」
「それでしたら、三階のE1~E7に神話の本がまとまっております」
「ありがとう。見てくるよ。またわからないことがあったら聞きに来る」
なんとなく、冥術や、死霊契約なんて力を授かってはいるが、そもそも夜と死の神について何も知らない。
せっかくだから、調べておくのも良いだろう。
もしかしたら、プリスに役立つ情報もあるかもしれない。
「ちなみに、死者蘇生の方法とかあったりする?」
「そういった書物・文献はここには置いておりません。禁術となりますので」
あるのか。
「じゃ、どこに行けばわかる?」
「お教えできません」
「そう、か」
多分、いくら問いかけても教えてくれないだろう。
可能性が僅かに存在する。
それが分かっただけでも十分だ。
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夜と死の神の話
死の神と夜の神がいた。
二人は穏やかで争いを好まない神だった。
二人は共に雨の女神に恋をした。
雨の女神がいた。
全てに等しく愛を注ぐ神だった。
女神は同時に二人の神から求愛された。
二人の神は互いに同じ女神へと求愛したことを知った。
二人の神は父であり、主神たるシジクに願いでた。
「父よ。神よ。どうか私達を一つのものとして下さい」
女神は二人の愛に答えたかった。
女神は父であり、主神たるシジクに願いでた。
「父よ。神よ。どうか私を二つのものとして下さい」
シジクは、願いに答え、夜と死の神を作った。
シジクは、願いに答え、雨の女神と雪の女神を別つた。
雨の女神は、死の神と夜の神の思い出を無くした。
何かを愛したことを思い、涙する。
「愛しい誰か、私はここにいます。いつになったら会えるのでしょう」
こうして雨の女神は水の女神となった。
雪の女神は、死の神と夜の神の愛を無くした。
愛したことを知らず、二人の神に恨みを募らせる。
「死の神と夜の神のせいで、私は常に冬の寒さに耐えねばならない」
こうして雪の女神は氷の女神となった。
夜と死の神は水の女神に会いに行った。
雨の女神はかつて死の神と夜の神であったものを覚えていなかった。
夜と死の神は氷の女神に会いに行った。
雨の女神はかつて死の神と夜の神であったものを愛していなかった。
夜と死の神は、悲しみながら死の国たる安らぎの野に戻っていった。
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二人の神と一人の女神。
互いに、互いを思い、そして
一人の神と二人の女神となったすれ違いの話。
何故か、今オレの持ち物になっている首飾りを思い出す。
アレは、ひょっとしたら、彼が女神に贈ろうと創った物ではないか?
そんな風に思えた。
他の話を読んでも、彼らのその後は記されていなかった
何だろう。モヤッとする。
物語はハッピーエンドであるべきだ。と、オレは思う。
まぁ、オレが作った話じゃないのでどうこう言う権利は無いのだが。
メニューを開いて考える。
『水魔法』
『氷魔法』
『冥術』
互いに想い合っていたはずの神々の力だ。
それが、オレの手にある。
……。
いや、待て。
これは、オレが戦うために必要な力だ。
これが無ければ、戦力半減だ。
どうかしている。
うん。
どうかしている。
でも、目の前にある物語をちょっとだけ、救いのあるものにしたかったんだ。
プリスが今一緒にいるのも夜と死の神のお陰らしいしな……。
二式葉、すまん。
オレは、ポンコツになるかもしれん。
……いや、アイツ、オレ道連れにして、塔から飛び降りたな。
思い出したら腹立ってきた。
よし、覚悟は決まった。
技術融合で、『水魔法』と『氷魔法』を融合させる。
……。
出来上がったのは?
『冰魔法』
<ポーン>
<称号【六女神の祝福】が消滅しました>
<称号【水女神の呪詛】を獲得しました>
<称号【氷女神の呪詛】を獲得しました>
ぐ。
不穏なインフォ。
称号:【水女神の呪詛】
女神の嫉妬
水魔法威力低下(大)
水魔法消費MP増加(大)
称号:【氷女神の呪詛】
女神の嫉妬
氷魔法威力低下(大)
氷魔法消費MP増加(大)
ぐあ、祝福が呪詛に変わってる。
まぁいい。目的はこれじゃない。
気にするな。
若干、心折れそうだけど。
続いて、『冰魔法』と『冥術』の融合。
そう、二つに分かれた女神の力を一つにし、そして、一人となった神の力と引き合わせる。
理不尽な物語に対する、ちょっとした抵抗だ。
<ポーン>
<称号【水女神の呪詛】を消滅しました>
<称号【氷女神の呪詛】が消滅しました>
<称号【夜と死の神の祝福】を獲得しました>
<称号【雨の女神の祝福】を獲得しました>
<称号相関により【溟剣・二刀流】が取得可能となりました>
<称号【夜と死の神の約定】を【夜と死の神の神使】に上書きしました>
おお。
なんか、結果オーライ? 目論見通り?
メニューで確認。
称号:【夜と死の神の祝福】
再会に感謝を。例え仮初であったとしても。
溟術 スキルレベル+10
消費MP軽減(大)
称号:【雨の女神の祝福】
愛に感謝を。例え仮初であったとしても。
溟術 スキルレベル+10
魔法威力向上(大)
称号:【夜と死の神の神使】
夜と死の神の使いとして、移ろう魂の声を聞き届けよ。
求むものに静寂と安らぎを。
契約霊強化
【死霊使役】取得可能
これが、新たに取得した称号。
そして、『冰魔法』と『冥術』の術式融合によって出来たのが『溟術』。
その内容は?
術:【溟剣】
闇を纏う氷の剣を出現させる。
攻撃時、MP吸収。
アンデット特効。
術:【溟盾】
霧を纏う氷の盾を出現させる。
術:【纏魔】
INT・MIN向上
術:【溟風】
視界を奪う、暗い吹雪を起こす。
ふむ。
完全にオレ用にカスタマイズされてるよね? これ。
追加スキルは?
スキル:【溟剣・二刀流】 #必要SP 50
溟剣の扱いを理解する。
『溟剣』使用時の与ダメージ1.2倍。
溟剣技取得可能
スキル:【死霊使役】 #必要SP 50
屈服させた魂を召喚し、使役できる。
魂は、輪廻に戻らざる者、死の国より来るもの。
使役は効果がよくわからないけど、まぁいい。
まとめて取得してしまおう。
棚ボタ的に強化されてるが、その能力は試して見ないと分からん。
あ、プリスがほったらかしだ!
そろそろ戻ろう。
「お探しの本はありました?」
帰り際に司書が、話しかけてきた。
「ええ、雨の女神と夜の神と死の神の話を見つけました」
「私、あの話嫌いです。悲しすぎませんか?」
「そうですね。でも、ひょっとしたら、再び一人に戻った雨の女神と、夜と死の神が再会する。そんな事があったかもしれないですよ。書かれていないだけで」
「……そうですね。そうだと、良いですね」
「じゃ、また来ます」
「はい。いつでもどうぞ」




