44.図書館
翌日。
[問い合わせの件、こちらも数件報告があります。
直接、情報交換したいのでログインしたら連絡下さい。]
ニケさんからのメッセージだ。
ログアウト前に魔人について、何か情報はないか問い合わせのメッセージを送っておいた。
その返信だ。
[今、ログインしました]
とメッセージを送る。
結局リィリーとは、島を出た後、城の下見まで付き合わされた。
途中、フィールドボスが居て難儀したりしたのだが。
現在確認できているフィールドボスはこれで最後だそうだ。
これでオレのレベルは29。
SPはボス撃破分含めて100まで溜まっている。
そろそろ、スキルも再考しないとな。
[ギルドまで来てもらえる?]
[了解]
さて、ニケさんに会うわけだが、プリスはどうしよう。
おそらく、闘技大会の大本命。
ギリギリまで手の内を明かしたくないのが本音だが。
かと言って、この宿屋に一人で置き去りというのも忍びない。
召喚解除するか?
そういや、試したことなかったな。
そもそも、オレがログアウトしている間とか、この子はどうしてるんだろう。
「プリス。今日はちょっとオレ一人で会いに行きたい人がいるんだ。
ちょっとだけ、召喚を解除するぞ」
プリスが、首を傾げてきょとんとした表情をする。
すまない。
メニューを開いて、召喚解除を選択。
スッとプリスの姿が消える。
やっぱり、ゲームなんだよな。
と、冷静に思う。
とっとと用事を済ませてしまおう。
■■■■■
「とりあえず、クロノスの部屋へ」
ギルド、クラウディオスに入るなり、出迎えのニケさんが待っていた。
通された、クロノスさんの部屋には、当然クロノスさんも居た。
「はじめまして、ですか?」
【迷彩】の影響だろう。が、説明も面倒だ。
「以前お会いしたことありますよ」
「そうでしたか。それは失礼」
話を進めてしまおう。
ニケさんに向き直る。
「で、聞きたいのは魔人の件、なんですけど」
「それね。私達はまだ遭遇していないけど、ギルド内で何件か報告があるわ。
ここ、一週間ぐらいかしら」
「オレは、先月末にイベントで一件。それと、昨日ですね。知り合いが巻き込まれた現場に居合わせた感じで」
「私の聞いた限り、共通点は一つ。アクセサリーを届けるクエストね。
ただし、届け先も品物も全部バラバラ。
偶然の一致、かも知れないレベル」
「なるほど。昨日の方は詳細聞けてないですけど、先月は別口のクエストですね。
センヨー東の森。その奥に不審な人物が目撃されてるから調査して欲しい、と言われてNPC駐屯兵と行ったら、怪しげな人物達が何やらあそこに施された封印を解こうとしていた。
止めようと飛び出したら、魔人召喚。
という感じです」
「相手にも何かしら目的があるってことかしら? ちなみのその封印はどうなったの?」
「その時は撃退できたんで、まだ破られてないと思いますけど」
「撃退したの? 結構な強さだって聞いたけど」
「ええ、辛うじて。 強いは強いですよ。 なにせこの前クロノスさんを吹き飛ばした一撃。あれ食らっても四分の一もダメージ与えられませんでしたから」
ニケさんが驚愕の表情を浮かべる。
クロノスさんは、怪訝な表情を浮かべているが。
「で、流石にこの先も相手にする機会があると面倒なんで、何かしら有効な対処法とかご存知なら教えてほしいなーと思ったんですが」
「知らないの。報告例が少ないのもあるけど、勝ったって話は私の知る限り、君だけ」
そうかぁ。薄々そうだろうなとは思ってたんだが。
「でも、そんな強力な敵をホイホイ置くようなゲームデザインするかしら?」
と、言って暫し考えこむニケさん。
「するだろう。ここの運営なら」
横からクロノスさん。
うん。氷川さん。貴方全く信用されてませんよ。
「でも、やり方が理不尽すぎる気もするの。こちらの都合をまるで無視している。
ただ、そんな憶測をいくら重ねても意味は無いわね。
ジン君、この後もう少し、時間あるかしら。
付き合ってもらいたいところがあるんだけど」
「どこですか?」
「調べ物といえば、図書館よ」
■■■■■
「私も来るのは初めてだけど、かなりの数の本があるという話」
案内された図書館の前でニケさんが説明してくれた。
中に入ると、入り口は吹き抜けになっていて、三階まで見渡す限り本棚が並んでいた。
「ようこそ。王立図書館へ」
受付に座る司書であろうNPCが話しかけてきた。
「魔人、に関連する本、文献を探したいのだけど」
「それでしたら、二階のD3~D5に魔王戦争の関連書物がまとまっています。
それより以前の物は三階のC4~D1までの伝承類の書物に記載があると思います。」
ニケさんの問い掛けに笑顔で応じる司書。
「えっと、手っ取り早く、検索をしたいのだけれど」
「検索、でございますか?」
司書が困った表示を浮かべる。
ニケさんが言ったのは現実の図書館には必ず存在する、全文検索システムの事だろう。
ただ、NPCの反応を見るに、そんな物は存在しないようだ。
「……探すわ」
ニケさんもそれを察したらしい。
「……何冊あるんですかね。これ」
とりあえず、教えてもらった一画に来た。
目の前にはオレの背丈以上の本棚。
そこに隙間なく本が陳列されている。
500? いや、それ以上だ……。
「昔の人は、どうやって本を探してたのかしら……」
これを一冊一冊、開いて、読んで、中身を確認していくのか?
というか、この本、全部中身書かれているのか?
どんだけ作りこまれてるんだよ。この世界。
「片っ端から、見ていきますか……」
目的は、魔人の正体。そして対処法。
果たして見つかるのやら。
■■■■■
一時間ほど経っただろうか。
「どうですか?」
持っていた本に目を通しきった所で、ニケさんに声を掛ける。
「漠然とした情報は集まったけど、対処法はあまり無いわね。
一回摺合せする?」
「そうしましょうか」
本を棚に戻し、ウインドウのメモを表示させる。
「魔王が出現したのは、およそ300年前。
これ、割りと最近よね」
「ですね。神話の時代とかの話だと思ってました」
「ひょっとしたらそういう話もあるかもしれないけど、この辺で調べた限り、300年前の話しか無いわね」
「こっちもです」
「で、その時に現れたのは魔王タイテムとその配下の魔人十人」
「名前は本によって微妙に違ってたりしましたけど、数は一緒ですね。ちなみのオレが倒したやつと同じ名前もありました。
影ってついてましたけど」
「と言うことは本体は別にいるのかしらね? で、その魔王達は、エアス・リヴ・ビアーシェ率いる聖騎士団の活躍より見事退治されました。
エアス・リヴ・ビアーシェはその功績を讃えられ、大公となりルノーチを大きな都へ発展させました。めでたしめでたし」
「エアスは聖剣を携えていたと言う話もありましたね」
エアス・リヴ・ビアーシェなる、人物がプリスのご先祖様なのだろう。
「こっちは、傍らに神シジクの奇跡を賜った聖女が居たともあったわ」
「聖剣に聖女。一プレイヤーでどうにかなりそうもない話ですね」
「そうね……」
そう言って、ニケさんが眉間に皺を寄せながら本棚に目を移す。
また、あの中を探していくしかないのか。
「お探しの本は見つかりましたか?」
いつの間にか司書が近寄ってきて話しかけてきた。
他に人の姿は見えないので、暇なのだろう。
ゲーム内で読書に入り浸ろうと言う酔狂なプレイヤーは少ないだろうからな。
「まだね。例えば魔人の倒し方とかわかると良いんだけど」
「それでしたら……」
と言って歩き出し、棚の中から一冊の本を手に取る。
そして、その中ほどのページを開く。
「この辺りから、そういった記述があります。これは、聖女セーナを教え導いた大司祭の話を、魔導研究者が学術的に纏めた本です」
「「え」」
ニケさんと同時に驚きの声を上げる。
「あなた、ひょっとして、ここの本、全部覚えてるの?」
「流石に全部ではありませんが、七割ほどは記憶しています。
残りはまだ、読めてませんね」
あったよ。検索システム。
「そ、そう。ありがとう。助かるわ。
また、知りたいことが合ったら聞きに行っていいかしら?」
「はい。もちろんです」
そう言って、本をニケさんに手渡し、受付の方へ戻って行った。
ニケさんは本に目を通し、小さく頷く。
「魔人の正体は強力なアンデットである。
浄化の魔法で弱体化させる事が、可能。
ただし、一定以上の使い手でなければ容易に打ち消されてしまう。
要約するとこうね。
これ、ズバリの対処法ね。まぁ、効くかどうかは実際試してみないとわからないけど」
「なるほど。アンデットとは盲点でした」
「私は、この情報を共有して、遭遇した場合、実際に効果があるかの報告をお願いしようと思う。
という訳で、一旦ギルドに戻るけど、ジン君はどうする?」
「あ、オレはもうちょっとここで調べ物します。効果分かったらメッセージもらえますか?」
「了解! 助かったわ」
「大して役に立ってませんけどね」
苦笑しながら応える。
これで、対魔人の目処が立つと良いが。




