43.海岸
コハでリィリーから改めて状況を聞かされる。
曰く、リィリーたちはコハから海岸線沿いに西進しながらレベル上げを行う予定であったという。
偶然、街を出るときに別のパーティと一緒になり、暫く雑談しながら歩いていた所、フード姿のNPC四人組が別パーティに声をかけた。
リィリーたちは少し離れて様子を伺っていた所、急に戦闘になったため加勢に入ったが、NPC二人が魔人の姿に変貌、残る二人は転移で消えてしまったらしい。
「消え際に『また、外れだ』って、つぶやいていたわ」
「そうか」
「あの人達、やっぱりもう居ないわね」
別パーティの面々はオレが着いた時には誰も居なかった。
やはり、全員死に戻ったようだ。
他に、桜、ミーちゃんとそれから、スパナと言う生産者ギルドのプレイヤー。
犠牲が多すぎと言った楓の言葉の意味。
全員決してレベルは低く無かったというプレイヤーのおよそ八割が、撃破されている。
そして、捨て台詞も気になる。
まさか、オレの持ってる首飾りを狙ってるのか?
考え過ぎだろうか?
ニケさん辺なら何か情報掴んでるかもしれない。
聞いてみるか。
「さて、ジンとプリスはこの後どうするの?」
「ん? 特に予定は無いけど」
「じゃさ、ちょっと休憩して、その後、一緒に探索しない?」
「いいけど、どこか目的あるの?」
「実はね、ここから西へ行った所にお城があるのよ。
アンデットの巣窟でダンジョン化してるらいいんだけど、一度下見をしたいわ。出来れば、内覧も」
「何その言い方。住むの?」
「憧れね」
「え!?」
それは、城の方?
それともアンデットの巣窟の方?
■■■■■
砂浜の海岸を行く。
プリスが、波と戯れている。
長閑だな。
「更紗達が水着の販売を計画してるみたいよ」
へー。
それは、是非とも頑張って欲しい。
「ねぇ、私には、どんな水着が似合うと思う?」
「え?」
不意に振られても、思いつくわけがない。
「えっと……」
ワンピース? ビキニ?
隣を歩くリィリーを見て、なんとなくその姿を頭に浮かべる。
不意にこちらを向いたリィリーと目が合う。
慌てて目を逸らすが、途端に猛烈に恥ずかしさが襲ってくる。
「……ごめん。変なこと聞いて」
小さな声でリィリーが言った。
ちら、と見ると耳を赤くして俯いていた。
「リィリーなら、何でも似合うと思うよ。うん」
棒読みの様な台詞を口から出すのが精一杯だった。
「プリスー! 待ってー!!」
微妙な空気に耐えかねたリィリーが、前方で一人はしゃぐプリスの元へと駈け出した。
……これは、あれか?
私を捕まえてご覧なさい的な……いや、何でもない。
暫く二人の後を距離を置いて歩く。
と、リィリーが立ち止まる。
「どうした?」
「あれ」
と言って少し離れた小島を指差す。
「いつもはね、海に浮かぶ小島なの。でも、今日は陸続きになってるみたい」
見ると、砂浜が一筋、小島へと繋がっている。
「干潮の時だけ渡れる島?」
「かも。行ってみたい!」
行って、潮が満ちたら戻れなくなるんじゃないか?
あ、その時は転移で帰れば良いのか。
「よし、行こう」
「わーい! プリス、あの島まで競争!」
と言ってまた二人は走り出した。
遠目からはわからなかったが、海岸沿いに人家があり、整備された道も存在する。
島の中心は小高い山になっていて、山頂に建造物があるようだ。
ひとまず、道沿いに島の周囲を歩いてみる。
砂の道からちょうど反対側、小さな滝が海へ流れ落ちていた。
「道はここまでね。引き返しましょう」と、リィリー。
いや、行き止まりとは限らない。
と言うか、道の先が滝なんて、露骨に怪しくないですか?
「いや、ちょっと待って」
さて、どうする?
「岩盾」
滝口へモノリスを出現させ、水を堰き止め、滝の落ちる位置を変えてみる。
「やっぱり!」
今まで滝の落ちていた位置に、人一人が通れそうな洞窟が口を開けていた。
「真っ暗ね……」
その洞窟を覗きながらリィリーが呟く。
「オレは、行くけどどうする? プリスとここで待ってる?」
「行くわよ!」
「じゃ、気をつけていこう」
洞窟に入って、少し進むとモノリスの魔法が解除され、再び入り口が水の扉で締め切られた。
途端に辺りが暗くなる。
「何も見えない!」
リィリーが声を上げる。
「ちょっと待って。プリス、冥術の暗視を全員に掛けてくれ」
返事の代わりに、少し視界が明るくなった。
使うのはこれが初めてだが、ピンポイントで役立つな。冥術。地味だけど。
「なに、これ」
「冥術。夜の神様の恩恵」
そして、オレは右手に氷剣を出現させる。
刀身が周囲を仄かに照らす。
「さっきは分からなかったけど、その剣、光るの?」
「オサレだろ?」
実のところ、暗視があれば剣の光は要らないんだけどな。ここはロマンだ。
剣を松明代わりに掲げ、更に奥へ。
プリスが勝手に先頭をズンズン進んでいく。
オレたちは足元の悪さに慎重にならざるを得ない。
後ろから付いてくるリィリーが、不意にオレの袖を掴んだ。
思わず振り返る。
「もうちょっと、ゆっくり歩いて」
「う、うん」
そのまま、袖を掴まれたまま奥へと足をすすめる。
そして、少し開けた所に出る。
そこに在ったのは、水溜り。地底湖か。
「うわー」
光が仄かに浮かび上がらせた光景はとても幻想的だった。
「ここまでか」
流石に、地底湖を泳いて進むのは無理だろう。
水泳とか、潜水とか、そう言うスキルが必要だ。
この先へ進むなら別の機会だな。
「キレイね」
横でリィリーが呟きながら、湖畔にしゃがんで、水に手を入れる。
「あったかい……ジン、これ、温泉よ」
「マジか!」
オレも手を入れ確認する。
「ホントだ」
こんな所に温泉とは。
え。
温泉?
おんせん?
二人で、温泉?
いやいやいやいやいやいや、まてまてまてまて。
いや、しかし、いや、まて、いや、待つな。
一瞬で頭のなかを色々な想像が駆け巡る。
と、ピンクの着包みを思い出し、良からぬ想像に歯止めを掛ける。
「罠だ……」
「何言ってんの?」と言ってリィリーは腰を降ろして、ブーツを脱ぐ。
「え、何してんの?」
何してんの? 入るの? ねぇ、入るの?
「へへー足湯ー」
と言って、素足をお湯に付ける。
「ああ、なるほど」
オレも真似することにする。
ブーツを脱いで、パンツを膝まで捲り上げる。
「ふー。あったかい」
二人の間にプリスが座り、真似をする。
暫くそうやって呆けていた。
「こんな所に温泉とか、カップルが発見したら運営の良い的ね」
ですよねー。
いや、カップルでなくても危ういと思います。
「そう言えばね、ジンに言ってなかったことがあるの」
え、何?
この雰囲気で言うことって何?
「この前、墓地に行ったじゃない?」
うん。
オレが、大泣きした日だね。
「あの時ね、ちょっとだけ、体の接触が在ったじゃない?」
うん。
泣いてる時にそっと肩を抱かれていた気がする。
「遠目にね、ピンクのウサギがこちらの様子を伺ってたのよ」
「マジかー!!」
洞窟内にオレの声が木霊する。
あれ、反省会事案だったのか!?
「マジ。です」
このゲーム、ルールとして『過度の身体接触を禁ず』という項目がある。
過度、と判断された場合、運営アバターによるペナルティが課せられる。
オレと二式葉が一度食らったアレだ。
ペナルティ内容はケース・バイ・ケースみたいだが。
あの後、調べたさ。
結構、食らったプレイヤー多いみたいだ。
まぁ、なんだ、ドンマイ。
「でね、ずっっっと聞きたかったんだけど、二式葉と何があったのかしら?」
ジト目でオレを睨むリィリー。
あれ、おかしいな。
足湯に入ってるのに、背中に冷や汗が。
その後、オレは必死に、酔っ払いに絡まれたことを懇切丁寧に説明した。
「ふーん。まぁ、隙を見せる方もどうかと思うけどね!」
と言うなりオレの二の腕を思いっきり殴る。
「っ……反省してます」
いや、何でオレはこんなに必死に弁解してるんだ?




