39.ジンとプリスとリィリー
三人でベンチに座り、改めて状況を整理する。
オレと、リィリーの間にプリスが座っている。
「まぁ、通訳料は情報と交換でいいわ」とのリィリーの提案でこうなったのだが。
まずはオレのステータスの確認。
スキルに【死霊契約】が増えている。
そして、SPの値が-100。
【死霊契約】のスキル説明を読み上げる。
「死霊契約。
輪廻に戻れぬ魂と契約し、使役する術。夜と死の神レイエが与えし力。禁呪とされている。
だそうだ」
リィリーは黙って聞いいている。
続いて、今まで無かった契約霊と言う項目を確認。
【プリシア・リブ・ビアーシェ】ゴースト #LV.1
HP:136
MP:104
STR:11
VIT:19
AGI:21
DEX:35
INT:27
MIN:25
【弩技】LV1 【神聖魔法】LV4 【祈り】LV5 【冥術】LV1 【浮遊】 【霊体(物理攻撃無効)】
「プリシア・リブ・ビアーシェ、ゴースト。
プリスは、こんなに立派な名前だったのか。これからはプリシアって呼んだ方がいいか?」
「プリスで良いって」
「そうか。ゴースト、なんだな。やっぱり。でも、神聖魔法は使えるのか。
冥術っていうのは何だろう?」
「レイエ様の力を借りる方法だそうよ」
「ほう。夜と死の神様だったよな。確か」
しかし、回復魔法使える、ゴーストって。
生前の能力値は、そのままなのか?
物理攻撃無効とか、ひょっとしたらとんでもない味方かもしれない。
「後は、持ち物か。弓と髪飾りはプリスのものだ。
でも、首飾りは預かろう。
あの時、ちゃんと拾ってくれたんだな。ありがとう」
プリスが差し出した首飾りを受け取る。
持たせたままだと、これを狙った何者かがプリスに危害を加えるかもしれない。
ひとまず、オレが持っていて、然るべき所に返すべきだろう。
アイテム:【聖玉の首飾り】 #ランク Legend
神が人々に与えし力の一つ。
聖玉は夜と死の神の涙とも言われる。
……改めて鑑定してみたが、すんごいレアアイテム何じゃね? これ。
ま、後で考えることにしよう。
「それで、プリスは何時まで一緒にいられるんだ?」
プリスは首を傾げながら、暫し考える。
そして、小さく口を開く。
「飽きるまで、だそうよ」
リィリーが苦笑しながら代弁する。
オレも、釣られて、苦笑した。
そうか、飽きるまでか。
じゃ、目一杯楽しんでもらおう。
「確か、ルノーチでやりたいことがあったんだよな?
プリスのお父さんとお母さんのお墓はここにあるのか」
プリスが静かに首を振る。
「違うのか」
「大聖堂にあるそうよ。ジン、場所わかる?」
「いや、行ったこと無い」
「私はわかるから案内するわ。更紗の店も通るから、プリスの服も受け取りましょう!」
プリスが再度リィリーに抱きつく。
好かれてるなー。
「そう言えば、どうしてリィリーだけ、話がわかるんだ?
普通に触れれるみたいだし」
「多分、私が【霊能力】スキルを持ってるからね」
「【霊能力】? そんなスキルがあるのか。なんだって、リィリーはそんなスキル取ったんだ」
「笑わない?」
え。
「多分」
「多分じゃダメ」
「じゃ、絶対笑わない」
「笑ったら、さっき大泣きしてたこと言いふらすからね」
ヤベー。
これは、今後ずっと使われそうな弱みを握られたんじゃないか?
成り行きとは言え、随分と恥ずかしい姿を晒してしまった。
「それだけは、勘弁して下さい」
「【死霊術】が欲しくて、試しに取ったのよ。スキルの派生か、称号でも取れないかなと思って」
「え、何で【死霊術】なんて欲しかったんだ?」
リィリーが目を逸らす。
「ちょっ、そこまで言ったのなら教えろよ」
「……ノーライフキング、吸血鬼を従えたかった」
……ヴァンパイアを従える、黒ゴスの死神とか濃すぎですわ。
「そうでしたか。
多分、そのキーとなるアイテム、オレが持ってるけど、いる?
もれなく、トラブルも付いてくると思うけど」
リィリーは静かに首を振る。
「いいわ。
アナタ達を見てると、ちょっと私が思っていたような関係では無さそう。だから、ノーライフキングは止めにする」
イケメンの下僕が欲しかったんですね。きっと。
「そうですか。
それじゃ、通訳さん、申し訳ないけどそろそろ更紗の店と、大聖堂まで案内お願いできますか」
「はいはい。じゃ、プリス、行こうか」
と言って、リィリーはプリスの手を引いて歩き出した。
あの、一応、オレの契約霊らしいんですけど。
■■■■■
「で、その子がこの服を着るのね」
「そう、名前はプリス。
プリスこのお姉さんが、更紗。
たくさんの素敵な服を作ってくれる人よ」
プリスがちょこんと頭を下げる。
「お、その髪飾りもプリスが付けてるのか。ジンからもらったんだろう。アタシが作ったんだ」
プリスは嬉しそうに髪飾りを触れる。
「とっても気に入ってるそうよ!」
「そうか! アタシもプリスみたいな可愛い子に付けてもらえて嬉しいよ!」
と、笑顔で答えた後、困った顔をした。
「しかし、そうかー。ゴーストとは想定外だったな。
プリスはお空も飛べるのかな?」
プリスが大きく頷いて、空を指差す。
「屋根より高く飛べるって」
「じゃ、この服は、このまま渡すわけには行かなそうだな」
「どうして?」とオレが尋ねる。
プリスも首を傾げている。
「あのね、ジン。
スカートを履いたまま、空を飛んだとしよう。
どうなると思う?
ご主人様としてはそれが狙いなのかもしれないが、同じ女性の立場として、それは断じて許せない」
あ、そうか。
子供とはいえ、中が丸見えか、
そんな事、オレは望んでない。
「あのな、更紗。オレを何だと思ってるんだ?」
「グレー。限りなく黒に近いけど」
「そこは、白と言ってくれよ」
「ハハハ。じゃ信じるよ。何とかするから、少しだけ時間くれないか。
後でギルドの方に来て欲しい」
「わかった」
「じゃ、私たちは大聖堂に行きましょう。更紗また後でね」
■■■■■
大聖堂は、文字通り巨大な建造物だった。
ルノーチの中心には、この地を治める将軍がいるという城が有るのだが、それに次ぐ大きさの建造物らしい。
プリスの両親はこの中に安置されているらしいのだが、プリスはなぜか中に入ろうとせず、外で静かに黙祷を捧げている。
オレとリィリーは少し、離れてその様子を見守る。
「ジン、知ってる? 『リブ・ビアーシェ』って、ここの将軍一族の名前なのよ」
「へー。じゃ、プリスは元々由緒ある貴族の娘って訳?」
「おそらく、ね。ちなみに将軍って言っても、実質的にこの国の権力を握って支配しているらしいから、ただの貴族じゃないわね。ひょっとしたら、プリスはお姫様だったんじゃないかしら」
だとしたら、なんでセンヨーの教会なんかにいたんだ。
シスターに聞きに行くか?
いや、止そう。
そんなこと、死者の身分となったプリスには最早関係無いことに思えた。
「ちなみに、今の将軍は十三代目。噂では病弱で先が長くないとか」
「それって……」
「うん、私もそこまで詳しい訳じゃないけど、江戸時代末期から幕末を意識した設定なのかもね、この世界」
「ふーん。じゃ、裏で色々動いてる連中がいるのは、倒幕側ってことなのかな」
「なんか、そんな話もちらほら出てるみたいね」
火の粉がかかるなら振り払うだけだ。全力で。
「プリスは良い子ね」と、リィリーが話を変える。
「ああ。オレがもうちょっと、ちゃんとしてればまだ生きてたはずだ……」
「生き返らせてあげれないかしら」
「は?」
「ちょっと考えてたの。この世界、結構何でもありじゃない?
ひょっとしたら、そんな事も出来るんじゃないかしら」
「そうか……。そこまで思い至らなかったな。
うん。ありそうな気がしてきた。探してみよう」
「ジン。焦りは禁物よ。私も何か手がかりがあったらすぐ教えるわ。だから、ゆっくり探しましょう」
「うん。わかってるよ。ありがとう」
「本当にわかってる?」
わかってる。
そんな方法、無いかもしれない事も。
でも、ほんの少しだけ希望がある。
今は、それだけでいい。




