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38.謝罪

 ログインした。

 いつもの宿屋。



 誰もいない。


 メッセージが五件届いていた。


 一つ目、楓からだ。

『ミーちゃんがクラスチェンジしました!

 なんと、妖狐になりました!』

 と、画像付きで送られてきていた。


 画像には狐を抱く楓が写っていた。

 狐の尻尾が二つに分かれているように見える。


 今度、触らせて貰いに行こう。

 もちろん、ミーちゃんの方をだが。


 二つ目、ニケさんからだ。珍しい。

『一応ご報告。モーリャーはギルドから除名となりました。

 何やら、色々と黒い仕事を行っていたみたい。

 あなたに危害があるかもしれない。

 用心して欲しい。

 PS.謎スキルの取得条件、何かと交換で教えてもらえないかしら★てへぺろ』


 あの、三下、まだ何かしてんのか。

 スキルの件はどうすっかね。


 三つ目、運営から『第二回、闘技大会(団体戦)のお知らせ』。

 流し読みする。 エントリー期限は九日後か。

 ルールは最大六人パーティ。召喚は一体につき一名分の枠を使う。

 その他は前回と同じ条件の様だ。


 四つ目『闘技大会について連絡乞う』と、二式葉から。


 五つ目、更紗からだ。

『相談もらった、子供服、引取いつでいいよ!』。

 うーん、もう不要になってしまった。

 謝りに行かないとな。


 これを最優先で済ませよう。


 謝罪を先延ばしにするとろくな事がない。


 その後は、どうしよう。

 てへぺろさんの所に顔を出すか。

 それとも、二式葉に会いに行くか。


 後で考えよう。

 まずは、更紗だな。


 中央通で店を出してるか、Creator's homeにいるかかな。


 まずは中央通へ向かってみよう。



「あ、いた」


 中央通の一画。更紗が露店を開いていた。

 傍らにリィリーがいて、四方山話に花を咲かせていいる様に見える。


「久しぶり」

「お、いらっしゃい」

「あ、ジン、久しぶり。……大丈夫?」

「何が?」

「いえ、ちょっと、お疲れ?

 それと……プリス? よね?

 どうしたの?」

「は?

 プリス?

 何言ってるんだ? リィリー。

 プリスはもういないよ」

「え? 貴方こそ何を……」


 リィリーと更紗が顔を見合わせている。


「ジン、ちょっとこっち来て。ちゃんと話を聞かせて。

 更紗、ごめん。また後で」


 と言って、リィリーはオレの手を掴んで歩き出した。


「うん。報告よろしくー」


「ちょっと、どこ行くんだよ」

「黙って付いて来なさい!」


 珍しく、強い口調で言われたオレは、大人しく従うことにした。




 どれくらい歩いただろう。


「ここで良いわ。座って」

「ここは?」


 指定されたベンチに腰を掛けながら、尋ねる。

 ルノーチの街からは出ていないが、周りに人影は見えない。

 少し離れて、小さな石造りのオブジェが整然と並んでいるのが見える。


「墓地よ」


 なんで、こんな所に連れてきたんだ?


「不思議よね。

 ここには、この世界で生きて、死んだ人達の痕跡がある。ここに眠る人達には、どんなドラマがあったんだろう。

 ゲームが、始まって一ヶ月。

 でも、ここには、それより前の世界を生きた人達がこの世界の歴史の証として眠っている。

 そう考えると、なんとも言えない気持ちになる。

 世界って、何なのかしらね。

 私達にとっては、データの上に作られたものでしか無いはずなのに。


 そんな、とりとめもない事に思いを馳せる、私のお気に入りの場所の一つ。

 好き好んでこんな所に来るプレイヤーはいないわ。

 さぁ、ジンの話を聞かせて下さい。

 ジンとプリスに何があったのか」


 リィリーは、オレの目を見て話を促す。


 何があったのか?


「何も無いよ」

「……ジン……」

「何も無い。

 ただ、NPCが消滅しただけ」


「プリスね?」


「……そう。プリスだ。そういう名の……プログラム……」


「そう……。プリスが死んだの……。それは、辛いことね……」

「死んだ? 辛い? 何で?

 プリスはNPCだ。プログラムだ。元から生きてなんていない」


「そうね」

「そうだよ!

 NPCは生きているわけじゃない。ゲーム上の存在でしか無い……」

「ジン、落ち着いて。プリスは生きていたわ。アナタと一緒にいた、とても元気な女の子。私は少ししか知らないけれど、元気なとても良い子。

 NPCであること、それは関係ない、とても大切な愛おしい存在。

 その死に、リアルかバーチャルかなんて違いは存在しない……」


 何言ってるんだ。バーチャルはどこまで行ってもバーチャルじゃないか。


「だからこそ、アナタ自身がそう思っているからこそ、苦しいんじゃないかしら」


 リィリーから目を逸らし、俯く。


 ……。



「オレは……。

 もう一度…………プリスに会いたい…………。

 助けられなかった……。

 ちゃんと、守ってあげれなかった……。

 死ぬことが、どういうことか分かっていなかったんだ……。

 オレが、殺したんだ……。

 苦しいのは、オレじゃない……」


 俯いたオレの顔から涙がこぼれていた。

 悲しみ。

 忘れていた、忘れようとしていた感情の発露だった。


 そっと、リィリーが肩に手を回すのがわかった。




 どれくらい、そうしていただろうか。


「ごめん。……落ち着いた」

「そう」


 リィリーが元の姿勢に戻る。


 これから、どうしよう。

 ちゃんと、プリスに謝らないと。

 プリスはどこに眠っているだろう。



「もう、大丈夫だと思うわ」


 何が?


「だから、おいで。

 プリス」



 リィリーがよくわからないことを言う。


 ゆっくりを顔を上げた、オレの前に、とても悲しそうな顔をした少女がいた。


「プリス……?」


 少女が、小さくうなずく。

 よく見ると、少女の体を透けて向こう墓地が見える。

 少女はオレの知っているプリスより顔の位置が高い。足先が地面についていない。

 浮かんでいた。


 それは、昨日までオレの前にいた亡霊だった。

 亡霊はプリスの姿をしていた。



「えっと、『輪廻にはまだ戻らない。契約でこの世界に留まることになった』ですって」


 リィリーが言う。

 契約?

 どうしてリィリーはわかるのだ?


「……オレのせいなのか?」


 亡霊に問う。

 亡霊は口を動かすが、声は聞こえない。


 また、リィリーが代弁する。


「『違う。私の願い。使命。それと、ジンともっと居たかった』

 ……私って、私じゃなくて、プリスのことよ」


 目の前にいるのは、プリスなのか。

 でも、こんな悲しそうなプリスは見たことは無かった。



「悲しい顔をしている……」


「『最初にジンが、逃げたから。消えてって言われたから』ですって」

 リィリーがオレに非難の目を向ける。


 確かに、言った気がする。


「……ごめん」


「『気にしてない。

 私が死んだのもジンのせいじゃない。

 こうしてジンの前にいるのもジンのせいじゃない。

 でも、もう少しだけ、一緒にいる』ですって」


 一緒に……それは、オレもだ。


 亡霊に向かって小さく頷き返す。

 亡霊は、いや、プリスは嬉しそうに笑った。

 それは、今までと変わらないオレの知っているプリスの顔だった。


「プリス!!」


 抱きしめようと跳びかかる。だが、オレの両手はプリスの体をすり抜け空を切る。


「ジン、それはアウトよ」

 後ろからリィリーが冷たく言う。


 そのプリスは、リィリーに近づき、目の前に立った。


「うん。いいの。どういたしまして。

 辛かったでしょう。偉かったわね!」


 そう言って、ベンチから立ち上がりプリスを抱きしめ、頭を撫でた。


「なんで、リィリーだけ?」

「普段の行いの差だと思うわ」


 理不尽だ!

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