34.リィリーとプリス
翌日も、プリスのレベル上げ。
センヨーから、少し離れたが、やることは変わらない。
強敵はいないし、ステータスを強化しておけば、回復はプリスが自分で行える。
それを横目に見ながら、氷魔法がスキルレベル13に達したことで追加された攻撃魔法の確認をする。
その効果は、指定した一帯に地面から氷の棘を生やすと言うもの。
攻撃魔法は、本来レベル1で単体攻撃、レベル13で複数に対しての範囲攻撃となるよう設計されていたのだろう。
ただ、【術式分解】を持っているオレからすると、レベル1の単体攻撃魔法すら、範囲魔法と化す事ができる。
そう考えると、【術式分解】の壊れっぷりがよく分かる。
さて、この氷の範囲魔法、どう調整しようかな。
色々と実験をしながら、プリスをシルバーウルフとどう戦わせるかも考える。
武器の買い替えは必要だろうか?
防具は?
持ち出しが多くて嫌になる。
が、仮にもランクCのクエストだ。ルノーチに連れて行って、ハイおしまい。と言うことは無いだろう。
無いよね?
何らかのイベントがあると、勝手に予想してるんだけど。
「ちょっと休憩ー」
「今日は終わりにするか?」
「もうちょっとだけ頑張る!」
おお、エライぞ。髪飾り効果か?
[今どこー?]
リィリーからメッセージだ。
[センヨーの西]
[今から行っても平気??]
[大丈夫。この辺]
地図を送る。
[40秒で行く!]
流石に、40秒以上は掛かったが。
「ジン! お待たせ!」
「やあ。……その格好は、何ですか?」
飛んできたリィリーは、今まで同様ゴシック調の服を着ていた。
が、色は真逆。
真っ黒。
俗に言う黒ゴス。
「んふふふふふ。これを見て!」
と言って取り出したのは、これまた真っ黒の武器。
その形状は、大鎌。
デスサイズである。
「これはね! この前ジンと集めた素材で作ったの!
これに合わせて衣装も一新したの!」
最上級のドヤ顔で、そのバカでかい鎌を掲げるリィリー。
「すごい!
キレイ!!
カッコいい!!!」
プリスが、突然声を上げる。
リィリーは、ゆっくりと、プリスを見て、またゆっくりと、オレを睨む。
そして、大鎌を静かにオレの首に当てる。
「……何? この子」
ホント、おっかないんでやめてもらえませんか?
「お姉ちゃんは、ジンの恋人さん?」
プリスの一言に、リィリーはビクッと大きく飛び上がる。
その反動で、オレの首は大鎌の餌食となる。
いやいや、本来だったら確実に首から先が無くなってるからね?
PKは今のところシステムに組み込まれていないので、大鎌はオレの首から薄皮一枚挟んだ状態で止まったはず。見えないけど。
「……ち、違うわよ!」
「違うの?」
「違うの!」
そろそろ、鎌下ろしてくれませんかね。
「そう、それは、大変そうね」
リィリーに、プリスの事とクエストを説明した。
「でも、リアルでやったらNGよね」
「まぁ、確実に事案だろうな」
「プリス、このお兄ちゃんは変なことしてない?」
聞くな!
そして、プリスも考えこむな!
「えっとね、ジンは弓とね髪飾りをくれたよ!」
と言って、頭の髪飾りをリィリーに見せる。
「あら、キレイね。よく似合ってるわ!
で、ジン、アナタの本当の目的は何?」
「待て、勘違いするな!」
「まぁ、何か合ったら運営が飛んで来るでしょうし、最悪アカウント削除されるから大丈夫だと思うけど。
大丈夫よ、ね?」
「聞き返すなよ! 何か起きるわけ無いだろ!?」
「ねぇねぇ。リィリーの服も、ルノーチで買ったの?」
「ええ。そうよ」
ナイス! プリス! 話が変わった!!
「いいなー。ジンと同じお店?」
「うん。同じ人が作ってるわ」
「私もルノーチに行ったら、そのお店に連れてってもらうんだ!」
「そう! きっとお店の人も喜ぶわ! プリスはどんな服が欲しいの?」
「お姫様みたいな服!」
「好きな色は何色?」
「白!」
「今度お店の人に白の服を置いておくように言っておくわ!」
「ありがとー! リィリー大好き!」
プリスがリィリーに抱きつく。リィリーはオレに顔を向けて軽くウインクをした。
ごめん。意味がわからない。
「さて、プリス。今日はもうちょっとだけ頑張ろうか」
プリスに強化魔法を施し送り出す。
「うん! 行ってきます! またねー、リィリー!!」
素直でよろしい。
リィリーは手を振り答える。
「で、実際の所どうなの? ルノーチに来れそうなの?」
「まぁ、時間かければどうにかなりそうかな」
「そう。それじゃ、更紗に服をお願いしておこうかしら」
「お、マジで?」
「うん。サイズは大体わかったから、伝えておくわ」
「おお、流石!」
「『ジンが子供服探してる。人の道を外してるかもしれない』て、心配してた。そう言えば」
「外してない!」
「外してない?」
「外してない! しつこい」
「冗談よ。ルノーチに来る日は教えてね。向こうでお出迎えよ!」
「そこまで大袈裟にしなくても」
「いいえ。プリスが頑張ったのなら、それは盛大に褒めるべきよ!」
その日、プリスのレベルは7になった。
あれー、オレがレベル7になるまでに、一週間位かかってなかったっけ?
■■■■■
翌日。
今日は【東の森の調査】のクエストがある日だ。
その前に少しだけ、と、プリスのレベル上げをしている。
どうやら、武技を使い出しているように見える。
弓のスキルを取得したか。
それとも弩になるのかな?
パーティメンバーと言えど、詳細なスキルは見えないので確認のしようがない。
いつもの様に遠目から眺めていると、プリスに近づくプレイヤーの姿がある。
プリスが、他プレイヤーの獲物を横取りしたか、それとも、事案か?
などと考えながら走って近づく。
「すいませーん。オレの仲間なんです。何か失礼なことでもしましたか?」
「あー、スイマセン。いや、僕も弓使いなので、気になって話しかけちゃいました」
「そう言うことですか」
「お嬢ちゃん、なかなかのセンスだと思うよ。使ってる弓をちょっと見せてくれない?」
プラムがこちらに確認の視線を投げかける。
「どうぞ」
何か、おかしな動きをしたら、圧風で吹き飛ばそう。
「ちょっと借りるね」
と、プリスからクロスボウを受け取り、何やらいじりはじめた。
「うん。やっぱり。リムをちょっといじってやれば……。
よし、これで、飛距離と精度が向上したはず」
プラムの受け取ったクロスボウを鑑定すると、クロスボウ改となっている。
「あ、ありがとうございます」
「いや、勝手にやったことなんで、気にしないで下さい。この辺で、弓を使ってる人が少なくて、嬉しくってつい、声をかけちゃいまいました」
と言って去っていった。何だろ。辻改造てやつか? 語呂が悪いな。
その後、クロスボウ改でプラムは順調に戦闘を重ね、LV9まで上がった。
「さー今日はここまでにしよう」
「えー、まだ行けるよー」
「この後、用事があるんだ」
「リィリーとデート?」
「違う! そういう事を言うのは十年早い!」
「えー」
「冒険者ギルドの依頼で東の森に行く」
「私もー! 行きたいー!」
駄目だ。と言おうとして、考え直す。
クエストは確か、規定の報酬の他に経験値も貰えたはず。
プリスを連れて行けば、クエスト分を稼げるかもしれない。
戦力的にも、問題無いだろう。弓使いとしても回復役としても、それなりの活躍は出来そうだ。
「何が起きるかわからないけど、本当に大丈夫か?」
「うん!」
「わかった。連れて行くけど無理はするなよ」
「大丈夫!!」
プリスは小さくガッツポーズをしてみせた。




