4.成長方針と初めての戦闘
「さて、どうしたもんかね」
石畳の上に腰を下ろし、メニューを開きながら考えこむ。
ここは、先程ニケさんに教えてもらった冒険者ギルド内チュートリアルダンジョン、地下1階。
正確には【鍛錬の迷宮・地下1階 不可侵領域】らしい。
石造りの人工的なダンジョン。
薄暗い、というか、明かりの類は一切ないのに、ほのかに明るいにはゲームだからだろうな。
あの後、防具屋の親父に装備を鑑定してもらった。
【縛鎖】シリーズの呪いは、呪いの中でも最上位の類で、確実の解除するためには呪った相手を殺すしか無いとのこと。
で、呪った相手を調べるにはより高レベルの鑑定能力がある人間、もしくは呪われた本人でないと無理だと言われ、鑑定料と「黒のローブ」の代金を支払い、その足で冒険者ギルドへ向かった。
ちなみに「黒のローブ」は、フード付きで足先まですっぽりと入るサイズ。
フードを目深にかぶった姿は、完全に物語中盤でお役御免の黒幕の使いっ走りである。
で、何を考え込んでいるかと言うと、【鑑定】スキルを習得して、【縛鎖】シリーズを鑑定したてみた結果がこれだ。
アイテム:【縛鎖<身体拘束>】 #ランク0
世界を律する存在の1つ、アレィが与えし警告。そして罰。
神ならざるものには解除できない。
呪いのため一度身に着けると外せない。
物理防御値:0
魔法防御値:0
物理防御耐性低下(小)
装備タイプ:アウター
他も同様。
つまり、防具屋の親父を信じるならオレは、アレィというAIを殺さないとこの装備が外せないということになる。
いやいや、冗談きついすわー。
だって相手はシステムですよ?
普通に考えて殺せるわけないじゃないですかー。
そんなに怒ってたのかよ。
今なら土下座で謝るよ。
石畳の上に土下座してみたが、当然反応無し。
見た目だけでも十分に痛い上、この【縛鎖<身体拘束>】を外さないと、体に防具、つまり鎧などが装備できない。
必然、オレは防御力0の紙防御となる。
しかも、その効果がどれだけか知らないが物理防御耐性低下×3。
ゲーム内に知り合いはいない。
こんな紙防御で、パーティー組んでくれるような人、どれだけいるだろうか?
基本、ソロ専かなーなんて、思っていたが、この状況はソロ強制に近そうだ。
で、そこで頑張るほどこのゲームに思い入れは、無いのだよ。残念ながら。
〈ポーン〉
〈フレンド申請があります〉
[送信者:ニケ
メッセージ:やっほー。さっきは途中でごめんねー。
フレンド登録しますか?
YES/NO ]
嘘です!
思い入れあったー!
ノータイムでYES。
[ジンです。
さっきは色々とありがとうございました。
とても助かりました。
呪いは結構厄介っぽいです。]
と返信。
よし。
もうちょっとだけ頑張ってみよう!
べ、別にニケさんのために頑張るわけじゃないんだからね!
うん、何言ってるんだろうね。オレは。
まずは当面の方針決めだ。
強化の方向性と、それに伴うスキル取得、その辺りを慎重に吟味する必要がある。
スキルの習得にはSPを用いる。
SPの初期値で50。
【長剣】【火魔法】といった、基本的なスキルの習得はコスト10。
中には、コスト20、コスト30といったスキルも存在するが、それらは高位でより強力ということだろう。
【鑑定】取得に10使用済みなので残りは40。
ただし、スキルがなくても、武器は装備して使用可能なようだ。
スキル:【長剣】#必要SP 10
長剣の扱いを理解する。
武器種『長剣』装備時の与ダメージ、1.1倍
長剣技習得可能
つまり、戦うだけならスキルの習得は不要。
スキルがあれば、長剣での攻撃時にダメージにボーナスが付き、且つ長剣技を習得することになる。
SPの取得方法が不明なので、ひとまずは、無駄遣いを避けたい。
アイテムボックスには、見習いシリーズと言うヤツが既に入っていた。
武器が、短剣、長剣、細剣、片手斧、メイス、杖、槍、弓の八種。
魔法書が、火、雷、風、水、氷、地の六種。
防具が軽鎧、魔法衣の二種。
【見習い軽鎧】の物理防御:6が恨めしい。
オレは【見習いの長剣】を手にして【鍛錬の迷宮】の中へ繰り出す。
ノースキル、紙防御がなんぼのもんじゃい!さぁ、冒険の始まりだ。
10mほど進んだだろうか。
突然、50cmほどのネズミが飛びかかってくる。
「うぉ」
よけきれず体当たりを食らう。
瞬間、視界が暗転。
死に戻り。
視界が暗転し【鍛錬の迷宮】の入り口の扉の前にいた。
ニケさんの情報どおり、HP全開でステータスにもペナルティはない模様。やったね!
いやいやいやいやいや、キツイって。
一撃死?
どんだけ紙防御なの?
物理防御耐性低下×3だから?
どうすんの、これ?
再挑戦。
飛びかかってくるネズミを。かろうじて避ける。
剣を構えて、ネズミを斬りつける。
上段から、一撃。掬い上げる様に二撃目がヒット。
ネズミが後退し距離をとってから、再度体当たり。
避けきれない。
オレのHPバー全損。暗転。死に戻り。
再々挑戦。
初撃を避けれない。死に戻り。
おかしい!
あいつら、やたらと飛びかかってくる。
出現パターンが必ずオレに体当たりなのだ。
種族特有の行動パターンかい?いや、おそらく原因は別にある。
オレの全身にまかれている鎖、これのせいではないか?
なにせ、うるさいのだ。歩くとチャリチャリ音がする。
先制攻撃を受けている可能性が否めない。
四度目。
オレは、洞窟内でしばらく動かずにいることにする。
歩くと金属音がするからな!
会敵する度に死に戻ってたら何もできん。
待つことしばし。
次に現れたネズミは突然飛びかかってくるのではなく、まずこちらに威嚇をしてきた。
どうやらビンゴのようだ。
死に戻って対策を考える。
何か使えそうなスキルは、と。
メニューとにらみ合いながら考える。
スキル:【隠遁】#必要SP 30
戦闘フォールド上で気配を遮断する。
先制攻撃成功率向上
被先制攻撃回避率向上
これかなー。しかしコスト30は重い。重すぎる。
これで効果無かったら泣けるが、仕方ない。
スキルを取得し五度目のネズミ狩りへ。
すげぇ。【隠遁】すげぇ。
結構近づいてるのに全く気づかないでやんの。
そして、なんと、鎖の音がしない!
やった!
これは、戦い方を変えるべきか?
一旦セーフティーゾーンまで戻る。
次は魔法だ。
相手に気づかれないのであれば、中距離から先制攻撃を加えればいい。
見習いシリーズ【魔道書入門編・火】を取り出す。
文庫サイズの本である。
開いたはじめのページにだけ文字が書かれており、後は白紙。
書かれた文字を読み上げる。
「蛍火」
目の前に炎が現れ、そして消える。
本をアイテムボックスに戻して「蛍火」と言ってみるが何も起きない。
再度、本を取り出す。
ページを開かず手に持ったまま「蛍火」と唱えると炎が出現する。
手の持つことで装備扱いになり、言葉を発すると魔法が発現するようだ。
続いて遠くに目をやり、そちらを意識しながら「蛍火」と唱える。
その場所に炎が出現。
発現は場所を意識することでコントロールできるようだ。
オレは右手に剣、左手に本を持ち、五度目のネズミ狩りへ向かう。
中距離から「蛍火」を浴びせこちらに向かってきたところを長剣で斬りつける、という戦法で過去最高9匹のネズミを葬ることに成功し、最初のレベルアップを果たす。
レベルアップによるHPMP全開の恩恵を受けたオレは、だが次の戦闘で呆気無く死に戻るのであった。
レベルアップ後のステータスの確認。
【ジン】 #LV.2
HP:100
MP:110(↑10)
STR:8(↑3)
VIT:5
AGI:8(↑3)
DEX:8(↑3)
INT:9(↑4)
MIN:7(↑2)
SP:20(↑10)
上昇しているパラメータは、ランダムもしくは行動由来。
DEXが【隠遁】の影響と考えれば後者だろう。
いや、その理屈だとHPとVITが上がらないのはおかしいな。
さて、【隠遁】のおかげでなんとか戦闘の目処が立ったかと思ったが、全くそんなことはなかった。
死に戻った最後の戦い、ネズミが二匹出現していた。
一匹倒す間に、背後から攻撃を受けあっけなくHP全損。
予めわかっているなら避けきれない攻撃ではないが、複数体同時出現されると、どうしても死角ができてしまう。
対処法は無いわけではない。
回避率が向上するらしいスキル【気配察知】だ。
ただし、このスキル、コストが20とやや重いのである。
20あれば【長剣】と【火魔法】のスキルを取得できる。
火力の底上げが出来るのだ。
ただなぁ、いくばくかの火力が向上したところで、この紙防御だと先々ジリ貧なのは間違いなんだよな。
だったら、回避に特化すべきか?
えぇい、ままよ!
【気配察知】取得!
当たらなければどうということはない!
ニュータイプにオレはなる!
【隠遁】、【気配察知】、黒のローブ。
完全にPK職です。ありがとうございました。
この後、ネズミと戯れ死に戻ること数回。
LVが3になったところでオレのC2O初日は幕を閉じるのだった。
【ジン】 #LV.3
HP:100
MP:125(↑15)
STR:10(↑2)
VIT:5
AGI:10(↑2)
DEX:11(↑3)
INT:15(↑6)
MIN:9(↑2)
SP:10(↑10)