29.レアドロップ
出ないなぁ。
一フロアに出てくる敵数が大体40。そのうち、ウプイリ(人面の蝙蝠型モンスターだった)は半分程度だろう。
11階から14階へ上がってわ、下り、また、上がって……200以上は討伐している計算だが、目的の【魔血晶石】は最初の一体目が落としたきりである。
と言うか、いきなりレアドロップで若干拍子抜けしたんだが、そんなに甘くなかった。
そろそろ出発してから二時間か。
まぁ、会話しながらなので、それほど苦ではないのだかこれ、リィリーは一人でやろうとしてたのか。
改めて聞き出したオレの客観的な戦闘スタイルは『変』だそうだ。
参考にならん。
ただ、武器に関しては本職の鍛冶屋に相談したほうが良いだろうと言うことで、後で紹介してもらえる事になった。
昨日、桜が言っていた生産職のギルドのマスターらしい。
「やっぱり、全然落ちない……。そろそろ戻ろうか」
「そうだなー。また付き合うよ。レベル上げにもなるし」
そう、途中でオレのレベルが15になった。リィリーには全然追いつけてないが。
「ありがと。じゃ、あと四フロア分だけ頑張って駄目でも帰ろう」
と言って再び、14階から下っていく。
そして、11階。
討伐数、300超えてるはずなのに依然【魔血晶石】は一つのまま。
ウプイリを倒す度に、リィリーが落胆しているのが見ていて痛々しい。
もう一往復粘るか?
そう、切り出そうとした時、他のパーティーが戦っているのが目に入った。
ウプイリが四、五、六匹いるなぁ。いいなぁ。とか思ってたらリィリーが突然走りだした。
気付かなかったが、大分劣勢の様だ。
「大丈夫ですか?」
先行するリィリーが走りながら声を掛ける。
その直後に一人、光の粒子と化したのが見えた。
元々何人で来ていたかは分からないが、残りは二人。
攻撃を仕掛ける様子が無い。格好からして、二人共、ヒーラーか?
「引き付けます! その隙に離脱出来ますか?」
リィリーの叫びに一人が頷くのが見える。
次の瞬間、ウプイリの半数がリィリーの方を向く。
そして、一瞬遅れて残り半数もリィリーに向き直る。
リィリーの両手斧と、オレの鎌鼬が全てを葬った時には二人の姿は消えていた。
そして、奇跡が起きる。
倒したウプイリから、念願の【魔血晶石】が二つ!
「やったー!」
飛び上がって喜ぶリィリー。
そして、ハイタッチ。
ハグとかしたら、ピンクのうさぎ案件になってしまう。ヤバイヤバイ。
「しかし、あの二人無事に逃げれたかな」
「大丈夫だと思う。【逃走】でタゲを外した後に【転移】してた」
「へー。【逃走】か」
あの、一瞬遅れたやつは、リィリーが引き付けたんじゃないのか。
ん、待てよ?
「【逃走】について、ちょっと詳しく聞きたい」
「え、えっと、戦闘中パーティーメンバーに向けられたターゲットを全て外すスキル。ただ、敵の数や、レベル差が大きいと失敗する可能性があるはず」
ふむ。
つまり、相手の意識から消えるわけだよな。
これ、使えないだろうか。
【隠遁】は、『敵』に気づかれにくくするスキル。
【逃走】は、『敵』の意識から消えるスキル。
組み合わせると、敵に完全に認識されない存在にならないか?
敵の定義は?
自分に害を及ぼすもの……、そこには、『プレイヤー』も含むとしたら?
「ジン? どうしたの?」
考えこんでしまったオレに、リィリーが声を掛ける。
「あ、ごめん。考え事をしていた」
「大丈夫? 目的も達成したし、私達も【転移】で戻らない?」
「ちょっと待って」
試して見よう。
「ちょっとだけ、試してみたいことがあるんだ。先に帰っても良いけど」
「え、何それ。ヒドくない?」
「え、ごめん」
「ここまで付き合ってくれたんだから別に良いのに。何をするの」
「ん、まぁちょっとした実験」
メニューを開く。
そして、さっきのレベルアップで得たSPを使って【逃走】を取得。
さらに、【技能融合】で【隠遁】と【逃走】を合成。
さて、どうなる? モイカさん。お願いします!
スキル:【迷彩】
敵から見を隠す
説明が大雑把! さすが、モイカ。知ってた。
効果は試してみないとわからないな。
「リィリー」と手を振る。
「何?」
スキルをセット。
再度「リィリー」と手を振る。
「だから何?」
うん。認識されてるな。
「ちょっと後ろ向いて」
視界から外れたらどうか?
「こっち向いて」
どうだ?
「だから、何なのよ?」
おお、認識されてるなー。
と言うか、スキル自体効いてないのか?
「ごめん、ごめん。ちょっと、敵に遭遇したいんだけど、12階に戻ろっか」
「ちゃんと、説明してよ」
「まぁまぁ」
12階に到着。
ちょっとリィリーと距離を取りながら敵を探す。
いた。ウプイリが一匹。
近づくが気付かれない。
剣を持って、目の前に立ってみる。
気付いているようだが、襲ってくる気配はない。
そのまま近づく。
ぶつかる前にウプイリが避ける。
敵とは認識していないようだ。
剣を振るって、当てないように攻撃してみる。
避けられた。
こちらを睨み、牙を向いて威嚇された。
が、それ以上襲っては来ない。
再度、今度は当てに行く。
避けるウプイリに剣先が掠る。
どうなる?
ヤベ、襲いかかってきた。
間合いが近すぎた。避けれない!
ウプイリが首筋に噛み付いてくる。
その一撃でオレのHPバーが半分以上無くなる。
と言うか、残った!
一撃耐えれた! ソッチの方が驚きだ!
ウプイリを引き剥がして体勢を立て直そうとした瞬間、全力で振るわれたリィリーの両手斧がオレの眼前を通り、敵を粉砕していた。
「本当に、何やってんの?」
ジト目で睨まれる。
冷や汗で背中がビショビショなのはウプイリのせいか、リィリーのせいか……。
「……さっき作った新スキルの実験」
「は?」
後は、これが対プレイヤーで有効かどうかだが。
「さて、戻ろうか。ルノーチの街中でもうちょっとだけ、付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「それは、構わないけど、後でちゃんと説明してよ?」




