28.リィリー
翌日、ログインしたオレは、ルノーチで人に囲まれていた。
「スキル教えろ」「チート野郎」「どっち受けなの?」等色々な事を言われるが、適当にあしらい隙を見てセンヨーへ転移。
毎度の冒険者ギルドに引籠る。
ふぅ。
次からは、ちゃんと宿屋でログアウトしよう。
闘技大会とスキルの事で悪目立ちし過ぎたか?
あんなに囲まれる何て想定外だ。なんとかならないか?
ちょっと運営にクレーム入れたい。
その前にやる事をやってしまおう。
メニューを開いてメッセージを確認。
二件。
ニケさんから[二式葉と何があったのかしら?]と言うメッセージに昨日の二人で正座しているスクリーンショットが添えられている。
眉間を押さえたまま、暫し固まる。
あの野次馬の中に居たのか。
[ノーコメント]と返信。
もう一件は、リィリーだった。
[今日、一緒に狩りに行きません?]
昨日、そのうちと約束したのだが、早いな。
[大丈夫だけど、ルノーチの街には入れそう無い。どこかで待ち合わせ出来る?]
と、返信。
そして、二式葉にフレンド申請。
[この辺り?]
地図付きでリィリーから返信がある。
指定されたのはルノーチへ北を少し行ったフィールドだ。
[大丈夫。今からなら、10分かからないと思う]
[了解!]
■■■■■
待ち合わせ場所には既にリィリーがいて、笑顔で手を振っていた。
「昨日ぶり。今日の予定は?」
「ちょっとワガママ言って良い?」
「うん?」
「この先に、【朽ち果てた塔】って建物があるんだけど、そこでレアドロップを狙いたいなーと」
「レアドロップ?」
「11階から14階にいる、ウプイリって言うモンスターが【魔血晶石】ていうアイテムをドロップをするの。それが欲しい」
「へー」
「モンスターの強さは程々なんだけど、それよりもドロップ率が……」
「どれくらい?」
「1%あるかないか。それが三つ必要なの」
つまり、単純計算で300体。他のモンスターもいるからそれ以上か。
いいね。地味な素材ツアー。大好きです。
「……やっぱり、つまらないよね。他の所にしよう」
「え? 何で?」
一瞬考えたからか。
「だって、やることは作業だよ?」
「でも、今日行かなくても何時かやるんでしょ?」
「うん。もともと一人で集めるつもりだったし」
「じゃ、行こう。パーティ申請飛ばして」
「ハイ!」
リィリーからのパーティ申請を受理して、LVが21と判明する。
高っか。
「で、戦い方なんだけど」
「私が、前衛でタゲ取りするんで、ジンはサポート、かな?」
「うん。まぁ、そうなるかな。
ぶっちゃけオレの方はHP、VIT初期値の紙装甲なんだよね。
まぁ、普段あまり被弾しないけど。
何で、回復スキルは一切持ってないんだけど」
「回復は大丈夫! アイテムはいっぱいあるから任せて!」
「よし、じゃ行こう」
■■■■■
リィリーの戦い振りは?
両手斧を振り回してモンスターを次々となぎ倒していく。
レベル差もあるけど、俺の出番ほぼ無し。強化役。
だって、モンスターが全部リィリーに向かってくんだもん。何アレ。【挑発】?
その分、被弾も多いけどお構いなしなんだな……。
普段は生産職の面々とパーティーを組むことが多いらしいが、攻撃兼盾が彼女の役割なのだろう。
そんな感じで、目的地一歩手前。【朽ち果てた塔】10階。
なんでも、この塔は60階まであり、10フロア毎に中ボスがいて、現在30階手前まで攻略されているらしい。
オレが迷宮に引きこもっている間に、攻略は着々と進んでいるようだ。
いつの間にかルノーチ西のフォールドボスは討伐されていて、ルノーチ南と北のフォールドボスも近々討伐されるであろう。そして、その先には新たなフィールドが待っている。
が、ルノーチがしばらくは攻略の中心であり、多くのギルドが拠点としてギルドホームを構えるだろう。
全部、道すがらリィリーに教えてもらった。
さて、目の前には、【ゴブリン】【ホブゴブリン】が何体だろう。二十は超えてるなぁ。
そしてその一番後ろに、ボスの【ゴブリンキング】が出現している。
リィリーがその群れの前に立ちはだかり、攻撃を一手に受ける。
オレは、少し離れてサポートお願いと言われているのだが……。
強化魔法を飛ばしながら、その様子をしばし見守り、オレも前線に近づく。
リィリーに攻撃が向かうが、受ける前提なのだろう。避ける素振りが全く見えない。
氷盾を飛ばし、それを跳ね返す。
そして、石槍でリィリーの死角にいた連中を牽制する。
左手に短剣、右手に氷のレイピアを携え、リィリーの横に並ぶ。
「ちょっと、ジン。こっちに来たら危ない!」
「何で?」
ゴブリンに氷針を突き刺しながら答える。ホブゴブリンだったかな。
「何でって、君、後衛でしょ?」
「いや。どっちもイケる。リィリーより強いよ?」
ハッタリだけどな。正直、被弾しながら戦う姿なんて見てられない。
「なんで、タゲをはがして欲しいね」
そう言ってゴブリンの固まりへ突っ込みながら氷針を再度出現させる。
こちらに向かってくるゴブリンの攻撃を、左手の短剣で捌きながら氷針を突き立てる。
やることは今までと変わってない。躱す。刺す。放つ。これだけだ。ミノタウロスより全然遅い。仮に一撃食らっても新装備がある。耐えれるはずだ。試さないけど。
横目でゴブリンキングとリィリーの様子を伺い、牽制と氷盾でリィリーのサポートも忘れない。
取り巻きは大体葬ったか。
さて、ボスはどうしよう。
三本あったHPバーはまだ、二本丸々残っている。
「もらっていいかな?」
ゴブリンを指しながらリィリーに尋ねる。
リィリーが戦うならオレはサポートに回れるが、その逆は無理だろう、なので一応確認。
「どうぞ」
と言いつつ、アイテムでMPを回復してくれた。ありがたい。
「じゃ、遠慮無く。火柱」
クロノスさんに使った奴がそのまま残ってた。
ボスを一撃死させて、リィリーを見ると、すごく呆れたような顔をしてるのは何でですかね?
「ボスって何なのかしら」
「経験値?」
茶化しては見たが、戦い方が危ういのはわかっているので、ちょっとこれからの戦闘スタイルを真面目に考えないとな。
まず、武器かな。そう言えばアイテムカタログの確認もしてない。オレの長所を活かす様な武器。なんだろうね。
そもそも、オレの長所ってなんだ? 客観的な意見が欲しい。
「今の戦い、どう思った?」
「え? えっと……」
リィリーが俯きながら小さな声で答える。
癖だろうか、左手の指に髪の毛をクルクルと指に巻きつけている。
「いつもは、私が盾になって戦うことが多いんだけど……、今日はそうじゃなくて、その、守ってもらってるって感じがして……」
ちょ、そういう意味で言ったのでは無いのだけれど。
「そ、そっか……。ま、まぁ、女の子が殴られているのは、見てて気持ちが良いもんじゃないし……」
何だ、その返しは。
自分で自分に突っ込む。
リィリーが耳まで真っ赤だ
どうしてこうなった?
「さあ、次からが本番。気を取り直して行こう」
「うん!」




