27.個室で二人
二式葉の本命は賞品で間違い無さそうだが……。
「賞品なんて、まだ発表されて無いだろ」
「そうなんだが……。
昨日の賞品は何だった?」
「ん、オレ? 賞金とアイテムカタログ★4だった」
「★4か。私は★5だった!
それで手に入れたのがコレ!」
と言ってテーブルの上に、刀をドン、と置いた。
「【鑑定】してもいいか?」
コレと言われてもわからん。
アイテム:【大和守安定】 #ランク5
新刀上々作にして良業物。
新撰組隊士、沖田総司が使ったとされる一振り。
一品物。
物理攻撃値:48
重量:35
ふーん。
「どうだ。すごいだろう! 沖田総司の刀だ!
そもそもだ、刀自体がまだ流通して無い!
そんな貴重な物なのに、コレは良業物で、しかも一品物だ!」
急にテンション上がった。
「で?」
「そして、もう一振り欲しい刀がある。【加州清光】だ」
知らん。
「次の賞品がアイテムカタログなら優勝すれば手に入る!
ただし、問題なのは一品物と言うところなんだ! 他の誰かが優勝してみろ! 私の【加州清光】が盗られてしまう!」
なるほど。
「二人にこだわったのは、六人分を山分けできるかもしれ無いからか」
二式葉が、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。
まぁ、そんな鳩見た事ないけど。
「そうなの?」
山分け目的じゃなかったか。
「いや、知らん。そう言うつもりなのかと思った」
「それは、さっき言ったように弱い奴と組みたく無いからなんだが、そうか、二人なら、三振りの刀を手にできるんだな」
「慌てる何とかは貰いが少ないってな。
二人で出て優勝出来ませんでした。じゃ意味無いだろ」
「うーん。
誰か心当たりはある?」
心当たりと言っても、オレのフレンドも数えるほどしかいない。
桜なら、本人はヒーラーでプラムは盾役も可能か。楓も加えれば、前衛とサポートが厚く出来る。役割的には申し分ない。
あ、オレ達二人が【召喚術】使うと言う手もあるな。盲点だった。
「知り合いに召喚士がいるが」
「駄目」
早い。流石にイラッとして、睨み付ける。
「いや、理由がある。
私は、召喚士と組めない。そう言う、称号持ちだ」
何それ?
「【狂召喚士】と、言う称号だ」
「何それ。詳しく聞きたい」
二式葉は、眉間に皺を寄せたが、諦めたように語り始めた。
「いや、私は【召喚術】を持っていたんだ。ただ、召喚術の意味を勘違いしていた。召喚術とは強いモンスターを呼び出して、対戦する物だと思っていた。
ゲームを始めて少しして、雑魚に手応えがなくなってきた頃、取得した。
で、最初に呼び出されたのがデカイ熊だった。私は、その熊にひたすら剣を振るい続けた。全くダメージを与えられない強敵だ。そう思った。
それから毎日、熊を呼び出して戦った。最初こそ、穏やかな獣だったが、日に日に凶暴になって、こっちに襲いかかってくる様になった。
そんな事を何日が続けた時に、この称号を手に入れた。
次の日から熊は召喚出来なくなった。おかしいと思って、調べた。
自分の勘違いに気付いたのはその時だ」
二式葉が遠い目をして恐ろしい過去を語った。
何してんの? この人。その熊も災難だったな……。
「称号の効果は?」
「同一パーティー内召喚獣召喚不可」
召喚獣達から敵と見なされた訳か?
「そ、そうか。それじゃしょうがないな……」
ニケさんはギルドで参加するだろう。
残る候補は、あと一人しかいない。
「リィリーは?
昨日三位になった白ゴス」
「却下ー!」
「何でだよ!?」
「趣味が合わなーい!」
…………さいですか。
「他は知らん!」
「まだ時間はある。二人でも、鍛えれば何とかなる!」
「無理だ。オレも降りる!」
「そんなこと言わないでよ〜」
二式葉が涙目で言う。
なんかさっきから二式葉のテンションがおかしいのだが。
「鍛えようにもさ、そろそろプレイ時間が限られる時期だろ」
二式葉が首を傾げる。
「来週から九月だろう」
「あ、学生かー!」
あれ? 何だ? その驚き。
「そっかー。いいなー。学生かー」
二式葉がケタケタと笑い出した。
まさか。
ぶっきらぼうなしゃべり方と飾り気な無い格好。粗野な雰囲気。勝手に同年代の男子と決めつけていたが、勘違いだとしたら?
小柄で華奢なアバター体、声変わりしていないような声。
そして、このテンション……。
「あの、二式葉さん、酔ってます?」
「うん。
目の前でこの時間に餃子とか食べるなんて、ちょっと酷い仕打ちだよね。あ、まだ飲めない年齢かな?」
二式葉が、上目遣いでからかうような顔をする。
年上は確定か。
だとしたら……。
「まぁ、そうですね」
オレは目を逸らしながら答える。
「ん? どうした? 急にしおらしくなって」
暫し考える素振りをした後、邪悪な笑みをこちらに向ける。
「ひょっとして、君、私の事、年下の男の子だとか思ってた?」
やはり、女性なのか?
「どうなの?」
二式葉が上目遣いで顔を寄せながら、聞いてくる。
ヤバい。このままだと、主導権を握られる。
「ふーん。そうか」
と、顔を離し、元の姿勢に戻る。
そして、流したままだった長髪を後ろで束ね、メニューを開く。
二式葉の姿が、鎧からベアトップのワンピース姿へ変化する。
はい、完全に女性です。
「……何で着替えた?」
「作戦変更」
どういうことだ?
「ジン。
降りるなんて言わないで、お姉さんと一緒に闘技大会に出てよ。まだ時間はある。勝ち抜く方法を考えよう」
テーブルに両肘を乘せ、わざとらしい上目遣いで言ってくる。フルダイブに切り替えたか。
話し方も変えてきた。と言うか、これの方がリアルに近いのか?
それにしても、「お姉さん」と来たか。
「その手には乗らない」
「まぁまぁ。何か追加で注文するかい?」
「結構」
「そっか」
動揺で、頭が回らない。
と、二式葉が、席を立つ。
ゆっくりと、テーブルを半周、指を這わせながら歩き、オレの横の椅子に座る。
そして、上半身をこちらに向け、顔をゆっくり近づけてくる。
「ねぇ。お願いします。一緒に、組んで……」
近い。近い。
胸元が目に入る。
緊張か、動揺か、心臓が高鳴っている。
…………何か、言わないと。……何を……?
『ビーッビーッビーッ!』
突然、大音量で警告音が鳴り響く。
心臓が止まるかと思った!
そして、目を大きく見開いた、二式葉との間に大きなウインドウが出現する。
赤い文字で大きく『警告』と書かれている。
「どうも、運営です」
その声にオレも、二式葉も飛び上がるように姿勢を戻し、声のした方、テーブルの反対側へ顔を向ける。
そこには、ピンクのウサギのキグルミが、スーツ姿で立っていた。
「お二人共、はじめましてですね。トラブル担当AIのツキヨと申します。
お二人の行動は、ハラスメントコード『不健全行為の禁止』及び『過度な身体接触の禁止』に抵触しました。
よって、これよりペナルティを受けていただきます」
二式葉が素早くメニューを操作し、鎧姿に戻したのが見えた。そして、抗議の声を上げる。
「ちょっと、待って。接触も不健全と言われるようなこともしてない!」
ツキヨが静かに二式葉の方へ顔を向ける。表情が無くて怖いんだよ、ウサギのキグルミ。
「本当ですか? 何なら、今までのお二人のやり取りを、動画で再現しても構いませんが?」
やめてくれ。そんな姿、客観的に見せられたくない!
「ごめんなさい」
それは、二式葉も同様だったようで素直に謝った。
「あの、オレの方は一方的に迫られてただけで、被害者なんですが……」
二式葉が、オレを睨む。
「拒否しなかった時点で、同罪です。むしろ」
「ごめんなさい」
被せ気味で謝る。
「聞き分けが良くて助かります。それと二式葉さん、アルコールを摂取しながらのゲームプレイは、身体へ過度の負担が掛かる恐れがありますのであまりお勧めはいたしません。
さて、お二人へのペナルティですが……」
■■■■■
オレと二式葉は、中華屋の前で通りに背を向け正座している。
壁には、『反省中』と書かれた紙が張られている。
後ろを通るプレイヤーがクスクス笑うのが聞こえる。
『十五分間、正座の刑ですね』と、ツキヨは言った。
完全に晒し者だ。
「何で、こんな目に……」
二式葉が俯きながら呟く。
「私語は、禁止ですよー」
後ろに突然ツキヨが表れ注意する。
アレだ。修学旅行で正座させられた生徒と、体育教師の図式。
十五分後、「続きは明日だ。フレンド申請しておいてくれ」と、言い残し二式葉はそそくさとログアウトして行った。
何の続きですかね?
オレは壁の方を向いたまま【千里眼】を使って背後の様子を伺う。
そこには野次馬の人だかりが出来ていた。ログアウト!




