3.ニケ
「私はニケ。
ギルド、クラウディオスのサブマスター」
とても柔らかな仕草で腰を屈めながら手を差し出してきた。
オレを立たせようとしているその白い手を見ながら、しかし、この美人さんの手を掴んで良いのか?という、気恥ずかしさを含む戸惑いと、親切に応じない方がとても失礼ではないか?という、葛藤の末、勇気を振り絞りその手を握る。
「と言っても、キルドはこれから立ち上げるんだけどね」
オレを引き上げながらニケさんは、笑顔で言った。
「あ、ありがとう、ございます。
オレはジンです」
「ジン君。よろしく。
いきなり声をかけたりしてごめんなさい。
実は私、知ってるかもしれないけど、元βテスターなんです。
それで、初心者用に情報まとめたりβテストとの違いを調べてまとめようとかしてるんだけど、その格好!
あなたもβテスターでしょ?」
「い、いや、これは……」
オレは耳まで赤くなる。
「その、登録してみたら、既にこのアバターで……」
「え、そうなの?
ごめんなさい。
てっきりβからの引き継ぎ要素だと思ったわ。
専用カスタマイズ機能かしら?
でも、そんな装飾あったかな」
「なんか、呪いの装備みたいで、外したくても外せないんです」
「へー。呪いの装備。呪具ね。
呪いの解除方法はβでもあったはずだけど、こちらだとまだ確かなことはわからないわね。
外したいの?」
「ええ。流石にちょっと、この格好だと悪目立ちしすぎるので」
「なるほど。
それなら、NPCの防具屋さんで鑑定してもらったらどうかしら。
こっちよ」
と言って、先程オレがログアウトした防具屋の方へ歩き出す。
案内してくださるのか。
「もしかしたらヘルプの中にも情報があるかもしれないけど」
「あ、ヘルプ!後で確認して見ます!
それとどこか、人目につかないようなところ知りませんか?」
防具屋の場所は知っている事を言い出すタイミングを失い、ニケさんの斜め後ろについて歩きながら別のことを聞く。
周りの視線が気になる。
鎖巻いたイタイ奴の横に美人さんがいるのだから尚更だ。
「そうね、宿屋かギルドのホームとかかしらね。
あー、でもまだホームを持ってるギルドはないはず。
そうそう、冒険者ギルドのチュートリアルダンジョンなら一人になれるわ」
「ギルドのダンジョン?」
「冒険者ギルドの中に、初心者向けのダンジョンがあるの。
ローグ型のダンジョンで、入るのはパーティー別。
なので君一人なら他のプレイヤーには遭遇しない。
入ったら君だけのダンジョンになるの。
各フロアのスタートはセーフティーゾーンになっていて、そこから動かなければモンスターに襲われることはない。
チュートリアル用だから万が一死に戻ってもデスペナルティは発生しないわ」
「そんなところがあるんですか」
「ただし、その分経験値は低めに設定されてるわ。
アイテムドロップもない。
本当にお試し用のダンジョンね。
一応10階にフィールドボスはいるはずだけど。
あ」
防具屋のすぐ手前でニケさんが立ち止まる。
少し申し訳無さそうな顔で振り返り、
「ごめんなさい。
ちょっと呼び出しが入ったわ。
そこが防具屋だから。
ローブが売ってたはず。
それなら全身を隠せると思うの。装備できれば。だけど」
「いえ、いろいろありがとうございました。
後はなんとかなると思います」
「何かわかったら教えるから。
あとでフレンド申請しておくね。
またねー。ジン君」
小さく手を降り、ニケさんは広場の方に走っていった。
またね?
またね、かー。
あんな美人さんから本当にフレンド申請が来るんだろうか。
ちょっとニヤけながら防具屋のドアを開ける。
あーこのカッコだと、口元がニヤけててもバレないのではないか?
唯一の利点だな。




