24.運営の説明会
時刻は21時。
オレは、闘技場の客席にいる。
運営が行う、直接説明とやらを拝聴するためだ。
闘技場全体が暗転。
スポットライトが上から照らされ、姿を表したのはアレィだった。
『皆様。
昨日の闘技大会での出来事につきまして多数のお問い合わせをいただいております。
本日はその件につきまして、私達運営チームより、直接説明の場を設けさせていただきました。
申し遅れましたが、本日の司会進行を務めさせていただきますのは、この姿では初めましての方も多いかと思います。
初期チュートリアルを担当しているAIのアレィです。
どうぞ、よろしくお願いいいたします』
アレィが深々とお辞儀をする。
『ウォー』という野太い声が上がる。
照明が全点灯し、闘技場の上に現れたのは二人のAI娘、メノゥとモイカ、そして、オペラ座の怪人のような仮面をして、ピエロのような衣装を着た……氷川さんだろうな。
闘技場の中央に立つ。
『皆様! お初にお目にかかります。
C2Oの運営責任者、氷川と申します』
やはりな。こう言う茶化した演出は彼好みなんだろう。
でなければ、わざわざオレの前に姿を表し、補填だ何だと交渉してきた理由が思いつかない。
『まずは、C2Oをお楽しみいただいている皆様より、多数のお問い合わせいただいております件につきまして、こうしてご説明のお時間を頂戴できたこと、また、急な告知にもかかわらず、多数の皆様にご足労いただけたこと、運営チーム、開発チームを代表してお礼申し上げます』
氷川さんが仰々しく頭を下げる。
『現在、プレイヤーの皆様より、問い合わせいただいてる内容の多くが、先日の闘技大会に於いて、準優勝をした、ジン氏の使用しているスキルについてになります。
その一部につきましては彼のプレイスタイル、及び、攻略情報となりますので、詳細な返答は控えさていただくというのが運営側のスタンスになります。
私から言えることといたしましては、彼の行使している魔法、及び特殊な魔法の発現方法についてはどのプレイヤー様に置かれましても、取得、再現可能であるということのみでございます』
会場から小さく感嘆の声が上がる。
一度、間を置いた後に氷川さんが続ける。
『そして、彼のスキルに関して最も問い合わせが多かった【瞬間移動】についてですが』
氷川さんの姿が闘技場から消え、照明が少し暗くなる。
そして、観客席にその姿を移動、スポットライトが当たる。
席と席の間に、計十六本設けられた通路を、ご丁寧に全て瞬間移動で一周してみせた。
再び闘技場中央に戻り説明を続ける。
『このスキルに関しては、運営、開発を代表いたしまして私から謝罪を申し上げます』
氷川さん、そしてAI三人が深々と頭を垂れる。
『ジン氏が使用しておりました、【瞬間移動】のスキルは、単独で取得可能なスキルではございません』
モイカが歩み出て氷川さんに並ぶ。
『取得条件等の詳細は私共より公表することはいたしませんが、プレイスタイルにより、【技能融合】という、スキルを習得することがございます。
この、【技能融合】がどう言ったものか、ご説明させていただきますと、読んで字のごとくではございますが、複数のスキルを組み合わせて、新たなスキルを創造する、そういった効果のあるスキルとなります。
融合するスキルの各々の特性、プレイヤーによる使用方法、ゲーム内部に於けるシステムバランス等々を考慮の上、最終的にスキル合成の可否、及びスキル効果が、システム全般を管轄しているAI、モイカにより決定されます』
モイカが小さく右手を上げる。
『例えば、【火魔法】と【長剣】スキルを融合します。
モイカさん、いかがですか?』
氷川さんが左手に火の玉、右手に長剣を出現させてモイカに向き直る。
[ピンポンピンポン]と言うSEに合わせモイカが、両手で枕を頭の上に掲げる。
枕には赤で『◯』と書かれている。
ベタな演出だな。
『やりました。スキルの融合に成功しました』
と、氷川さんが右手に燃え上がる炎をまとう長剣を掲げる。
『では、次、【火魔法】と【氷魔法】、これはどうでしょうか?』
[ブブー]というSEと共にモイカが青く『☓』と書かれた枕を掲げる。
『残念。これは合成できないようです。
このような【技能融合】スキルを用いてジン氏は【瞬間移動】のスキルを完成させました』
ここで、再び氷川さんが間を取る。
『しかし、このスキルについては、先程ジン氏と直接協議の場を設けさせていただき、両者合意の上でゲーム内から削除することといたしました』
場内にどよめきが起きる。
『理由の一つは、スキル自体が非常に強力なため今後のゲームバランスを著しく損なう可能性があること。
もう一つは、モイカ、ちょっと、足を肩幅に開いてもらえないかな』
氷川さんに言われたとおり、モイカが立ったまま足を少し開く。
『このように』
と、氷川さんが言った次の瞬間、彼はモイカの下に横わたっていた。
右足と左足の間に、頭を入れる形で……。
つまり、あの位置からだと、スカートの中が、丸見えなわけで。
会場の空気が、確実に凍る。
すかざす、モイカが右手を振り下ろす。
と同時に宙に剣と槍が何本も出現し、氷川さんの体を貫く。
『ぐえぇぇ……』
と言う、呻き声を残し氷川さんのアバターが掻き消える。
客席から、小さな悲鳴が上がる。
『……と、まぁ、このように、非常にセクシャルな行為に用いられる危険性がございました。
こういった、スキルの効果に対しての様々な懸念、及び、スキル融合に対して判断を下したモイカの学習パターンが十分で無かったということなどから、総合的に判断いたしまして、瞬間移動のスキルに関しましては、現時点で唯一取得が確認されているジン氏の承諾を得た上で、ゲームシステムから削除することとなりました』
氷川さんがいなくなった舞台の上で、アレィが後を続ける。
『急な話を快く承諾してくださいましたジン氏に於かれましては、運営開発一同より、感謝と謝意を申し上げます。
プレイヤーの皆様に於かれましては、腑に落ちないところもあろうかと思いますが、未熟な運営及びAIの不手際ということで一笑に付していただけますと幸いです。
そして、今後共Create and Contradiction Onlineを、どうぞ宜しくお願いいたします』
と、三人のAIが三度、深々と頭を下げる。
一瞬の間を於いて、闘技場から拍手が広がっていく。
うーん、今の説明で納得したんですかね?
『非道いじゃないかぁ、痛覚いじって攻撃してくるなんてー!』
その空気を台無しにするように、氷川さんの声が響きアバターが再出現する。
モイカにかかれば痛覚の設定すらいじれるのか。怖い怖い。
『……死ねば良いのに』
モイカが小さく呟く。
初めて喋ったな。あの子。
『……えーっと、というわけで謝罪を終わります。
続いて!
メノゥ! 宜しく!!』
『はいはーい!』
先程までの厳かな空気が一変した。
『えー、お祭り担当、賑やかし担当のAI、みんなのアイドル、メノゥでーす!!』
右手を大きく振りながら、左手にマイクを持って闘技場中央に移動する。
『第一回、闘技大会! とっても盛り上がりました!!
続けて第二弾行きますよー!!』
左手のマイクを客席に向ける。
『おぉー』という声が闘技場を揺らす。
『次は! 団体戦。最大六人によるパーティーバトルです!!
開催は一ヶ月後!!
詳細は後日改めて告知します!!
また、ここで再会しようぜーーー!!』
メノゥが右手のマイクを高々と掲げる。
それが、運営の直接説明会の最後であり、最も歓声の大きかった瞬間だ。
団体戦か。
一緒に出る人いるだろうか。心当たりは……無いな!!




